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第17話 星の願い(具体的)

 大聖堂の大きな扉もハヤテが触れることもなく開く。

 相変らず周囲から物音一つしない。現在が異常事態であることはハヤテも十二分に理解していた。


「まぁ、敵意は無いみたいだからな」


 害意や悪意、殺気の類は全く感じられない、招かれるがままにハヤテは大聖堂の中へと足を踏み入れる。

 外観も素晴らしい物だったが、内部も美しかった。

 ハヤテにとって見慣れなかったのは、本来信仰の対象となる者が祀られている場所には巨大な山が鎮座していた。


「霊峰エヴァンクラスか……」


 露天風呂からも城の向こうに見えていた巨大な山がそこに作られていた。

 自然とハヤテの足はその霊峰のレプリカに近づいていた。


【ありがとう、来てくれたんだね】


 ハヤテの頭にあの声が響く。


「ええ、話があると言われましたので」


 霊峰からぼんやりと光る人型の塊が抜け出て山のふもとに降り立つ。


【一応この方が話しやすいだろうからね、そこに座ってくれたまえ】


「では、遠慮なく」


【突然呼び出したことをまずは謝罪しよう。しかし、こちらとしてもようやく見つけた『もたらすもの』を前に興奮してしまってな】


「もたらすもの……私のことですか?」


【そうだ、お主の体に流れる小さき物、それが我に様々な物をもたらした】


「突然のことで何が何だか……」


【順を追って話そう。まずは、そうだな我が何者なのかだが、お主たちの言葉でいうこの星じゃ】


「星……? ここの星ってことですか?」


 ハヤテは指で地面を指し示す。

 光の人はうんうんとうなずきそれを肯定する。


【お主たちが暮らしているこの星じゃが、我という生命体なのだ。巨大な……】


「天体レベルの生命体……聞いたことはありませんが、宇宙は広いですからな……」


【理解が早くて助かる。もともと外殻に覆われて周囲の落下する有機物を取り込みながら宇宙空間をさまようのが我々の生体なのだが、ある日、突然お主らの言葉で戦闘機が近くに現れたのじゃ。

 歪んだ時空から飛び出した戦闘機は、運悪く、そう、ちょうどその、廃棄物をな、出そうとしていた場所に突っ込んでな……われの体の奥深くまで取り込まれてしまったのだ。

 その時の痛みと言ったらもうな、本当に。

 あ、お主の艦艇を思わず攻撃してしまったことは本当に申し訳ない。

 過去の痛みを思い出したら反射的に、こうな……】


「……なるほど、あれほどの力を持つ生物なら私なんぞが知っているはずもないですね」


【本当に申し訳ない。話は戻すが、その取り込んでしまった戦闘機には瀕死のお主と同じような人間が乗っていたのだ。すでに大けがをしており助かることもなかったのだが、問題は、我の体内、お主らに聖脈と呼ばれている場所で人間の体内から小さき物が聖脈に取り込まれたのじゃ。

 小さき物は我の聖脈の成分を取り込んで形態を変えながらどんどんと増殖していった。

 その結果、我は我が種族が得ることが無いような高い知性と、そして人間の知恵も知ることが出来たのだ。

 聖脈、簡単に言えば我の血が流れる血管と考えてもらえばよい。

 そして、その小さき物たちはいつしかマナと呼ばれる物質に変った。

 我は戦闘機に積まれていた様々な物質が植物の種や動物の肉などであることを知った。

 そこで、外殻に植物と動物を、はじめは原始的な物じゃったが、それらを生み出し、見守っていったのじゃ】


「……その、なんていうか、凄いことを聞いてないですか俺?」


【そうじゃの、この星の成り立ちの話じゃな。まあいいじゃないか。

 それよりも、困ったのは戦闘機に、変なものが混じっていたのじゃ。それらはわしの意思とは無関係に勝手に形を成して数を増やして居る。お主たちが呼ぶパラス族という奴らじゃ。

 あいつらは地の底で我の聖脈を勝手に利用して、そしてわしが作った愛すべき者たちを意味もなく殺し始めた。ここ数百年は本当に好き放題して……

 頼みというのはあ奴らを倒してほしいのじゃ!】


「パラス族を倒せと言われましても、地下に潜ってどこにいるかもわからないのでは……」


【奴らの本拠地と、奴らを産み落としてる親玉がおる。

 そいつを倒せばいずれ全てのパラス族もいなくなる】


「なるほど……そういえば、なぜ私なのですか?」


【あ奴らは、マナを食う。つまり、マナの加護を受けて育ってきたこの星の住人だと外に出る雑魚を何とかするのが精いっぱいで、とても親玉やその周囲の強力な個体なんて相手できないのじゃ、だから外から来た『もたらすもの』であるお主にお願いしておるのじゃ。お主の体内に流れる変質する前の小さき物であれば、奴らに食われることもない】


「だからカフェルたちはパラス族が強いって言っていたのか……ほかにも疑問がある。

 たぶんその戦闘機が墜落したのは遥か昔のはず、私たちが持つナノマシンはここ最近、少なくとも100年は経過していないと思うのですが……」


【今の知識があるからわかることじゃが、その戦闘機が現れた時、時空軸にゆがみが生じておった、所謂ワープに何らかの外力が加わって時間を逆行してしまったのではないかと推測する】


「タイムワープ……まだ実現は出来ていないが盛んに研究は進められている。

 戦闘中の何らかの高エネルギー状態に様々な要因、例えばブラックホールなどの要素が重なって……

 いや、推測は意味がないな、少なくとも話には一定の理解できるところがある。

 ナノマシンは周囲の物質を用いて自己増殖したりもするし、教育機能も持っている」


【わかってくれたか】


「貴方自身に力で何とかは出来ないのですか?」


【聖脈のそばでこうやって精神に働きかけることもいろいろやってみたが、ナノマシンじゃったか?

 それをもつお主以外には今一つ声が届かないのじゃ。

 ついでに、この巨体の小さなどこかに変化をもたらすなんて細かいことは出来ないのじゃ、外にならお主の戦艦を落とすことも出来るぐらいには力を発揮できるんじゃがな】


「最後に、この話を受ける私のメリットは?」


【うむ、まずはパラス族による脅威が減って、お主が触れ合って少なからず気持ちいいと感じている者たちが幸せになる。それと、ワシの体の中で出来上がった価値ある宝石、好きなだけくれてやろう。

 最後に、宇宙船? を作ってやろう。取り込んだ戦闘機の構造と人間としての知恵を合わせれば可能じゃろう。どうじゃ? 悪い話ではないじゃろ?】


「わかりました。それではその親玉の場所を教えてください」


【ジパルス共和国の遥か南東、終わりの滝の先、空に伸びる塔の最下層にいる】


「……ぜんぜんわからん」


【少なくとも今のまま言っても殺されるだけじゃから、お主はこの星に落ちたお主の装備を取り戻すのじゃ。落下地点の詳細な地図と我との連絡などはこのタブレットで出来るようにしてある。よろしく頼むぞ】


「わかりました」


 光る人影は再び山へと吸い込まれていく。


「随分と熱心な方ですね」


 ふと気がつくと、司教風の服装の男性がニコニコと立っていた。

 ハヤテは椅子に座り祈っていたようだ。周囲にも何人もの信者が同じように祈りをささげていた。


「感心感心」


 そのままその男性は大聖堂内を見て回っている。

 そして、ハヤテの手の中にはしっかりとタブレットが握られていた。


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