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第29話 医療

 信じられないほどあっさりとハヤテは患者であるボーリタンの前に来ることが出来て、診察を開始できた。

 帝国側からすれば、責任を押し付ける絶好の相手が現れた形になったことが一番の要因だ。

 もちろん、シーラーの帝国側での地盤づくりが盤石であったことも大きいが……


「あだまがぁあぁぁ……だずげてぇ……目がまわる、きぼぢわるい……」


「ああ、坊ちゃま……このように苦しむ時もあれば突然意識を失ってしまったり……もうどうすれば……マナによる治療も効果は無いし……」


「今こちらの医者であるハヤテ様が見てくれております。お待ちください」


 ハヤテは患者の頭に手を添えて画像診断と血液性化学検査中だ。

 白塊黒塊はかなり高度な医療行為も行える。

 即座に結果はハヤテに伝えられる。


「やはりクモ膜下出血だな、このまま治療に移る」


 くも膜下出血は頭蓋と脳の間のくも膜下部に出血が起きて脳を圧迫して起こす病気。

 原因は落馬時の外傷が考えられた。

 もしかしたら元々血管瘤が存在していたのかもしれないと白塊は伝えてきている。

 原因はともかく治療は脳を圧迫している血液の排除、それに進行形の出血が存在するなら止血、不可逆的なダメージを受けてしまった組織があるなら除去となる。

 それらの処置をすべて白塊黒塊が微細な孔から頭蓋内へと侵入して行っていく。

 溜まっている液体を迅速に排出し、周囲の血流をモニタリングして出血点を探す。

 出血点はすでに止まっていたが、補強作業も行う。

 脳組織もモニタリング、著しい炎症や壊死部位などが無いことを確認する。

 最後に後遺症や二次的な水頭症予防のために治療用ナノマシーンを注入して終了だ。

 3分ほどで処置が終わる。


「おお……頭痛が……めまいも……神よ……」


「坊ちゃま! 大丈夫ですか!?」


「揺らさないでこのまま横になって安静に、3日もすれば元通りに動けるようになります。

 よく頑張りましたね。お大事にどうぞ」


 最初の決まり事の通り、そそくさとハヤテは帰り支度を始める。

 涙を流して喜ぶ従者と患者の様子にハヤテは安堵していた。

 そして、ようやく落ち着いて帝国兵たちの姿を見回すと、王国で多く見かけるネコっぽい獣人に対して、帝国では犬っぽい獣人が多いようなイメージを受けた。


「おお、流石はメイオン様!! 今回のこと、なんと御礼を言って良いか……」


「いえいえ、いつもお世話になっております。これも普段の恩返しということで、それでは事前にも申しましたがハヤテ様は急ぎの患者を待たせている身なので、これにて失礼いたします。

 隊長様、今後ともより良い関係でいられることを祈っております」


「素晴らしいお医者様だ、待つ人も多いでしょう! 本当に感謝しかない!」


 シーラーたちはハヤテを含め素早く荷をまとめて馬車にて陣を立ち去る。

 

「これから大きく迂回して王国へと戻ります。ハヤテ様、本当にお疲れさまでした」


「あー緊張した……俺は何にもしてないんだが、あれなら後遺症もないだろ」


「今ハヤテ様は帝国と王国の全面戦争を防いだのですから」


「そうだな、あまり村の近くで戦争されても迷惑だからな」


「ハヤテ様はそういう理由で国同士の戦争を止めるのですね……器が大きいです!

 さて、尾行はどうですか?」


「もう眠らせました」


「流石お仕事が早い」


「ああ、あいつら尾行だったのか、見送りかと思ってたよ」


「私たちがいなければあの陣では何も起きなかったことになりますからねぇ。

 それにしても、あれだけ私腹を肥やしておきながら……馬鹿な人、例の物を帝都に知れるようにしておいて」


「はい。すでに手はずを整えております」


「ありがと。では、帰りましょうかハヤテ様」


 帝国滞在時間はわずか3時間ほど、周囲からの監視を十二分に撒いてからハヤテとシーラーは王国へと戻った。

 

「しかし、帝国ってのはいろいろと面倒くさそうだな」


「そうですね……貴族制度と奴隷制度、この二つがもっとも我が国との違いになりますが、特に貴族制度が国全体の仕組みに大きく絡んでいますから」


「……王国では奴隷の売買を禁止しているが、所有を罰する法律が無いよな」


「……そうですね」


「奴隷というと聞こえは悪いが……労働力としてはありか……」


「正直ハヤテ様が奴隷制度を受け入れるとは思っていませんでしたので意外です」


「傭兵だって似たようなもんだと思うし、扱い方しだいだろ労働にきちんとした対価を与えるなら奴隷もありだと思うぜ俺は、人としての尊厳をないがしろにするような扱いは、嫌悪するがな!」


「なるほど、おっしゃる通りだと思います。……奴隷、必要ですか?」


「ん? いや、人ではいくらあってもいいが、奴隷である必要はないよ。

 あまり巨大な組織になっても……ライオが困るだろ?」


「ご配慮いただきありがとうございます。でも父は面白がると思いますよ?」


「それはそれで……めんどくさそうだな……」


「流石ハヤテ様、それがわかりますか!」


 なぜか妙にシーラーが嬉しそうにしていた。

 きっと彼女はハヤテの色々な功績を報告するたびに暴走する父に振り回されて苦労をしているんだろう。


 こうして、誰に知られるでもなくハヤテは帝国と王国の戦争危機を救ったりしていたのである。

 村へ戻ったハヤテは百獣の丘から得られる豊富で潤滑な資源を利用して、村を魔改造していくのであった。



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