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第34話 夕餉の香り

「と、いうわけでこの子を保護したんだよ」


 メイオンが店に戻ると見知らぬ少女が寝ていた。

 その少女の状態を見てある程度のことは理解したメイオンであったが、ハヤテたちに話を聞かないわけにいかなかった。


「なるほど……この国では珍しくもない光景ですからね。個人的にはさすがハヤテ様と言いたいところですが、何事も起きないことを祈りましょう」


 短絡的な行動に出なかったことは褒められたが、全体としては不安の種が残った。

 メイオンとしては帝国では静かに暮らしておきたいというのが本音であった。


「ただいまーってメイオン様おかえりなさいませ」


 マイアもこちらでの役目をしっかりと身に付けていた。

 大量に抱えた衣服を見て、いろいろと苦慮していたメイオンの顔もほころんでしまった。


「もー、マイアさんいくらなんでも買いすぎですよ」


「だって……その子の姿見てたら、せめてこれからわって……」


「偽善かもしれないけどな、この国には同じような奴隷はたくさんいる。

 それでも、縁あってうちに来たなら……」


「アニキ……」


「わかりました。きちんと正規の手続きを取れるよう働きかけてみます。

 その後どうするかは、その子が目を覚ましてから本人の意志を聞いてから、ですね」


「ありがとうシー、メイオンさま」


「ハヤテ様は未だに危ないですよね」


「アニキと違ってメイオン様は瞬時に切り替えるのでいつも驚いていますよ」


「流石にこの生活も長いですから……

 カフェルは帝国の空気にあっているみたいですね、かっこいい店員がいるお店と評判になって私も嬉しいですよ。それでも……マイアさんの人気にここまで火がつくとは思っていませんでしたが……」


「今では定期的に姉に怒られに来るお客さんもいますからねぇ……」


「マイアはいくら言っても誰にでもおんなじように接するから、それがいいって客がこんなにいるとは予想外だったが……」


「やっぱりマイアさんは素敵ですからね。帝国ではどちらかというと優しくて男性の後を一歩引いて歩くような方が多いですから、その、強烈だったんでしょう!」


 気が強い釣り目美人のおねーさんに叱られるというのは、プライドの高い帝国人の心の琴線に触れたらしい。

 帝国の女性は犬っぽい感じでおっとりとして、ふくよかな見た目の女性が多い。

 メイオンも珍しいが、さらに長身ではっきりとした釣り目のマイアはさらに目立つ。

 その見た目のせいで店頭に立っていたマイアに妾にならないかと声をかけた貴族が……

 あとは予想通り、こっぴどく叱りつけられ新たな扉を開いてしまったというわけだ。

 その後は噂が噂を呼び、そして同時に引き締まって少しきつい見た目でありながら、女性に優しいカフェルの人気にも火がついた。


「ハヤテ!! ハヤテのおかげでついに準騎士になれたよ!」


 ハヤテの周りにもムサい兵士だの冒険者だのが集まって人気を得ていた。


「おー! 良かったな! そいじゃ今日は夜明亭でパーっと祝うか!」


「ああ、そう思って皆に声をかけてある! 待ってるからな!」


「ハヤテさん……貴方さっき大変な厄介ごとを引き受けたはずですよね?

 夜、楽しそうですねぇ~」


「あ、そ、そのメイオンさま……なんというか勢いで……

 あ、あいつそのさっきのバルタスは長年一般兵として頑張ってきたやつで、ちょっとコツを教えてやったら伸びしろがあって、ついつい指導に熱が入って……」


「その結果ハヤテさんが正規軍に熱烈に勧誘されて……

 その後始末をしたのは誰でしたっけ……?」


「め、メイオン様です……」


「今晩は折角の祝い事です。領収書切っていいですよ」


「さっすがメイオン様!」


「アニキ、俺もさっき誘われました!」


「話がまとまるまで隠れていたカフェルさんは、ちゃんとハヤテさんが潰れないように見てくださいね?」


「ふぁ、ハイ!!」


 メイオンはすべてお見通しであった。


「この子のことは、私とマイアさんで見ておきます……

 それにしても、こんなに早くなじんじゃうんですもん、私は苦労したんですけどいいなぁ男のひとって……」


 メイオンは帝国内での土台を作るための日々を思い起こしてハヤテ達に少し嫉妬していた。

 武を示して酒を飲む。それだけであっという間にハヤテは帝国内部に馴染んでいった。

 ネコ系獣人、さらに女性のメイオンが帝国での土台を作る苦労は計り知れなかった。

 王国も、本来は色々なパイプを作ろうと注力していたが、メイオン、つまりシーラーほど見事に下地を作れたものはいなかった。

 今回ハヤテ達を帝国に引き入れることは非常にリスクが高いと言えるが、それを遥かに超えるメリットがメイオン側に存在する。王国内でのハヤテの価値は莫大なものになっていた。

 ただ利用する気はないが、ハヤテという存在を王国外へ無意味に流出させるよりもいろいろな便宜を図ったほうがいい、それが王国としてのスタンスであった。


「そ、それじゃあなるべく早く帰ってきますので……」


「ごゆっくりどうぞ」


 夜のとばりに消えていく二人の男を追い出して、女性陣は従業員を送り出してゆったりと夕食を取る。

 屋敷は別にあるが、お昼などは店舗で作って食べることもできる。


「あの子もきっとお腹空いてますよね?」


「そうね、でも目を覚ましてくれないと……」


 テーブルから心配そうに少女を見守りながら夕食を並べていく。 

 暖かなスープからとても美味しそうな香りが部屋いっぱいに広がっていく。

 少女が目を覚ました時のことを考えて、優しく消化に良いメニューにしてある。

 そして、その香りに誘われるように、少女が目を覚ました。


「す、すみません! ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」


 自らの状態が理解できずに、とりあえず身を小さくして謝罪の言葉を並べる少女の姿に、二人は怒りとどうしようもない悲しさを感じた。


「大丈夫よ、落ち着いて。ここに貴方を虐める人はいないわ」


「お腹は空いていない? 体の方は大丈夫?」


 メイオンにマイアは出来る限り優しく少女に語り掛ける……

 ようやく混乱から回復した少女は自分が置かれている状況を少しづつ理解していく。


「こ、こんな綺麗な服、そ、それにす、すみません!! 私なんかが椅子に座って!!」


 慌てて地面に土下座をする少女を二人は優しく食卓へと連れていく。

 ハヤテの施した治療によって、常に痛みを伴っていた身体が嘘のように軽くなっていることに少女は驚いていた。


 こうして落ち着いた少女と、ゆっくりと状況を話していくのであった。



 





 




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