第31話 帝国入り
そらは快晴、気持ちのいい日差しを太陽が降り注がせている。
その光を受けて緑が目に鮮やかな草原を、2台の馬車が走っている。
この時代の馬車にしては大型で引き馬も3頭の立派な作りだ。
もちろんその馬車の持ち主はハヤテ。
積荷にはハヤテの村産の様々な品が積まれている。
ハヤテ、カフェル、マイア、シーラーの4人と案内人一人だけの旅。
普通の商人なら護衛などもう少し大きな集団になるが、彼らに護衛は必要ない。
「トーラン帝国ものどかだねぇ……」
「王国よりも温暖な気候でそれでいて季節ごとの特徴もあっていい国ですよ」
「まさか俺が帝国に来るなんて……」
「ハヤテのおかげね!」
「皆さま、もう少ししますと交易都市ヴェルデンが見えてきます。そこに拠点となる場を設けてあります」
「私が帝国で作った商会が借りる形でやっています。ハヤテ様は説明した通りうちの商会の人間ということで」
「わかってるよメイオン様」
「ふふふ、お二方もどうかお忘れないように」
会話に関してはマナを介しており、国ごとに言葉が異なって苦労することが無いことはハヤテはもちろんカフェルやマイアにとってもありがたかった。
言語だけでなく生活様式や通貨なども共通な点が多い、政治体制もやや民主的な専制政治な王国と、完全な専制君主制の帝国。異なる点は、帝国では犬っぽい獣人が中心となって社会が形成されており、それ以外の獣人がやや軽んじられる。場合によっては奴隷という身分も存在している。
王国はいろいろな種類の獣人で構成されている。王自体はライオンっぽい風貌だが、別にネコ種以外を差別するようなことは無い。
「ハヤテ様に教わった場所は帝国でも有数の難所、ヴァイスタン山脈と……
ある意味もう一か所の方が大変なのですが、トーラン帝国を流れるベール大河、ミュディーネ大瀑布を指し示しています」
「大瀑布というのは?」
「ベール大河が断層部分で巨大な滝を作り上げております。その巨大な滝に包まれた場所に川底の砂が盛り上げられた島が出来ているのですが……観光地になっており、非常に人目にさらされるんですよね……」
「ああ、じゃあハヤテの船ももう帝国に見つかっている可能性が高いってことかぁ……」
「破壊は無理だろうけど……帝国に調べられていたら取り戻すのが大変になりそうだなぁ……」
「ええ、どうやら重要な機密なのか、その手の話をまだ手に入れておりません。
少しお時間をいただけるとありがたいです」
「ありがとうシ、メイオン様。それではまずはヴァイスタン山脈からか……」
「はい。ヴェルデンから南に4日ほど馬車を走らせればヴァイスタン山脈麓の村へと到着します。
ハヤテ様にはヴェルデンで少し実績を作ってもらってその村まで行商に行ってもらう手筈になっています」
「わかった。頑張らせてもらうよ」
「もともとの製品はハヤテ様考案ですから、えらそうに話しましたが……
今の王国はハヤテ様考案の者とハヤテ様の村が産出する鋼類に大きく富ませてもらいました!
帝国側への私の管理する商会もかなり……危うく疑われかけましたが、色々なことをしてなんとかごまかしました」
「そりゃそうか、出どころはどこだって話になりますよね」
「しかし、王国と帝国は冷戦状態だと思ってたんですが……」
「カフェルさんのおっしゃる通り、表立っては難しいです。
それでもケヌスを経由するとかベール大河を使ってなど、黙認状態の貿易路は存在しています」
「なるほどねぇ、シー、じゃなくてメイオン様も大変なんですね」
「俺のお目付け役になる前は、こっちがお役目だった。というわけか……」
「うふふ……、秘密です」
しばらく馬車を走らせていると防壁が見えてくる。
美しい草原に時代を感じさせる壁は雰囲気があり美しいとさえハヤテに感じさせる。
「あれがヴェルデンの街。帝国でも歴史の長い都市で、私たちの商会の本部がある街でもあります」
「綺麗ですね……」
「中はもっと素敵ですよ」
シーラーの言葉通り、手続きをして門をくぐると石畳で整備された道、その両側には統一された建築様式で作られた歴史を感じさせる白い石と据えた茶色の木材で造られた落ち着いた建物が並ぶ、美しい街並みが続いていた。
「これは……渋い、重厚な……好きだなこの街並み……」
「帝国の歴史を感じられる街ですよね……私も好きです。
帝都も古いのですが、もっと華やかですから」
「俺も落ち着いた感じが好きだな」
「私はもうちょっと華やかな帝都に興味が……」
それぞれの感想を述べながら馬車は町の中を進んでいく。
正門から伸びる中央通りとでもいうべき大きな通りは人通りも多く、人や物を運ぶ馬車の往来も盛んだ。
立ち並ぶ統一感のある店先も物で溢れており、帝国の豊かさを象徴しているようであった。
「我が国は広い国土を国が主導して農地や畜産区域として管理し、鉱山なども一括管理しているために非常に豊かな国となっています。
過酷な労働の一部を奴隷が賄っている点も、豊かさに影響を与えているのかもしれませんね」
奴隷という言葉に生粋の王国人のカフェルとマイアは反応するが、ハヤテが利用する奴隷たちの運用を見て学んでいたので、少し以前とは考え方は変化していた。
「……マイア、カフェル。帝国での奴隷の扱いに思うところも出ると思うが、堪えろよ?」
「……はい」
「……ええ」
「お願いしますね」
「ま、限界が来たら俺がきっと先に動くさ!」
「はい!」
「それでこそハヤテ!」
「はぁ……あんまり大事にはしないでくださいね……でも、そうだからこそ、ハヤテ様なのですよね」
馬車が止まる。
それは帝国におけるハヤテ達の拠点となる館に到着したことを告げていた。




