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第42話 意地

「今のは驚いた……」


「秘密にしていたからね、なんとしても、今日だけは勝つ!」


 強化されたマイアの動きは野生の獣に匹敵する。

 凄まじい速度で俺の周囲をステップで翻弄しようとする、緩急をつけて華麗なステップはまるでダンスのようだ。あんな動きは俺には絶対にできない、強靭な獣人であるからこそ可能な、さらにマイアの天性の才能が可能にさせる。俺もそうだが、相手をしている側からすればまるで何人ものマイアに囲まれているようにさえ感じてしまう。

 以前のマイアなら攻撃に移る際に違和感が生じてそれに反応が可能だったが、今のマイアから違和感を感じることは不可能に近い、ステップに攻撃の起点をうまく紛れさせて突然鋭い剣戟が飛んでくる。


「くっ!」


 地面に転がるようにして攻撃を避ける。体勢が整いきらないうちに雨あられのように打ち込みが飛んでくる。地面を転がる相手に対して有効な攻撃は限られる、こんな状態からでも軍上がりの泥臭い戦闘術はいろいろな選択肢が存在する。

 お互いが円を描くように動いている中で急に相手に向かって線の動きを混ぜていく。

 それに対応するように少しづつ俺の周りで描かれる円がいびつな形になっていく。

 少しづつその円を誘導しながら闘技場の角を利用して動きを制限する。


「いつの間にっ!」


 ドンッ、と背中に壁を背負ったマイアの一瞬の迷いをつく。

 空間全てを使える状態から面を背負わせて行動の選択肢を減らす。

 牽制するようにつっかければ更に選択肢が狭まる、後は読み合いだ。

 瞬時の判断において人は自信のある選択肢を選びがちになる。

 マイアの場合は俺の左右を抜くのではなく、壁を利用して俺の上を越えようとするだろう。

 トンッと壁を蹴ったマイアの足首を、俺も飛んで掴み、そのまま決めながらマイアを地面に連れ戻す。

 グラウンドの組技は、圧倒的な場数の差がある。

 あっという間にマイアを組み敷いて、首に剣を当てる。


「詰みだ」


「……まいった……わよ……」


 悔しそうなマイアの声。

 正直勝ててホッとした、読みどおりだったからたまたま捉えられただけだ。

 もし、闘技場じゃなく草原で深い草むらなんかがあったら対応もできなかったかもしれない。


「次は、アニキ、俺と戦ってくれ」


 次はカフェル、また強敵だ……

 しかもカフェル、今日はやけに真剣な顔をしている。

 身体はいい感じで温まっている。調子がいい。


「よし、やろう」


 カフェルはロングソードにスモールシールド。一切の妥協なし、本気モードだ。

 俺も最初から全開で相手をする。

 マイアはスピードで相手を翻弄するタイプだが、カフェルはどちらかといえばじっと構えて相手の攻撃を受けて崩して一撃を与える戦闘を得意としている。

 守りに入ったカフェルを崩すのはそう簡単ではない、剣と盾による鉄壁の防御を抜くためには搦手を必要とする。

 地を這うような位置からの攻撃はその一つだ。

 盾で防ぎにくく攻撃もしにくい下方への攻撃、ラージシールドだとコレもあまり有効ではないが、小型の盾の場合は有効になる。

 今までの戦闘でもそんなにこの戦闘スタイルは見せていない。

 軍隊上がりの正道ではないから二人にはあまり教えていない。

 そもそもあまり正面から一対一の状況を作って戦うことは想定してない、相手に気づかれずに相手を始末する方法のほうが本質だ。


「くっ!」

 

 そしてカフェルはこのなれない攻撃に必死に抵抗しようとする。

 そのせいで、動きに無理が生じる。

 イラつきから雑に振り払った剣を交わして潜り込み手首を掴む。


「しまった!?」


 剣の攻撃を盾で防ぐが、俺はすでに剣を手放している。

 そのまま掴んだ手を利用して一本背負いでカフェルを叩きつけ、手首を極めてカフェルの剣を奪って首に当てる。


「終わりだな」


「……参った……くっそ……!」


 悔しそうに大地を拳で叩きつけるカフェル。

 

「もっと足を使ったほうがいいぞ、あまりに待ちに入るのはせっかく持っている能力を制限しているよなもんだ」


「アニキの変な動きを見過ぎたか……」


 変なって……お前……


「最後にお願いします」


 シーナも随分と真面目な顔で挑んでくる。

 正直、最強の敵と言っていい……

 これは気を引き締め直さないと……


 身の丈ほどもある戦斧を軽々と振り回す。

 あんなもの剣で受けたら剣が砕けてしまう、さらに、シーナは小さいので攻めにくい。

 

「いきます!」


 開始と同時にシーナは突っ込んでくる。このおもいっきりの良さとそこから振るわれる慈悲のない攻撃がかすめると背中に嫌な汗が流れる……あれ、訓練用だけど、死ぬよな……

 せめて軌道をずらすように剣で受けるだけでビリビリとその衝撃で手が痺れるほどだ。

 斧の重量と小さな体を利用して、器用にくるくると回転しながらの不断的な攻撃を俺はハリケーン斧術と勝手に呼んでいる。

 仲間だと頼もしいことこの上ないが、こうして対峙すると本当に、恐怖しか無い。

 触れれば斬れる旋風に手を突っ込まなければいけない、そういう恐怖との戦いになる。

 

「コマを止めるには上か、足元!」


 さらに体勢を低く構えてなんとか軸の付け根にちょっかいを出す。

 そのちょっかいを出す手を落とされかねないんだけどね……

 回転の軸を少し傾ければ上も下も安全ではない。

 

「それでも、光の速さで回転しているわけではない!」


 攻撃と攻撃のわずかの間隙を縫うように攻撃をして、少しでも相手のテンポを崩していくしか無い。

 一度勢いに乗ってしまえば、また暴風にさらされる。

 あの台風の安全な場所は中央だけだ。

 幾度かのチャンスに回転を止め、次の攻撃までの間に一気に0距離戦闘に持ち込む、長い柄を短く持って対抗してくるが、回転エネルギーを乗せられた一撃よりは少しはマシだ。

 剣での攻撃に掴み攻撃を必死に防御するシーナだが、ようやくその斧を弾き襟首に手がかかる。

 背後に回り込み、襟じめを仕掛けるとポンポンとタップを勝ち取ることができた。


「ぶはーーーー、しんどかったーーーーー……」


「ゲホッ! ゲホ……まいり……ました……」


 なんとか三人相手に勝利をおさめることができたのであった。

 

 

 

 

 

 


 

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