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第32話 腐臭

 メイオンの商会は大通りから少し外れた、閑静な住宅街と言える場所に構えられていた。

 統一された建築様式を守りながら、堅牢な塀で建物を包み、美しい庭園の中に建物を据えるセンスが光っている。

 庭園内も派手さは無いが一つのテーマに沿った統一された意識で管理されていて、そこに佇む威厳のある建物との調和の具合が素晴らしかった。その落ち着いた美しさに3人は深く感心するのだった。


「メイオンお嬢様、お帰りなさいませ」


 燕尾服に身を包んだ老人がハヤテ達を迎えてくれる。

 一部の隙もない着こなしと立ち振る舞いにハヤテはこの人物が只者ではないことを感じ取っていた。


「デビス、彼らがお話していた方々です。よろしくね」


「ハヤテと申します。お世話になります」


「あっ、カフェルと言います」


「マイアです。よろしくお願いします」


「デビスです。メイオン様のお客人であれば何でもお申し付けください。

 長旅ご苦労様でした。お茶を用意しておりますので、どうぞごゆっくり疲れを落としてください」


「ありがとう、お言葉に甘えさせてもらうわね」


 なるほど帝都で新進気鋭の商会のお嬢様をシーラーはしっかりと演じている。

 ハヤテは心から感心してしまう。

 そんなデビスと館の使用人に馬車を任せて応接室へとむかう。

 応接室の扉を開けるといい香りが4人の鼻腔をくすぐる、応接間自体もセンスのいい内装と落ち着いた家具によって仕立てられた見事な部屋だった。


「いい感じの家だな。気に入った」


「いろいろな人を招くことが多いし、商人としての目利きを試される場でもありますから、そういう面でもデビスにはいつも助けられています」


 美味しそうに紅茶に口をつけながらシーラーことメイオンが答える。

 ハヤテ達も紅茶の味と香りにすっかり夢中になっている。


「帝国ではいい茶葉が手に入るんですね」


「ええ、()()()はその豊富な土地と、多様な気候によってさまざまな農作物が豊かに手に入ります」


「ごほん、そうでしたね。我が国の誇りですね」


「ええ」


 ものすごく不安そうなカフェルとマイアにもメイオン嬢はにっこりと微笑みかけるが、その瞳は全く持って笑っていなかった。


(長い年月かけて積み上げた帝国での信頼を失墜させるようなことは、くれぐれもなされないでくださいね)


 無言のプレッシャーが3人を包み込むのであった。


 一息ついた4人は今後について話し合う。

 メイオンとしての仕事は、商会としての表向きの仕事については、下の人間が完璧にこなせるようになっており、実際にメイオンでなければこなせない仕事は一部の貴族などへの対応になっている。

 どこの世界でも権力を持つ者は美しい女性に弱い。メイオンの仕事によって本来なら複雑な手続きの必要な許可が有力貴族の口添えで簡単に手に入ったり、帝国内部の重要な情報を手に入れたりすることができていた。


「ヴァイスタン山脈は普通の帝国人は足を踏み入れない場所です。そこに向かうために正当な理由がなければいけません」


「適当な理由じゃダメなのか? ある病気に効果のある植物が生えている可能性があることが分かったとか……」


「……ハヤテさん、まさしくその理由で許可を取っていたのですが、知っていたんですか?」


「い、いや山と言えば幻の花がーとか薬草がーとか幻の鳥の玉子がーとかがお約束だから言って見た」


「説得力がありながらも雲をつかむような話の方がいいんですよ。

 いまだに未踏の地が山ほどある場所なので、そういったロマンを追う人も後を絶ちませんから……

 戻ってこない人も後を絶たないんですけどね……」


「ははは、それについては山に入って人目につかない場所まで行ければ白塊、黒塊に救助艇を使えば遭難の可能性は無いから安心だな」


「ええ、積み荷に交じって持ってきたハヤテ様の乗り物があれば、我ら4人で山脈内を探索できます。

 ついでに何か発見があれば商会としては御の字です! お願いしますね!」


「そ、それは行ってみないとわからないけど……」


「アニキの乗り物での山登りは迫力満点で楽しいですからね!」


「王国でも試したけど、凄かったわよねー!」


 王国という単語を聞いてメイオンが咳ばらいをした。

 すでにハヤテ達は回収した救助艇で山脈探索の予行練習を行ってきている。

 マナの影響で各種レーダーが使えないために飛行形態での移動は制限されているが、ハヤテの持つ装備による補助によって、陸上移動であればどんな場所であっても自由自在に移動できる。

 山の探索で滑落しても緊急避難的に飛行することは可能だし、その安全性はすでに検証済みだ。

 もともと緊急時の脱出艇、しかも宇宙空間での活動を想定しているのだから、当然と言えば当然だった。

 山岳移動はナノマシンによってまるでアメーバーのように山肌に喰らいついて移動していく。

 どんな傾斜だろうが、場合によってはマイナスの角度の崖であろうが、ぶら下がって山肌を動き回ることもできる。

 ハヤテの装備によるマイクロ繊維センサーによる直接的な周囲の把握をしながら進めば、危険なクラックや滑落なども事前に把握できる。

 

「普段から変わった物を扱う商会なので、今回の話もスムーズに通って良かったです」


「その点に関してはメイオン様には感謝しかありません」


 少し芝居がかったハヤテの礼にメイオンも目じりを緩ませる。

 町で行う色々な仕事を終えて、山脈へと探索に出るのは3週間ごと決定した。

 危うい点は多々あったが、店の手伝いをしながら帝国の街でハヤテ達3人は店の手伝いをしながら穏やかに過ごしていく。

 このまま、何事も無く救助艇を回収できる。

 誰もがそんなことを思っていたころ、問題が起きてしまうのであった……




「この奴隷風情が!! 貴族である俺様の服を汚しやがって!!」


 ハヤテが店番をしている店先で、帝国では珍しくもない揉め事が起きた。

 この小さな揉め事が、ハヤテ達の前に大きな障害を作り出すことになってしまう……


 


 



 


 





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