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第3話 戦闘

「凄いなこの星……」


 暖かな日差しを浴びながらハヤテは荷を引きながら草原を歩いている。

 時折吹く風は軽く汗ばんだハヤテの体を冷ましてくれる。

 ひざ丈ぐらいの草原は美しく緑の絨毯のようで花々の美しさなど目を奪われてしまう。


「いろんな星に行ったけど、ここまできれいな星は無かった……」


 シダ類苔に覆われた湿地の星、極寒の氷雪地帯、マグマが噴き出す超高温環境。

 ハヤテはたくさんの星で活動した経験がある。

 特別な装備もなく心地よく歩けるこの星は、子供のころに旅行で行った星とコロニーぐらいでしかしらない環境だった。

 

「自然の状態でこの環境なら……販売しないで所有権を主張すれば生涯安泰だな」


 宇宙開拓の夢。

 生活可能な星を見つけて所有する。

 文字通り星の支配者になり、リゾートとして一括管理すれば莫大な利益を生むことは間違いがない。

 様々な星々の人間で形成される宇宙連合でも、ハヤテ達地球人が好む環境は人気が高い。

 今のところハヤテが降りた、落ちた星は最高レベルの環境が存在している。


「……墜落するアンラッキーが全部ひっくり返るぜ」


 自分自身で発言しておいて、宇宙船がダメになった事実を思い出して少し凹んだハヤテだった。

 新造艦でしかも軍時代のつてを利用したこだわりの宇宙船だった。

 そのおかげでここまで遠いこの星を見つけられたという一面もあり、投資は無駄ではないと自分に言い聞かせながら歩き続けた。

 

 この星の自然は美しいの一言だった。

 緑に覆われた山、豊かな木々による森、草原、花畑、その全てが失われた自然、自然が自然に存在しているという奇跡の産物だった。

 

「大昔は、地球にもこんな景色が広がっていたのかな……」


 ハヤテの知る母星、地球は現在封鎖されている。

 汚染物質が除去されるまで人間は立ち入ることが出来ないほどに酷い状態と聞いている。

 そんな地球も美しい自然が存在していた時代があったと歴史の授業でハヤテは習ったことがあった。

 今では生活の基盤を宇宙空間に移し、人工的に建造したコロニーが人類の生活の中心になっている。

 地球ほど生活に適した星は少なく、かろうじて居住可能な星でも、結局コロニーを建築してその内部で生活をすることを余儀なくされている。

 様々な惑星を旅することで、所謂地球外生命体とも接触した。

 湿地に覆われた星では爬虫類のような形態の生物が存在していたり、宇宙空間を航行できるような高い科学技術を持つ星も存在していた。

 地球人たち人類は比較的高い科学技術を有しており、いくつかの星々から資材を手に入れることにも成功し、他の生命体の中でも存在感を示すことが出来た。

 その結果、宇宙空間での戦闘の禁止や、惑星の先住民などに対する非人道的行為の禁止などを基本とした宇宙憲章の制定と宇宙統一機構にも大きくかかわることが出来た。

 そうして長い時が流れて、いくつかの小競り合いはあるものの、宇宙は平和と言っていい時代を迎えていた。

 ハヤテはそんな時代に生まれ、夢を持って宇宙開拓業に足を踏み入れていた。


 しばらく歩くと草原に街道のような道が見えてきた。周囲を見渡すと地平線まで続くその道に他の生命体の気配は感じない。

 ハヤテは警戒しながらもその道沿いに進路を取る。

 明らかに何かが通行している痕跡があり、まず間違いなくこの星に他の生命体が文化的な生活をしている可能性を示唆させた。


「友好的な生物だといいが……糞多脚人みたいなのは勘弁だぜ……」


 この宇宙における機構の敵の一つが多脚人と呼ばれる人々だ。

 どんな惑星だろうが乗り込んで、先住民や生命体を全て殺して食う種族だ。

 光星間航行も可能な科学力も持っており、宇宙空間での艦隊戦も惑星での白兵戦でも機構の兵の最大の敵になっている。

 ハヤテも数え切れないほど多脚人とは戦闘をしている。

 茶色く輝く甲殻と節ばった手足は、生理的な嫌悪感を抱かせる。

 宇宙の嫌われ者だ。

 

 しばらく進んでいると日が傾き始める。

 いくつかの果実を干したものなども用意しているが、できれば保存食はそのままで新鮮な食料を手に入れたい。

 周囲を見渡すと手ごろな森があったので進路を森へと向ける。

 道を見失わないように手持ちの素材から旗を作って道の脇に立てておく。

 森はほかの場所と同じように少し探せば果実や木の実を見つけることが出来た。

 どんどん暗くなっていくので急いで火を焚いてテントを作る。

 果実と一緒にバブル湯も飲む。栄養バランス的に仕方がない。果実と一緒に飲み込めば味も悪くもない。


「日照時間がおおよそ10時間、日が沈んでから14時間ほどで日の出、綺麗に一日が24時間になっているのか、奇跡的だな……

 生活リズムが整ってありがたい。

 それにしても、なんで動物は俺を見ると必死に逃げるんだ……?」


 ハヤテは森の中で他の生物も見かけたが、やや異常なほど必死に逃げられていた。

 森に入った瞬間に一斉に鳥が飛び立ったほどだ。

 襲われるよりもよほどいいが、少し寂しかった。


「それと、病気じゃないといいが……」


 ハヤテは奇妙な感覚に何度か襲われていた。

 体中を何かが巡るような熱い感覚が走ることがある。

 ナノマシーンの故障による物だろうとハヤテ自身は考えていたが、発熱などの何らかの病気の兆候であった場合、ナノマシーンが不調なハヤテは貴重な医薬品を消費することになる。

 どれぐらいの間旅をすることになるか予想がつかない現状で、出来るだけ医薬品は保存しておきたい。

 なんとしても病気になることは避けたかった。

 

 いくつかの不安もあるが、食事はとれるし環境はとてもやさしい、寝床も快適に準備できている幸運の方が勝っている。

 シートと断熱シートに包まって、その日もハヤテは眠りに落ちていく。


 ハヤテは目を覚ます。

 何かがおかしい、ハヤテの中で警鐘が鳴る。

 耳を澄まし、周囲の雰囲気を探る。

 これは、戦いの気配だ。

 静かに警棒と盾を手繰り寄せる。そして、静かにテントから出る。

 近くは無いが、森の外で争いの気配がする。

 森を入ってすぐのところでキャンプを張っていたので、木々を利用して身をひそめながら外の様子を伺う。夜明けの光が草原を照らし始めている、まだ薄暗くはっきりとはわからないが動く影がある。

 

「……追われているのか……」


 距離としては200m程か、一つの塊がこちらの森に向かって逃げており、追ってきているいくつかの影が包囲するように位置取りをして森へと逃げ込めないようにしている動きに見えた。


「どうするか……」


 ハヤテは考える。

 わざわざトラブルに飛び込むような行動をするべきではないことはわかっている。

 しかし、次の瞬間。


【たす……けて……】


「なっ!?」


 まるでナノマシンを利用した通信のように耳元で声がした。

 気がつけばハヤテは木の陰から飛び出して追われている影に向かっていた。


(人型生物……!)


 布のようなものを被っているが、二足歩行でこちらに向かっている。


「こっちだ!」


 ハヤテが声を上げるとびくりと反応して、止まってしまった。


「こっちだ! 来い!」


 再度ハヤテが声を上げるとゆっくりとハヤテの方に向かってくる。

 しかし、後続が追い付いてしまい、その人物に何かを投げつけた。

 

「ちぃ!」


 ハヤテは一気に駆け出して人物を保護し盾で何かを防ぐ。

 ゴッ、盾に当たったのはただの石だ。

 段々と明るくなる草原に敵の姿がはっきりと見え始める。


「クソ虫野郎の親戚か!?」


 節ばった手、腕の数は多くない、両手両足4本、しかし、ギラリと光る赤い目玉に鈍く光る茶色い甲殻……多脚人と同じだ。

 ハヤテは血が沸き立つのを感じる。

 保護した人物を覆う布がはらりと落ちる。

 少し、いや、だいぶ毛深い……ペタンと折れた耳を震わせてハヤテを見上げるその姿は、動物と人が混じった様な姿の女性だった。

 

「大丈夫か?」


【だ、大丈夫……】


 なぜか声が自分の体の中から聞こえるのが不思議だし、言葉が通じるのがまず不可解ではあるものの、周囲の敵は完全に二人を囲んで攻撃しようとしてくる。

 敵の数は5人。


(スリングショットか、原始的だが、十分危険だ)


 布を使った投石武器だ。

 ひゅんひゅんと回しながら距離を取っている。

 当たり所が悪ければ、石だろうが十分に武器になる。

 すぅーとハヤテは息を吸う。

 小声で女性に話しかける。


「盾を被って身を伏せていろ、すぐに終わる」


 盾を女性に渡して、ハヤテは風のように駆け出した。

 突然のダッシュに初めに標的にした相手は石を放つタイミングを逃してハヤテに接近を許してしまう。


「ふんっ!」


 警棒を石を持つ腕の根元に振り下ろす。

 ベキリという音とともに肩口の節から腕をへし折る。

 そのまま横殴りにぎらつく眼球に警棒を叩きつける。

 ぐちゃぁと体液が飛ぶ。

 死んでいるかはわからないが、完全に無力化した。

 しかしハヤテは動きを止めずに次の敵へと走り出す。


 ヒュン


 石がハヤテの脇を飛んでいく。

 ハヤテは簡単にそれを避けて石を投げ終わった敵に襲い掛かる。

 警棒を防ごうとする腕ごとへし折り、腹部に警棒をねじ込む。

 少し硬い感覚の後にぐちゅりと砕ける感覚がすると同時に敵は崩れ落ちる。

 残りは3人、あっという間にやられた仲間の姿に恐れた一人は逃げ出し始めていた。


【ヒ、ヒィ!! 化ケ物!】


「またかよ!」


 体に響く敵の声に不快感を露わにしながら敵対する二人の片方に襲い掛かる。

 正面からの石は避け、横から狙われた石はハヤテから大きく外れる。

 恐怖とハヤテのスピードにまともに狙えていなかった。

 女性の方も気をつけていたが、敵は完全にハヤテにくぎ付けになっていた。

 

【シ、死ネェ!】


 石を捨てて短剣を振りかざして襲い掛かってきた。

 素早く短剣を持つ手を警棒で叩き落し、そのまま頭部に一撃、電光石火の攻撃に敵は全く反応できていない。


【タ、助ケテクレェ……】


 最後の一人は、腰を抜かしてしまったようで四つん這いになって逃げだしている。


「……耳障りだな……」


 キンキンと響く敵の声と、その言葉を吐く多脚人にそっくりな風貌がハヤテを苛立たせた。

 ハヤテは苦々しくつぶやく……


「さっさと行け!」


 ハヤテが怒鳴りつけると這う這うの体で逃げ出していく。

 戦闘は、あっという間に終了する。

 ハヤテにやられた3人はピクリとも動かずに絶命しているようだった。

 ハヤテは女性のいる場所に戻る。


「おい、大丈夫か?」


 返事は無い、死んでいるわけではない。

 どうやら疲労のあまり気絶しているようだった。

 

「仕方ない……」


 ハヤテは女性を担ぎ、テントへと戻る。

 

 これが、ハヤテのこの星での初めての知的生命体との出会いだった。

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