第7話 交流
広間に村人たちが集まる。
用意された料理の数々は見た目も鮮やかで、見たこともない物が並び、ハヤテの心は高鳴った。
よく考えれば、まともな食事はこの星に来て初めてだ。そして……
「肉だ……!」
「ハヤテさんが採っていたいた果実の中に貴重なものもあって、次の交易に凄く余裕ができそうだから奮発したのよ!
でも、いいの? 食材とかみんなもらっちゃって?」
「しばらく滞在させてもらうから、その宿賃だと思ってくれ」
「わかった。ありがたく使わせてもらうね」
「さぁさぁマイアもハヤテさんも主役なんですからさぁさぁ真ん中のほうへ!」
マイアの帰還と勇者の来訪に村は活気づいていた。
村のまとめ役の乾杯のあいさつの後は、ハヤテもマイアも揉みくちゃにされながら祭りを楽しむことになる。
「いやー、すごいなハヤテさんは! あのカフェルと互角、いや、たぶんカフェル以上の戦士になる日も近いな!」
「私も見たかったなぁ……結局ハヤテさんが戦っているところ見てない……」
「ハヤテさん、そのうち姉とも立ち会ってみるといいですよー……やばいですよ……」
「そ、そうなのか?」
すでにべろんべろんになっているカフェルは妙にハヤテにくっついている。
どうやらすっかりなついてしまったようだ。
マイアの村の住人は、所謂獣人、ケモノっぽさのある人型の生物だった。
猫っぽかったり、犬っぽかったり、鳥っぽかったり、イノシシっぽかったりと、なかなか多種の生物が住んでいるようだった。
それだけでもハヤテは興味深かったが、村人が皆気持ちの良い人々で、ハヤテはその宴を心から楽しんでいた。
「マイアもハヤテさんには珍しく好意的ね~……惚れちゃった?」
「ちょっ!? 何を言ってるの!? うふふ、少し飲みすぎなんじゃない?」
「え~~じゃぁ私がもらっちゃおうかなぁ~ハヤテさんカッコいいし~爽やかだし強いし~~~」
「駄目よ!!」
にやにやにや
マイアは女性たちにおちょくられているが、周囲の高齢の住人達からもようやくマイアにも春が……なんて声が上がっている。
「ハヤテさんは王都の方の人なの? 毛がないわよね?」
「いや、俺はもっと遠くから来た。……王都には俺みたいな毛のない人間がいるのか?」
腕を絡ませ、立派な双丘をハヤテに押し付けていた女性の間にするっと割り込んだマイアが代わりに答える。
「いますよー。他にも背に羽をもつ翼人とかたくさんの形の人がいます!」
「あーーー、マイアばっかりずるーい!」
「ま、待ってくれ、あんまり押されるとそっちにはカフェルが寝て……ぬわーーー!!」
ハヤテの唇に柔らかい感触が当たる。しかしそこに寝ていたのは……ハヤテは深く考えるのをやめた。
そんなこんなで宴は盛大に盛り上がり終わりを告げる。
誰よりも飲んでいたように見えたマイアはケロッとハヤテを客人用の寝所に案内して戻っていく。
久しぶりに建築物の中のベッドに身を横たえたハヤテは、荒っぽい酒の影響ですぐにウトウトしてしまう。
この星に墜落してからいろいろなことが波のように押し寄せてきて、ワクワクで覆い隠していた疲労が一気に噴き出してきたのだ。
明日からはマナの使い方をしっかりと学んで、この星を旅する準備を整えていく。
「……やるぞぉ……」
つぶやく様な声がすると、寝息が続いた。
ハヤテの鼻に香ばしいいい香りがする。
うっすらと目を開けると窓板の隙間から明るい光が差し込んでいる。
ハヤテはゆっくりと身を起こす。その瞬間……
「いってーーーーーーーーー!!」
世界が回るような感覚と激しい頭痛がする。
ナノマシーンを入れてからはとんとご無沙汰だった二日酔いだ。
「まてまて、いてて……頼む、働いてくれ……いや、マナを使うのか?」
試しにマナを頭に集めたら、悪化した……「ぐはぁ……」何度目かの悲鳴を上げたころ部屋の扉が開いた。
「大丈夫ハヤテさん?」
「い、いや、ただの二日酔い……ぐぬぬ……」
「ああ、ちょっとまってね」
マイアはハヤテの頭にそっと手を当てる。
温かなマイアの手のぬくもりがハヤテの頭痛を幾分か和らげてくれたような気がした。
「マナよ……この者の痛みを和らげてあげて」
言葉と同時にマナが頭に集まるような気がした。先ほどのように激しい頭痛が襲ってくるかとハヤテが身構えるが、頭は優しく温まり、眩暈も頭痛も嘘のように穏やかになっていく。
「あああ……楽になった……」
「ふふっ、あとはこれ、かじって」
差し出されたカットフルーツを口に含むと爽やかな酸味が口の中に広がり、最後に残っただるさも取れていくような気がした。
「……おお、すっかり楽になった。さっき自分でマナを頭に集めたら死ぬかと思ったのに……」
「そりゃ酔ってる状態でマナを励起させたら酷くなるわよ」
マイアは呆れたような顔でハヤテの手を握る。
「戦いのときはマナを励起、刺激して元気いっぱいにする。
マナ自体に色々としてもらうときは逆に穏やかにしていくの、こんな感じ……」
マイアに握られている手の中でマナが穏やかになっていく、感覚としては粗ぶった海が鏡面のように静かになっていくような感じだ。
「静かになったマナに、お願いを書き込むような……そんな感じ。
さ、朝ごはん出来てるわよ」
握られた手を引っ張られて外に出ると……酷い有様だった。
村のいたるところに村人が潰れており、どうやったのか器用に木に干されるように寝ているものもいる。キラキラとした画像加工が付けられるものもいろんなところに落ちていて気を付けて歩かないといけない有様だった。
「だ、大丈夫なのか皆は?」
「そのうち勝手に起きるでしょ、こっちこっち」
すぐ隣の部屋に入るとテーブルの上には朝食が準備されていた。
パンみたいなものにスープ、それにサラダ、もう何年もきちんとした朝食をとっていなかったハヤテにとって久々のきちんとした朝食だった。
「カフェルは?」
「よびましたハヤテさん?」
ひょこり台所からカフェルが出てくる。
「おかわりもありますからたくさん食べてくださいね」
「これ、カフェルが作ったのか?」
「はい、姉さんが作ったと思いました? 自殺願望でもグエェツ!!」
えぐい角度でマイアの肘がねじ込まれ、宙に浮いたスープの入った鍋を華麗にテーブルに置くマイア。
ハヤテは思った。逆らうのはやめようと……
そういえば調理方法は聞いたが、調理するのはハヤテだった。
不思議には思わなかったが、もしあの時マイアに調理を任せていたら……ハヤテの背筋を冷たい物が伝っていった。
「さ、食べましょうハヤテさん?」
「は、はい。いただきます」
凍り付いたようなマイアの笑顔は部屋の温度を下げていたが、カフェルの作った朝食はとてもおいしいのであった。