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第15話 王都

「見えてきました。アレが王都メテオリラです!」


 ちょうど森を抜けた瞬間に眼前に広がる草原、その先に巨大な城壁が見えてくる。

 高さは5階建ての建物ぐらいはありそうな城壁は、切り出された石材が緻密に組み合わされており、どれだけの労力がこの城壁に使われたのか想像に容易い。


「これは……凄いな……」


 回り込むように正門に向かう馬車から見る城壁は圧巻の一言、見上げるハヤテの口から素直な感想が漏れる。


「ハヤテ様にそう言っていただけると嬉しいですね。驚きもされなかったら少し悲しかったので良かったです!」


 マイアとカフェルは驚きのあまり口をポカーンと開けてただただ巨大な城壁を見上げて言葉一つ発せなかった。その姿があまりにそっくりなので二人はやっぱり姉弟きょうだいなんだなとハヤテは笑ってしまった。


 正門の前には王都へ入る検査のために長蛇の列が並んでいたが、脇の扉の前で一団が止まると守備兵が訝し気に誰何をしに来た、シーラーが何かを兵に見せると兵の態度が一変した。


「こ、これは!? し、失礼いたしましたどうぞお通り下さい! 

 ……あ、あの……」


「どうしました?」


「よ、よろしければ握手していただけませんでしょうか?」


「ええ、私でよければ」


「あ、ありがとうございます!!」 

 

 シーラーと握手をしてその兵はぽわーっとした顔でブンブンと手を振りながら見送ってくれた。

 

「流石シーラーさんはお綺麗ですから有名なんですね」


「あら、ハヤテ様にそんなことを言われてしまうと照れてしまいますわ、ちょっとこっちで知られているので……騒ぎになると困るので少し変装しますね」


 そういうとシーラーは手慣れた感じで布を巻き付け顔も姿も隠すような服装になる。


「私の毛色はお父様によく似ておりますので……」


「なるほど、美しい黄金の毛並みは町を見ていても珍しいですからね」


 王都内の活気は街とは比較にならなかった。

 大通りは人波が絶えず、立ち並ぶ商店の売り子の声が木霊する。


「いい雰囲気ですね。もっと王都というからお高い感じかと思っていました」


「この辺りはそうですね、一般市民向けのお店ですから、もう少し王城へと近づくとそういう店も増えてきますよ? そして、あの見えてきたのが王城になります」


 街並みがふっと途切れて噴水を中心とした広場に出る。

 同時にその広場の正面の通りに王城が姿を現した。

 落ち着いた美しさ、時代と実用的な堅牢さが高いレベルで交じり合った、所謂渋い城の作りにハヤテは大いに引き込まれていた。


「これは、素晴らしい。ぜひ絵にしたい……」


 ハヤテはその姿をノートに記したくてうずうずしていた。


「まずは宿にお連れして、数日は自由に行動できます。

 色々と予定もありますが、多少時間が取れるようにいたしますわ」


「ご厚意感謝いたします」


「「あ、ありがとうございます」」


 きょろきょろと街を見回して、完全にお上りさんとなっていたマイアとカフェルもハヤテに続いて慌てて頭を下げる。


 しばらく馬車が進むと町の喧騒は穏やかなものになり、道も石引の立派な物へと変わっていく。

 見るからに建物の質も上がっており、道行く人の服装や雰囲気も上品な物へと変わる。


「この辺りは王とでも富裕層が生活する場所です。見えてきましたね、あそこが王都での滞在場所になります」


 周囲の建物も立派だったが、その建物はひときわ目立っていた。

 過度に絢爛な装飾ではないが、わかるものにはわかる粋な趣向がいたるところに凝らされていた。

 ハヤテも思わずほぉっと感嘆の声を上げる。


「この王都で最も歴史の古い宿ですよ、居心地は……実際に感じてください」


 内部に入ってもまさに上流階級の住む世界。

 一応間に合わせに整えた服装はしてきたが、カフェルもマイアも恐縮しきりだった。

 部屋に案内されてさらに驚いてしまう。

 3人で過ごすには大きすぎるたぶんこの宿でも最上級の部屋が用意されていた。


「ここまで歓迎されると逆に怖いですな」


「ふふっ、父はなかなかに鼻の利く人物なんですよ。

 私としてもハヤテさんと会ってもらうのが今から楽しみです。

 それではみなさん、ごゆるりとお過ごしください。

 今日はもう予定はありませんので、町を見るのもゆっくり過ごされるのもご自由です。

 何かあればお傍付をつけますのでそちらにおっしゃってください。

 また明日、マイア様、ドレス楽しみですね」


 さわやかな笑顔を残してシーラーが部屋から出ると、マイアとカフェルは掴んでいたハヤテの裾から手を離して恐る恐る室内を見て回っていく。段々と慣れてくると、その設備にきらきらと目を輝かせながらハヤテに報告をしてくるようになっていく。


「アニキ! お、お湯が出ます!」


「ハヤテ! ベッドがベッドが私の部屋より大きいぞ!」


「アニキ! マナコンロですよ! 初めて見た……」


「ハヤテハヤテ! バルコニーにも風呂があるぞ!!」


「わかったわかった。二人とも少しは落ち着けって」


「あ、ああ、しかし、流石はアニキだな。こんな部屋俺はおとぎ話の中にいるみたいだぞ……」


 普段はどちらかと言えば冷静なカフェルもまるで子供みたいにはしゃいでいる。


「まぁ、一応俺も式典などには出ていい場所は見たことがあるから……

 自分が使う側になるとは思わなかったけどな」


 ハヤテが知るどこぞの立派なスイートなどは科学技術によって利便性を最大限に高めていたが、ハヤテはこの場の方がよっぽど気に入っていた。

 造詣のすばらしさ、時代、時間を感じる建造物、その全てがハヤテには美しく見えた。


「とりあえず、長旅の汗をしっかりと流しますか」


 部屋の間取りは6LDK、小さなキッチンにダイニング、リビングそして寝室が4か所、フリーの部屋が二つ、さらにトイレは3か所、風呂はバルコニーに露店風呂、それと室内にきちんと湯を貯められる浴槽が一つ備えられていた。

 マイアは室内の浴槽を使い、カフェルとハヤテはバルコニーの風呂を使った。

 この世界では貴重な石鹸も用意されており、空が開け、町の情景を見下ろすことが出来る風呂はハヤテを大いに喜ばせた。



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