第37話 ヴァイスタイン山脈
ヴァイスタン山脈。帝国でも有数の山岳地帯。
険しい山が連なっており、人間の侵入を拒むかのように険しい自然が待ち受けている。
平野部に近い数か所に鉱山都市を有しており、帝国の生産力を下支えしている。
今回は鉱山都市との街道からは大きく離れた小さな村からヴァイスタン山脈へと向かう。
村の人々にも非常に奇妙がられたが、まさか脱出艇を探すためとも言えず、新たな鉱脈の探索と言うことになっている。
「凄い景色だな……」
まだまだ山のふもとを進んでいるにすぎないが、そこから見下ろす景色の美しさに思わず息を飲んでしまう。広大な平野に森林が散在しており、はるか遠くに街も見える。
空気が澄んでいるせいか、はるか遠くまではっきりと観察することが出来る。
生まれてこのかた見てきた景色の中で、一番、美しいと断言できるほどの圧倒的な風景だった。
「アニキ、前を向いて運転してください!」
「お、落ちませんよね? 落ちませんよね!?」
「みんな大丈夫よ、ハヤテが大丈夫と言ってるんだから」
今、俺たちは山道を走っている。馬車に偽装した登山仕様の車で。
脱出艇をベースに様々な地形に対応可能な乗り物を作成しておいたのだった。
これによって今後の危険地帯の探索は飛躍的に楽になる。
普段は馬車に偽装も出来る優れものになっている。
元々が可変構造になっており、それを活かしつつも魔改造を施している。
そこまでナノマシンが用いられていないことが、逆にこの星では使用しやすくなったのは皮肉なことだ。
「大丈夫だよ、この車は60度くらいの斜面だって地面を捉えて登っていけるんだからっっとぉ……」
その瞬間に大きな岩を踏んで車体が大きく揺れると、カフェルとシーナの顔色が真っ青になって黙り込んでしまう。
シーナは車というもの自体が初めてだから仕方がないが、カフェルはすでに経験済みなのに情けない。
さっきから何度となく滑落しそうなほどの傾きになっても復帰していることからも安全性は確保されていることは明白なのに……
「アニキ……きぼぢわるくなってきました……」「わ、私も……」
「ちょ、ちょっとまてよ、周囲にいい場所あるか白?」
「少し先に比較的傾斜の浅いエリアがあります。右前方に200mです」
「わかった。ちょっとだけ我慢しろよー!」
俺は急いでハンドルを目的地へと切って速度を上げる。流石に急斜面で何度か車体が浮くこともあったが、急いだ甲斐もあってすぐに目的の場所へと到着する。
到着と同時に二人は車から飛び出して山沿いでうずくまってしまった。
俺も車を停車して降りてみる。
「おお、さらに絶景だな!」
「ほんとに、気持ちい―――!」
標高的には1500~2000m程だろうか? かなり急な山肌に大きな岩棚があってくれた。
山風が刺すように寒いが、それが体を引き締めてくれて気分がいい。
「目的地はもう少し登りながら回り込んでいくから、今日はここでキャンプをはるか」
「そうね、もうしばらくすれば日も傾くわね。山で無理は禁物、余裕をもって行動しないとね」
まるで世界を切り取ったかのように眼下に広がる風景を見ながらキャンプを張ることに俺は興奮していた。車を斜面に固定して、それを利用してテントを張っていく。万が一寝ている間にこの岩棚が落下しても、車は斜面をがっちりと捉えて滑落などすることは無い。
火を起こして夕食の準備を始める。この頃にはカフェルもシーナも回復して手伝ってくれた。
常に斜面に設置した命綱の側で作業をしていたが……
「いただきまーす!」
山での食事の定番と言えばカレーだ。
こっちでも様々な香辛料を組み合わせてかなり美味なカレー味を作り上げている。
それでもまだまだ探求の旅は終わらないが、それでもこのカレーは皆を魅了してやまない。
「夜空が、すさまじいですね……」
「暗くなると、半分以上が星につつまれます」
「ああ、最高の景色だ!」
「日が沈む時もすごかったわー」
大自然の美しさに当てられ、カフェルたちも調子を取り戻していた。
岩棚を照らす照明の光も山肌をライトアップしているようで幻想的な雰囲気を作り出している。
こんな場所でテーブルを広げてアツアツのカレーをかきこんでいる。
山の夜は厳しい寒さで容赦なく俺たちを攻め立てるが、きちんと準備を行ってきていれば、その山風さえも楽しめてしまう。
厳しい山籠もりは散々仕事でやってきたので、今は出来る限りの備えをして、ライト感覚の山登りを純粋に楽しんでいく。
食後はコーヒー、なぜか山ではこのコーヒーが美味しく感じてしまう。
すでにある程度の嗜好品この星で再現しているし、なんだか快適すぎて怖い。
「この星にも星座があれば面白かったんだけどね」
「前に話していた奴ですか? 星同士を結んで物語があるっていう」
「これだけ大量にあると……難しいな」
そう、とにかく星が多い! 空気も綺麗なんだろうし、周囲の星の配置にもよるんだろうが、月明かりならぬ星明りで夜歩けてしまうほどだ。
「素敵なお話ですね。この光ひとつひとつに物語があるというのは」
「俺たちにとっての星は死んでいった者たちの魂が見守ってくれている。そう教わっています」
「それもロマンチックな話だな。同時に、それだけの命が失われているということか……」
「小さな村なら食べていくのも一苦労だからねー、ハヤテが来たおかげで忘れてしまいそうだけど、私たちだってそうだったし、現に私はハヤテに出会わなければあの星の仲間入りしていたわけだし」
「俺は、この星をめちゃくちゃにしてしまっているよな……」
「アニキは俺たちの村を救ってくれて、俺や姉貴に新しい世界を見せてくれた」
「私の命も救ってもらいました!」
「ハヤテは好きにしていいと思う。この国は、みんな自由に生きていい国なんだよ!」
「そうか……ありがとう」
いまさらそんなことを考えても詮無いことなんだけど、皆の温かい言葉で救われた。
流石に風呂は無理なので、固く絞った布で体を拭いて、テントでゆっくりと休むことにする。
まだまだ先は長い。
ヴァイスタイン山脈での最初の夜は、俺を歓迎して温かく迎えてくれるのであった。




