第38話 山の気候
山というものは時に魔物のように襲い掛かってくる。
一時前までニコニコと笑顔で包み込んでくれた温かさが、命を奪いに来る牙に変る。
そんな自然の厳しさに、今俺らは襲われていた。
「これは進めないな……」
本当に少し前までは斜面から見える絶景を楽しみながら進んでいたんだが、今は空は暗雲、強烈な風に揺らされて車がバタバタと揺れている。
吹き飛ばされそうになるたびにカフェルとシーナの顔がこわばって青くなっている。
アンカーを打ってあるし、この辺りは地盤もしっかりしている。
早めに強化繊維のシートも打ちつけて待機しているので風にあおられた石などが当たっても車は問題ない。巨大な落石があったとしても、この車の強度ならば問題ない。
「って理解してても少し不安になるんだから、二人はなかなか難しいよな……」
「ほら、カフェル。温かい物でも飲んで落ち着きなさい。シーナもね」
「マイアが落ち着いていてくれて助かるよ」
「ま、なるようにしかならないし、ハヤテが大丈夫って言ってるなら大丈夫でしょ!」
本当に助かる。魔道具で温めたスープを俺も受け取って啜る。
優しい味が不安によって冷やされた内臓を温めてくれているような気がする。
それはカフェルやシーナも同じようで、ゾンビのような土気色していた顔色がみるみる生気を取り戻していく。
「それにしても、本当に厳しい山だな……」
「鉱山へ向かう正規ルート以外を進む人間なんて私たちぐらいでしょうね。
あまりの厳しさに動植物もいない不毛の山なんですから」
「全く厄介な場所へ落ちてくれたもんだ……」
ゴンっ!
車体に結構大きめな石がぶつかる。まだまだ外の状態は改善してくれていない。
物資に関しては数か月籠れる量を持ち込んでいるが、先が思いやられる。
結局、この暴風が収まったのは日も傾きかけたころだった。
「こうなったら動けるときには全開で進むしかない!
舌をかむなよ!」
「「ひ、ひーーーー……」」
当然安全には考慮するが、この車の性能をフルに生かして進んでいく。
白塊、黒塊の能力も併用すれば夜間の走行だって可能だ!
こうして、俺たちは強行軍で山の気候と戦いながら救助艇落下地点、山脈の奥深くまで侵入していくのであった。
一週間もするとカフェルたちもすっかり慣れていた。
段差を拾って揺れる車内でお茶をすすって平然としてられるくらいまで慣れてくれた。
「そろそろですねアニキ」
「ああ、ようやくだ……お尻が痛い」
連日の運転で、おしりが痛いのだ。
山脈の奥深くへ進むとあまりに天気の急変が多く、車中泊が多くなってしまっている。
エコノミー症候群には最大限配慮しているが、流石に体が痛くなってきた。
山道を延々と走っているだけなので、他の3名もすっかり飽きていた。
もう回りも禿山だらけで、景色も見えないし、夜の星空もこう毎日毎日だと感動も……
そんな感じで、フラストレーションが溜まっていた。
そんな旅もついに終わりを迎える。
「……これは偶然なのか……?」
目の前には不毛の大地のはずの山脈の間に突如現れた森林地帯。
山肌から流れ落ちる巨大な滝が川を作って森林地帯を形成している。
いままでずーーーっと禿山しかなかったのに、わざわざ救助艇が着陸したであろう一帯だけ森林地帯になっているなんて偶然があるのだろうか……
おかげでぱっと見はどのあたりに救助艇があるのかを目視することが出来ない。
白塊と黒塊を上空に伸ばして着陸地点の異常を探ってみたが、時間が経過したせいか森林からその様子は見て取れなかった……
「森の中を虱潰しに調べるしかないか……」
「こんな場所があるなんて聞いたことが無かったわ……」
「しかもここ、今までの場所と比べると、温かいですね……」
「たぶん、あの噴き出している水、温泉なんじゃないでしょうか?」
「確かに、少し変わった匂いもするし、この盆地一帯の温かさを考えると、そうかもしれない」
そういわれれば巨大な滝から出る水しぶきは湯気を伴っているせいか異常に多い気がする。
「つまり、温泉があるかもしれないんだな」
「車の中で固まった私たちの体をほぐしてくれる」
「天然の温泉がこの森の中に!」
「み、皆さま?」
「やるぞ! やってやるぞーー!!」
俺たちのテンションが完全に回復した。
森林は鬱蒼としたジャングル。とても車で侵入できない。
念のために黒塊を護衛に置いて俺たちはジャングルへと侵入していく。
「なかも、温かいというか、蒸し蒸しするわね」
「植物も何か視たこともない種類が……」
「たぶん、太古の昔からここにはこの森林があって、独自の進化をしたのかもしれないな……
温泉だとすると栄養分は豊富だろうし、大発見かもしれないが、ここまでくる手段がないよなぁ……」
一部の植物の木の実などは採取していく。可能なら温室で培養してみたい。
カカオっぽい植物やバナナっぽい植物も見かけたので、俺の食生活を豊かにする養分となってもらいたい。
目新しい果実も毒性を確かめてからいろいろと試してみるが、どれも非常に美味しい。
狙ってくる動物が少ないからか、森の中の実りは非常に豊かだ。
「小動物はいくらか見て取れますが、大型の動物がいませんね?」
「鳥も色鮮やかで、美しい、本当に夢の場所みたい」
「ためしに捕らえますか?」
「いや、いいよ。ここは最低限の採取だけにしよう。
動物たちも他の場所では生きにくいだろうし」
とはいっても、密に植物が生えるこの森を進むにはどうしてもきちんとした道を作りながら進まないといけない。白塊には最初からバンバン働いて道を作ってもらっている。
自然破壊してすみません。
「おっ! 川が見えたぞ!」
どれくらい進んだろうか? とうとう森の中を走る川に到達した。
向こう岸までは20mといったところか、それなりに大きな川だ。
試しに触れてみると、ぬるま湯ぐらいの温度はある。
上流を見ると山肌の滝が広がっていて、なかなか幻想的な光景になっている。
「ハヤテ! あれ!!」
マイアの指さす先、川の対岸部分に、明らかな異質な構造物が見て取れた。
救助艇だ。




