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第30話 帝国への準備

「アニキー? 誰かアニキどこに行ったか知らないか?」


 カフェルはハヤテを探して村を歩いていたが、ハヤテの姿は見えなかった。


「ああ、ハヤテ様なら地下にいるみたいだぜ」


「あっちにいるのか……」


 カフェルは地下と言われるとまっすぐに村の中央の噴水へ歩いていく。

 噴水の四方にある簡単なパズルを操作していくと、ズズズズと鈍い音を立てて一画に地下へと続く階段が現れる。カフェルは迷うことなくその階段を下りていく、その通路はきちんと照明が存在しており、その明るさは地下であることを意識させないほどだ。

 しばらくその通路を下っていき、長い廊下の先には大きな扉がある。

 カフェルは壁についた装置を操作すると、扉は自ら左右に音もなく開いていく。


「おーい! それこっちに運んでくれー!」

「おら新入り! さっさとこっち持ってこい!」

「へ、へい!!」

「どんどんもってこーい! 全然足りねーぞー!」


 扉が開くと中から騒がしい声が鳴り響く。多くの人が、働いていた。

 自分自身が地面の下、地下にいることを忘れてしまうような巨大な空間。

 空間は照明によって煌々と照らされており、永遠の昼のようだ。


「なぁなぁ、アニキいる?」


「カフェルさんじゃねーですか、ハヤテ様なら奥の建物に」


 指さされる先にはこの世界の建築とは異なる異様な箱のような建物だった。

 カフェルは建物に入り、作業をしている人々の中に目当ての人物を見つけた。


「アニキ、ここにいたんですか。シーラーさんが来ていてアニキに連絡が取れないって困ってましたよ」


「ああ、カフェルか。すまんすまん、今地下にも連絡がつくように最後のチェックしていたから……

 これで再起動すれば……よし、大丈夫だ。回線が復活した」


「ねーさんからも苦情が来てましたので、あとで連絡してくださいねー」


「悪いな。よし、一区切りついたし、上に戻るか……」


「それにしても……大きくなりましたねここも」


「ああ、やっぱり人手があると早いな。帝国とパイプが出来たのは大きいよ」


「最初アニキが奴隷を買うって言いだした時は本気でおかしくなったかって驚きましたよ……」


「いやー、なんか帝国では奴隷は結構酷い扱いを受けているって聞いて、ならうちで働いてもらって福利厚生しっかりやったほうがいいんじゃないかなーって思ってな、シーラーも法律上は問題ないって言ってくれたし」


「確かに皆楽しそうに働いてますもんねー、給与も王国でも高給取りな部類だし、労働時間は一日6時間、7日のうち2日が休みでそれ以外にも自由に取れる休日が20日、住居と食事、医療はタダ。

 ノルマを終えれば続けても奴隷から解放でも選べるし、そりゃみんな張り切って働きますよねー」


「ちょっとやりすぎてライオからほどほどになって言われてしまったんで、これで打ち止めにしておくけどな」


「でもアニキの探している物が帝国にあるからいずれはそこに行くんですよね?」


「たぶんシーラーが呼んでいる理由もそれだと思うんだけど、ってちょうど連絡が来た悪いちょっと出るね」


『ハヤテ様、連絡が取れなくて少し焦りましたわ』


「悪い悪い、もう大丈夫だ。今は村に来てるんだよな? 今上がる」


『それでは家で待たせていただきますね』


「わかった。すぐに向かう」


 ハヤテとカフェルは、最初にカフェルが地下に来たところとは別の入り口から地上部分へと向かう。

 ハヤテの地上の家へとつながるエレベーターだ。


「こちらも完成したんですね」


「セキュリティ対策をして少しづつ増やしていくつもりだから、いずれはあの噴水の入り口は外来用になる予定だし、村の四方からは地下格納庫から出撃できるようにして……」


 秘密基地を作る少年のように話すハヤテ、話の半分もわからないが、とにもかくにもアニキはすげーと聞いているカフェル。

 村は、すでに村のような何かに変ろうとしていた……


「ハヤテ様お疲れ様です。まずは先月の交易のお支払いになんですが……」


 はじめはいつもの商談から入り事務的なやり取りをしていく。

 マイアも狼の里から帰ってきてそういった事務仕事の手伝いをするようになっていた。

 一通り仕事の話が終わると、今回の通達事項へと話が移っていく。


「とりあえず奴隷の方々はわたくしの部隊に所属という形で表面上の処理はさせていただいております。

 一部の人間からハヤテ様に戦力が集まることを懸念していましたが、『戦力も何も、現状であいつはこの国ぐらい滅ぼせるんだから敵対しないことが一番。そんなこともわからんのか馬鹿か?』と父が黙らせました」


「流石ライオだが、酷い言われようだなぁ。何もないのに国を亡ぼしたりしないさ……」


「何かあれば滅ぼせるということで重ねて不平分子に伝えておきます」


 悪戯っぽい笑みを浮かべてシーラーは楽しそうに資料をまとめていく。

 カフェルもマイアも二人のとんでもない会話に肩をすくめるしかない。


「そして、今回のお話の一番大事な帝国入りについてですが……」


 シーラーは3枚のカードを取り出して机に並べた。


「この三枚が帝国民の身分証、皆様の帝国での身分を表すカードになります。

 私と同じように商人として帝国では振舞っていただきます」


「これがあればある程度自由に帝国を旅できるのか……」


「前回は火急の要件だったために必要ありませんでしたが、関所や町に入るためにはこれが必須となります。マナを利用した魔道具で偽造は不可能、ま、色々と手を使えば人間を作り出すことは出来ますが……。この間頂いた血液を利用して他人には決して使えません。無くさないでくださいね、再発行時に架空の人物とばれる可能性が少しだけあります」


「ありがとうシーラー、帝国にも2か所あるみたいだから、それを回収したらすぐに戻るよ」


「それと、当然ですが私も同行します」


「町の方は大丈夫なのか?」


「ええ、優秀な部下がたくさんいますから。それに私はハヤテ様のためにいるようなものですから」


「シーラー……それは仕事よね?」


「あら、マイア。個人的にもハヤテ様は魅力的だし、とても興味深いわよ?」


「ふーん……それじゃあ益々ハヤテの側から離れないようにしないと」


「あーら、帝国でへまして送り返されないように十分注意してくださいねぇ?

 腹芸はあまりお得意ではないですからマイアは」


 部屋の温度がみるみる低下していく。

 最近、ハヤテを巡って事あるごとにこの二人がやり合っている。

 普段はとっても仲が良いのだが、ちょっと火が付くと今回のような感じになってしまい、ハヤテもカフェルも苦笑いを浮かべるしかない。

 会議が終わるとケロっと楽しそうにお茶を囲う二人を見て、ハヤテとカフェルは同じことを考えている。


「「女って怖い」」




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