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第16話 大聖堂

「いやーーーー、なんだか普段の何倍もすっきりしたなぁ!」


 最高のロケーションでゆったりと風呂に入ることが出来てハヤテはすっかりご機嫌だ。

 夜の食事は宿で用意されているらしいが、まだ時間は昼過ぎ、少し時間があるために3人は王都を軽く見学することにする。

 

「それではご案内いたします」


 周囲がよく見える幌のないタイプの馬車が宿の前に用意され、お傍付の者が案内をしてくれる。


「こんなに歓待されていいのだろうか……」


「流石アニキ、と言いたいところですが、何かを要求されるのですかね?」


「ハヤテもカフェルも考えすぎじゃない? とにかく今はせっかくの旅を楽しみましょう!」


「旅、か。確かに。マイアの言う通りだ。なるようになるさ」


 結局お上りさんな3人は王都の名所を目をキラキラさせながら存分に楽しむことにした。

 王都には大きな川が中央を流れており、生活の水源でもあり、交通の要所にもなっていた。

 町の作りも河を活かす創りになっており、美しい水面と緑豊かな街づくりは長く平和の続いている国独特の優雅さがあるようにハヤテは感じていた。

 帝国とのいざこざも王都からは遠く離れた場所で起きており、王都自体は長い時間平和に保たれている。

 

「あちらが大聖堂になります」


「これは、なんと立派な……」


「綺麗……」


 真っ白な壁に水面に反射された太陽に光が波打って幻想的な光景を作り出している。

 王国の国教は特にないが、エヴァン教が大きな聖堂を持っていた。


「この場所は川の聖脈と山からの聖脈が交わる場所と言われており、非常にマナが豊富に存在します」


「確かに……何やら大量にマナが群がってくると思った……」


「アニキ、少し押えないとみる人が見たら異常事態ですよ」


「抑えてるんだが……ところで聖脈っていうのは?」


「聖脈とはこの大地を走るマナの流れる道となります。

 いろいろな場所に走っていますが、特に太い聖脈は人々の生活の中心になることが多いです」


「そんなものがあるのか……」


 聖堂はハヤテが目を凝らすと大量のマナが噴き出していた。

 マナは周囲を包み込み、王都全体マナの濃度が外よりも濃くなっている。


「マナは悪しきものを退け、我々に活力を与えてくれる存在ですから」


「なるほどねぇ……」


 ハヤテがガイドの話に耳を傾けていると、だんだんと耳鳴りを感じるようになってきた。


(ん? マナが多すぎて酔ってきたか?)


 耳鳴りはより大きくなり、ハヤテは眉間にしわを寄せてじっと耐えるしかなかった。


【……ケタ……】


「ん? 何か言ったか?」


「いえ? どうしましたアニキ、顔色が悪いですよ?」


「汗も凄いですよハヤテ、大丈夫?」


「いや、ちょっと耳鳴りが……ぐっ」


 耳鳴りが激しくなり、びりっと頭痛が走る。


【ミツケタ……】


 何かがハヤテに間違いなく話しかけていた。

 

(誰だ……?)


【夜に……大聖堂で待っている】


(ま、待て……誰だ……?)


【頼みがある。夜に……大聖堂で……】


「ハヤテ!!」


 激しく体を揺さぶられてハヤテが目を開けるとマイアが心配そうな顔でのぞき込んでいた。

 さきほどまであれほど激しかった耳鳴りはすっかりと止んでおり、頭痛もきれいさっぱりなくなっていた。


「……どうやら濃すぎるマナに当たったみたいだ……」


「はぁ……よかった。確かにハヤテはマナに好かれるもんね」


「大丈夫ですかハヤテ様? 宿に医者を手配いたしましょうか?」


「いや、もう大丈夫だ、体質でね、マナが濃すぎるところが苦手なんだ」


「それは知りませんで、大変失礼いたしました。出来る限り早く離れましょう……

 しかし、そうすると王城もお辛いかもしれませんね、あそこは王都において聖脈の最も濃い場所ですから」


「いや、たぶん。多分大丈夫だ……」


「シーラー様にも相談しておきます。それではそろそろ夕食の時間となりますので宿の方へと向かいますね」


 宿に帰り部屋に入るとすでに夕食の準備は終わっていた。

 リビングの大テーブルの上にはハヤテ達が見たこともないような豪華な料理が並べられていた。


「これは、凄いな!」


「アニキと出会えてよかった……」


「は、はやく座りましょう!」


 席に座ると宿の従業員がグラスへと飲み物を注いでくれる。

 注がれるガラスの透明度と薄さからその価値はうかがえる。

 注がれる飲み物も美しい琥珀色、果実の豊かな香りが注いでいるだけで部屋にふわりと香ってくる。


「美味しいな……これは……」


 いろいろとこの世界で酒を飲んできたハヤテも思わずうなる味わい。

 果実の熟成した複雑なうま味とコク、飲んだ後も鼻腔を刺激する香り、どれもが一級品だった。

 

「流石は王都、食もこれだけ豊なんだな……」


 野菜、穀物、肉に魚介、魚介は流石に鮮魚は無いが、それでも村やニメセウラの街で手に入るものよりも上等なものというのは一口食べれば歴然であった。


「ある意味俺に対してこっちだって負けてないんだぞーっていう趣向返しだと考えるの自意識過剰かな……」


 グラスを傾けながらハヤテは誰に言うでもなく呟く。

 素晴らしい食事を食べながらでも、夕刻の出来事がハヤテを捉えて止まない。

 あの声の正体は何者なのか、気になってはいたが、せっかくの美味な夕食を心より楽しみたいという葛藤がハヤテを苦しめる。かと思っていたが、普通に食事を楽しんだ。


「……ちょっと腹ごなしに散歩してくる。二人はゆっくりしていてくれ」


「お気をつけて」


「いってらっしゃーい」


 沈み込むような素晴らしい寝床の感覚を楽しみながら二人はゴロゴロとしている。

 いいなぁ、と思わなくもなかったが、声の正体を確かめなければならなかった。


 ハヤテはすっかり日の暮れた王都を歩いている。

 夜でも町に出ている人の数は多く、昼間とは違った喧騒を感じる。

 ハヤテ達が滞在していたエリアは上流階級の人間の多い場所で、大聖堂は川沿いに少し王都の正門に向けて歩いた場所に存在する。

 夜でも正門から続く商店街やそのわきに入った歓楽街は多くの人でにぎわっており、この町の繁栄の度合いが見て取れた。


「……ここか……」


 昼間見た美しい輝きは無いが、街頭の光が淡く壁面を映し出している姿もまた荘厳な雰囲気を作り出している。


「……おかしいな、さっきまであんなに人の気配があったのに」


 大聖堂に近づいていくとハヤテは異変に気がつく、周囲から人の気配が感じ取られない。

 静かすぎるのだ。


 ぎー……


 大聖堂に続く鉄柵が自然と開く。


「おいおい、オカルトはあまり得意じゃないんだぜ……」


 それでもハヤテは進むしかなかった。自分自身でも感じていた。

 大聖堂で、何かが自分を呼んでいると。


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