第33話 嫌がらせ
人通りの多い道で行われている蛮行にも関わらず、誰一人関心を寄せる人間がいない。
当たり前のようにその人物は蹴られ踏みつけられる。
その人物が奴隷という立場だからだ、さらには加害者が貴族、身なりからそれなりに高い地位の貴族だからというのもあるのかもしれない。
「あ、アニキ……」
「わかってる。それでも……」
メイオンから目立つなと言及されている。
彼女の立場を考えれば、それを妨害するような行為が国レベルの話なのも分かっている。
「お客様! 店前であまりことを荒げるのはご勘弁を……」
それでも何もしないということはハヤテは出来なかった。
出来る限り穏便に、穏便に話を治める覚悟で店から飛び出した。
「あん!? 商人風情が俺様に命令するというのか!?」
「いえいえ、お願いでございます。商売人としては店先が汚れてしまうのは縁起が悪うございます。
お客様の御足も汚れてしまいます。どうか今日はこちらでご勘弁できませんか?」
ハヤテは懐から数枚の金貨を貴族に握らせる。
「ふふん……なかなか出来る商売人のようだな、ま、こんな小銭でもこのいら立ちを抑えるのには使えるだろ、そのゴミはそっちで処分しろ」
本当に奴隷に何の価値も見ていない、一瞥もせずにその奴隷を放置してその貴族は道を進んでいった。
マイアがすぐに奴隷の状態を確認して布で包んで店の奥に連れていってくれた。
ハヤテとカフェルはその場のおびただしい血痕を掃除して店の奥へと戻っていく。
「……なんかアニキ凄いですね。あんな交渉も出来たりするんですね。
ぶん殴るんじゃないかとひやひやしました」
「傭兵時代はいろいろな、それよりもマイア状態はどうだ?」
「……酷いわね……骨も折れて、見てよこの傷、昨日今日の物じゃない傷が全身に……」
マイアはその子供の惨状に目に涙を溜めながら消毒などをしている。
奴隷の子供は10歳ぐらいだろうか? ガリガリに痩せて全身いたるところに青あざが見て取れる。
さらには先ほどの暴行によって指やひじが曲がってはいけない方向に曲がっている。
本人が痛みで気絶しているのが唯一の救いと言えるが、その呼吸は弱弱しく今にも止まってしまいそうに見えた。
「白、診てもらえるか治療も出来る限り頼む」
『わかりました』
ハヤテのリングから細かな繊維状に変化した白塊が奴隷の体に広がっている。
『治療に薬物等を使用してよろしいですか?』
「出来る限りのことをしてやってくれ」
主人の意図を聞いて早速治療が開始される。
体表の数々の裂傷から体内にも侵入し、病傷部位に適切な治療を施していく。
外科的な手法もマイクロ単位の繊維による手が侵入して体表に傷を作ることなく手術を行っていく。
白塊を構成する物質は見た目のリングからは想像もできないほど多い、反重力機能がなければ人間が身に着けられる重量ではないほどだ。
その構成物質をその場で形成化合しながら医療行為を行っていく。
未来技術の結晶のような白塊の能力の一つだった。
処置が進んでいくと、細かく弱弱しい呼吸も穏やかな深い呼吸へと変化する。
体表のあざでさえもあっという間に綺麗になっていく。
もちろん骨折箇所もその日から走り回ったり細かな作業も出来るほど完璧な治療が施されていく。
『過去の傷が原因と思われる癒合不全や臓器不全も含めてすべての箇所の治療が終了しました。
対象は極度の栄養不良状態が認められるためにすぐに改善することをお勧めします』
「とりあえずこれで応急処置しておいてくれ」
ハヤテは自分の昼ごはんと卓上の水差しを指示する。
白塊はそれらを体内に取り込んで適切な形で子供の体内に注入していく。
「よし、あとは任せて大丈夫だろ」
「……なんだかよくわからなかったけど、良かった……傷もこんなにきれいになって……」
「こんなかわいい子にあんなひどい真似を……許せないっすね!」
治療して仮眠用のベッドに寝させ、マイアが着替えさせるとようやくその奴隷が少女であることが分かった。
白塊が非常に胸糞の悪い話をハヤテに伝えてきたが、ハヤテは拳を強く握りしめ、その事実は胸の奥底にしまっておくことにした。
「あの糞貴族に嫌がらせしておいて正解だった。なんならもっとひどいことしてやれば良かった……」
「アニキ何かしたんですか?」
「ああ、奴の体内に遅効性の下剤を限界ギリギリに投与してやった。
今晩は安心して眠れないぞ……クックック……」
「いつのまに……」
金貨を渡すときに黒塊が鼻から侵入して毒物を投与していた。
この方法は未来でも暗殺などに利用されていたが、ほぼすべての人間がナノマシンを注入しているためにすぐに対抗策が生まれて廃れていった。
「ここじゃぁ、まだまだ有効なんだよなぁ……」
「ハヤテがすごく悪い顔している……」
「ちょっと楽しそうだし……」
「とりあえず、成り行きとはいえこの子の服とか身の回りの物を揃えないとな」
「それなら私が買ってくるわ。お店しばらくよろしくね」
「すまないマイア、よろしく頼む」
「任せておいて、可愛い服一杯買ってくる!」
「ひ、必要な分だけで……」
そんなハヤテの言葉を振り切るようにマイアはあっという間に街に出て行ってしまった。
すやすやと眠る少女を二人は代わる代わる世話をしながら、おのれの業務を全うするのであった。




