第12話 夜風
シーラーとの出会いからハヤテの行動範囲は町のあたりまで広がることになった。
村から卸される商品の秘密に興味津々だった商会や職人たちは毎度毎度ハヤテ争奪戦を繰り広げることになった。
「ハヤテ殿、今日こそはうちに顔を出してください!」
「いやいやうちの工房にぜひ遊びにいらしてください! 今なら打ちたての長剣3本サービスします!」
「いやいや、それならうちは焼き立てのパンを3週間お付けします!!」
あまりに毎回争奪戦が酷くなるのでシーラーに相談して事前持ち回り制にしてもらうほどだった。
ハヤテはお世話になっている恩はきちっと返すタイプなので、改善案や新しいアイデアなどを惜しみなく街でも出して行くことになる。
村よりも人数が多い街への技術や知識供与はさらに加速していくことになる。
村人たちと同じように町の人々の生活も満たされていくのに時間はかからなかった。
平和、まさに繁栄と平和が訪れていた矢先に、事件は起こった。
カーンカーンカーンとけたたましく警鐘が鳴らされる。
「敵襲ーー!! 森から狼と、ぱ、パラス族が向かってきているぞ!
町の外にいる者はすぐにでも町へ! 門を落とすぞー!!」
衛兵の声が町中に響く、拡声器もハヤテのアイデアだ。望遠鏡も無駄にはならず、視力強化が出来ない獣人でもかなり遠方の情報を得ることが出来るようになっている。
町の周囲の街道にいた人々は急いで町の防壁の中へと入っていく、周囲を確認して門が落とされ、敵を迎え撃つ準備が完成する。
「柵を下ろせー!!」
防壁の上から馬防柵が下ろされる、ハヤテ考案の馬で突っ込んだら串刺しになっちゃうよ、タイプの柵で木材で組まれており、その禍々しい見た目に比べると重量も軽い。敵の勢いで地面に木が食い込んで受け止めるという形態をしている。
パラス族はなんと狼に跨って騎乗兵のように襲ってきていたが、防御の準備は万全で迎えることが出来る。
「弓兵! 投擲兵! 構え!! 打て―!!」
事前に同じ角度に同じように放つことを訓練しておくことでエリアに一斉に矢の雨とスリングを改良して槍を飛ばす形にした飛槍が降り注ぐ。
点で狙うのではなく、面で攻撃を加える。
命中精度は高くなくても、どれか一つでも当たればいいという防衛の方法も、ハヤテの指導の下に強力な防衛力になっている。
この時も15体ほどの群れで襲ってきたパラス族の半数以上が致命傷を受け残り半数もその機動力を奪うことに成功していた。
無傷で防壁まで到達した者たちも、柵によって行動を阻まれ、壁の上からスリングショットと弓の的になって散っていった。
「おお……おおお!! やったぞ! 被害なしでパラス族の集団を殲滅したぞー!!」
「うおおおお!!!」
防衛線の結果は大勝利、人的な被害は0。柵を一つ半壊した程度で敵を壊滅させた。
「……と、いうことがありまして。本当にハヤテ様にはなんと御礼を言っていいか」
そして今ハヤテ達はシーラーに歓待を受けているというわけだった。
「しかし、敵を倒したのは町の衛兵の皆さんなわけで俺は別に……」
「なにをおっしゃるか! ハヤテ殿が考案した戦い方はまこと素晴らしい!
今まで近づかせてから岩などを落として対応するか、あたりもしない弓を放つばかりだった自分たちがお恥ずかしい……」
そういいながらハヤテに酌をしているのが衛兵長だ。
「それに、投擲武具に馬防柵も、まさに効果覿面!
どれだけの戦場を超えてくればあのような叡智を得ることが出来るのか……」
「はは、まぁ、色々と……人殺しの知恵なんて……褒められたものではありませんけどね」
「それは違いますよハヤテ様、今回貴方様の知恵は私たちの生活を、人を守ってくださったのです。
いたずらに我らを襲う敵から救ってくださったのです。そのように言われては悲しいです……」
「そ、そうですね。なんにせよ、被害がなかったことを喜びましょう」
シーラーのはかなげな表情としぐさにハヤテも慌てて取り繕うしかなかった。
「さぁさぁハヤテ殿! 器が乾いておりますぞ! ほかの方々も飲んで飲んで!」
「それではハヤテ様、私がお酌を……」
「ああ、すみません……」
シーラーは優雅な手つきでハヤテのグラスに酒を注ぐ、その美しいグラスも村の特産品の一つだ。
街でも生産が始まっているが、色とりどりの美しい紋様は村の熟練の技術者でないと再現出来ずにいる。それも街の技術者たちの努力で差はいつの日か埋められるだろう。
そういうわけで、ハヤテ、マイア、カフェル、それに村の技術者の方々はそろってとてもいい夜を過ごすことが出来た。
幾分飲みすぎたハヤテは酒席の場から抜け出し、気持ちの良い夜風の入るテラス部分で星を見上げながらグラスを傾けていた。
「あら、主役がそのような場所で飲まれていると、何かお気に召さない事でもありましたか?」
その傍らにシーラーが寄っていく、歩き姿までもが品があり、そして独特の色気があるようにハヤテは感じていた。
「流石はお姫様ですね。所作に優雅さがある……それに、隙が無い……」
「ふふふ……ハヤテ様は何でもお見通しなのですね」
シーラーの所作振る舞いは完璧すぎた。それは言って見れば歴戦の戦士のソレに近いほどだった。
「本当は俺の監視、国の害になりそうだったら排除ってところかな?」
「……否定はしませんが、そこまで強硬な手段はよほどでなければ取りませんよ?」
「で、どうなんだい俺は、シーラー姫様のお眼鏡にはかなったのかい?」
「そうですね。ハヤテ様は悪意を持って行動なされたことは一度もありませんし、なんというか、生活自体を楽しんでおられます。それに、問題があっても、私程度では相手になりませんね……」
「そこは買いかぶりすぎじゃないかい? カフェルもそうだけど、この星の人間は強者ぞろいだねぇ……」
「星……ですか……空に輝く星々、この星……」
「ま、隠す事でもないけど、俺は、あの光り輝くどっかの星、まぁ見えないかもしれないけど、はるか遠くからやってきたんだよっと」
「天空の星から……素敵なお話ですね……冗談……では無いのですよね?」
「ああ、だから俺はこの星の人間と違って耳はこんなだし、体毛はこうだし、それに尻尾もない。
最近空から落ちてきたって不思議な物の話聞くだろ?
あれも俺の仕業なんだよ」
「……どうやら私はとんでもない人の調査を頼まれたのですね。
しかも、ここまで話していただけるとは思いませんでした」
「なんかさ、もう、この星で生きて、そして老いて死んでいい気がしてきたんだよねぇ……
みんなと仲良く、ここには俺が手に入れたかったものが、当たり前のように存在していて、そして何より、人間たちが気持ちがいい。皆の役に立てることは役に立って、ここでの人生を楽しんでいきたいんだよね」
「ふふふ……ハヤテ様は本当に不思議なお方なんですね。
……個人的にも興味がわいてきましたわ」
最後のつぶやきは気持ちの良い夜風に消えてハヤテの耳には入ることは無かった。
それぞれの夜が更けていく中、マイアの背筋に冷たいものが走って、何かの気配を感じたとかなんとか……




