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第28話 時間との闘い

 場所は変わってメテオリラ王国とトーラン王国の国境付近ドノウ大砦。

 巨大な砦の存在がトーラン帝国をけん制しており、小さな小競り合いは起きるものの本格的な戦闘には至っていない。

 すでに長い年数その状態が続いており、お互いは、お互いの敵国がいた方が都合がいいという政治的思惑もあって対立を演じているという面も大きかった。


 その日、トーラン帝国の兵士が自らの勇気を示すためにくだらない示威行為に出た。


「メテオリラの腰抜け共が! そのような砦に籠って帝国の脅威に震えていないで、このメテウス公爵家次男メテウス=ライゼ=ボーリタンと戦おうという雄の者はおらんのか!?」


「坊ちゃま、おやめください! 危険です!」


 美しい白馬に跨り砦に向かって吠えているのは、トーラン帝国5大貴族の一つ、メテウス公爵。

 その次男のボーリタン、自らの武勇に多少の覚えがあった無謀な若者であった。

 通例としてドノウ大砦監視の任に一月ほど着任し、貴族として最前線で戦ったという大義名分を得る。ただそれだけのための赴任であったにもかかわらず、ただのにらみ合いにすっかり飽きてしまい、このような無謀な行動に出ていた。

 その兵士について行動を諫めているのは公爵家付の従者……

 キリキリと痛む胃を我慢しながら、次男坊の行動をとがめている。


「なにを言うか爺! 見て見ろ、わが武勇に恐れをなして何もしてこんではないか!?

 はっはっは! メテオリラ王国は我が名に恐れをなしたと父に報告も出来よう!」


 上機嫌に少しづつ砦に近づいていく。

 メテオリラ王国としても、このような挑発にのる利など少しもないので無視を、いい加減連日の罵倒に不愉快になっていた。


「仕方ない、ここまで近づかれたら牽制しないわけにもいくまい、適当に弓でも打って追っ払え。

 くれぐれも、当てるなよ」


 特になんの意もない、当たり前の指示だった。

 しかし、その指示を聞いた弓兵が溜まっていた不満を、馬のギリギリに射って脅かしてやろうといういたずら心を持っていたことは、仕方がないことだと言える。


 見当はずれな場所に落ちる矢を見てボーリタンはさらに大笑いする。


「見て見ろメテオリラ王国にはまともに弓を打てる者もおらんようだぞ!」


「あぶのうございます! どうか、どうかお下がりください」


 その瞬間であった。いたずら心で放たれた矢が、偶然吹いた風に乗って馬の顔を掠めた。

 突然のことに混乱した馬は狂乱し、大きく立ち上がる。


「ぬ、ぬわっ!?」


 完全に油断をしていたボーリタンは体勢を崩し落馬する。

 ゴッ という鈍い音ともに下にある岩に頭を打ち付ける。


「ああ! 坊ちゃま!?」


 従者がすぐに駆け寄る。ボーリタンは頭を抱えて唸っているが、すぐに怒りにその身を震わせる。


「おのれ!! 許さんぞこのボーリタンに恥をかかせおって!!」


 うずく後頭部を押えて立ち上がるボーリタン、すでに馬は自陣に向けて走って帰ってしまっていた。


「坊ちゃま! すぐに帰って怪我の治療を!」


「くっそ! クッソ!!」


 従者に抱えられ、砦を後にするボーリタンの姿に砦のメテオリラ軍は大笑いをして留飲を下げた。


 そのまま、事が済めば笑い話で済んだのだ。


 帝国軍の陣へと戻ったボーリタンは傷の治療を受けて、何の異常もない軽いけがとされ、当人も怒り治まらず自室で大暴れをしていたので誰も本気で心配はしていなかった。

 むしろ大貴族の放蕩息子がこれで少しは静かになってくれると安堵していたぐらいだった。

 異常が起きたのは翌日の朝であった。


「ずぅい……ずぃ、なりかへんなおら……、ずぅぃ、じい……」


 ボーリタンは呂律も回らず立つことも出来なくなっていた。

 再び医者による診察も受けたが、その原因はわからない物の、四肢の動きは明らかに悪くなっておりその急速な悪化に最悪の事態も考えられた。

 この報告に帝国の将は、震えあがった。

 もし、もし万が一公爵家のご子息に何か起きたら、とんでもないことが起きることは間違いはなかった。

 その状況を一通り確認した兵士の一人が、すぐに緊急の伝書鳩を飛ばす。

 大砦から最も近いこの陣にはシーラーの手の者の間者が潜んでいるのだ。

 状況はすぐにシーラーの知ることのになり、王へもすぐに知らせを送る。

 そして、彼女はすぐにハヤテの元へと早馬に跨り駆け付ける。

 この未曽有の問題を解決してくれる、一縷の望みをハヤテに賭けるしかなかった。


「ああ……くも膜下出血っぽいな」


 その願いは通じる。状況をシーラーが説明するとあっさりとハヤテはその原因を答えてくれた。

 聞いたこともない病気だったが……


「その病気は治るのですか?」


「早ければ助かる。でも、医療器具無ければ無理だぞ」


「……わかりました。行きましょう!」


「行くってどこへ?」


「次男坊の元へです」


 シーラーは、すぐにハヤテを連れて動き出す。

 

「い、いや帝国の最前線の陣だろ? 無理じゃないか? それこそ戦争になっちゃうんじゃ?」


「……私に考えがあります」


 村からドノウ大砦までは車で30分ほど、あっという間に砦まで到着する。


「シーラー様! どうされたのですか?」


 大砦を任される将校に、簡単に事の顛末を告げると、慌てて真っ赤になっていた顔が真っ青に変わる。


「も、もし何かあれば……」


「全面戦争は間違いないでしょう……そうならないためにも、通路で帝国側に侵入します」


「姫様……」


「大丈夫、帝国側にも協力者はいます」


 シーラーはすぐに大砦に秘密裏に存在する地下通路を使って帝国側領土の森の中へハヤテとたった二人で侵入する。


「シーラーさん……貴方は一体……」


「……私は父のもとで周辺各国の情報収集などを任せられております。

 帝国に侵入したことも一度や二度ではありませんし、たくさんのコネもあります」


 しばらく森で待機していると近づいてくる馬車が現れる。


「いらっしゃいますかメイオンお嬢様」


「こっちよ、今回はこちらのハヤテ様が一緒にいくわ。陣の様子はどう?」


「いやもうてんやわんや、報告するべきかどうかで喧々諤々で……

 藁にもすがりたいようで、たぶんお嬢様の策通りに進みますよ」


「良かった。さて、ハヤテ様、私はここではメイオンという商人の娘です。

 ハヤテ様は腕利きの医者ということでお願いします」


「わかった……処置自体はすぐだからささっと治すよ」


「さすがハヤテ様、それでは、行きましょうか!」


 敵陣の真っただ中、静かな戦いが始まろうとしていた。


 

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