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第11話 シーラー

「まずは情報からだな……」


 ハヤテは鉄の鋳造に用いた炉を応用してガラス細工用の炉を作成する。

 ガラスの原料はどこにでもあるものだが、加工するとなると高い技術力が必要となる。

 ハヤテが作ろうとしているのは望遠鏡だ。

 望遠鏡は簡単に言えば接眼レンズと対物レンズを筒の中に入れて組み合わせただけ、簡単な物なら作るのはそんなに難しくない。

 それでも肉眼に比べれば遠方の情報を正確につかむことが出来る。


「……カフェル、そういう話は俺が望遠鏡の話をしたときに教えてくれないか……」


 ガラスを作る炉を作り、苦労しながらもレンズを作成し、不格好ながらも望遠鏡が完成して、それを覗き込んだカフェルの第一声は……


「これならマナを使った視力強化の方が綺麗に見えますね」


 だった。

 この村の街への特産品がまた一つ増えるのであった……

 ナノマシンにも視覚補助機能があるが、視力低下を改善させるぐらいで、望遠鏡レベルの拡大は難しい。マナを利用した視力強化は簡単に言えばマナによってレンズを作り出してそれを覗いているようなイメージだった。


 ガラス細工修行中にも村の拡張は進んでいる。

 町との盛んな取引を聞きつけて人も増えてきているようだった。

 ハヤテは新しい人が多く住むなら戸籍を残したほうがいいのではないのか? と提案し、村長は早速そのシステムを取り入れていた。

 すでにハヤテは木材を利用した、まだまだ粗雑なものだが、紙の生成を確立していたことが大きい。

 

「こんな産業革命みたいなことしていいんかな、いまさらだけど……」


 未開の地を勝手にいじくるといろいろと罰則が存在するのだが、現在は非常事態。

 遭難時は生命の保護が優先される。といいな。とハヤテは思っている。


「そういえば講習も軍隊時代に鍛えた、まるで起きてるように寝る技術を全開で聞いていた(聞いていない)から細かな規定とか覚えてないなぁ……テストは過去問と一緒だし、元軍人で免除事項も多かったし……開拓者から債務者兼遭難者になったと思ったら重犯罪者になるのはごめんだぞ……」


「ハヤテさーん、言われたところから黒い液体がでてきましたー」


「おお! これで石油製品も作れるぞ!」


 利用できるものは、なんでも利用するタイプの男であった。


 百獣の丘の情報はあまり集まっていなかった。外部から観察できる場所は普通の森と何ら変わりなく、奥深くに入り込むことで狼たちの恐ろしさを身をもって知ることになるのだろう。

 流石にそんな危険な橋は渡れないので、今は村の発展に努めてしまっている。

 その結果、やりたい放題になっていた。

 王政を布いている一地方の村が、オーバーテクノロジーの商品を排出していればあたりまえの結果と言えた。


 マイアが慌てた様子で家に戻ってきたのは、何でもない穏やかなお昼時だった。


「ハヤテさん! 王都の使いが!」


「え……?」


「今村長が対応してるけど、きっとハヤテさんも顔を出すことになると思う」


「……そりゃそうだわな……」


 ハヤテはこの国についても少し聞かされていた。

 王政といっても粗末なもので、大きな街ぐらいしか把握しておらず、王都関わりなく暮らす村は山ほどあるそうだ。もちろん王が把握している町は税を納め、そのかわり王の元の強力な軍隊の庇護を得られる。穏やかな施政が執り行われており、平和な国だと聞いていた。


「突然打ち首とかはないだろ……たぶん……」


「何の話かな……税金払えとかかな?」


「うーん、たぶん街におろしている品々の話とかじゃないかな?」


 それから程なくしてマイアの予想通りハヤテが村長に呼ばれる。


「し、心配だから私もついていく」


 マイアと一緒に村長の屋敷へと向かう。


「アニキ、それに姉貴も来たのか」


 村長の家で迎えてくれたのはカフェルだった。


「今応接室で話してるよ。俺が連れていくことになってるからついてきて」


 コンコン。

 部屋の扉をノックすると中から扉が開かれる。


「ハヤテを連れてまいりました」


 カフェルがきりっと整えた文言で答える。TPOをきちっとわきまえているようだ。


「ハヤテさん、すまんねご足労頂いて」


 村長がハヤテの姿を認めると軽く頭を下げてくる。

 村長と言えども村の恩人であるハヤテには敬意を払ってくれている。


「失礼します。お呼びということで参りました」


 ハヤテは部屋に入ると周囲を伺う。兵士風の男が二人、それに上座に座っていた人物が立ち上がりながら挨拶をしてくる。


「お初にお目にかかる。この村の賢者ハヤテ殿ですね。お会いできて光栄です」


「け、賢者?」


 差し出された手を無碍にも出来ないので握手に応じる。美しい毛並みの細い手がしっかりとハヤテの手を握ってくる。

 その人物は女性であった。

 金色に近い被毛、気品を感じる上品な目つきに整った顔立ち、すらりとしたスタイルは女性ならため息が出てしまうほどに整っている。


「賢者というよりは風来坊なのですが、ハヤテ・サカキバラです」


 その女性はまじまじとハヤテの全身を見つめる。


「本当に毛が無いんですね頭にしか……耳も変わった形……あっ失礼しました。

 私この近くの街、ニメセウラに赴任してきましたシーラー、シーラー・メテオリラと申します」


 ハヤテはメテオリラという名前に聞き覚えがあった。

 この国の名前がメテオリラという。


「メテオリラ……」


「ええ、いちおう王族の末席にはいますが、まぁ、端っこの方なのでお気になさらず」


 朗らかに笑うその美しい女性らしいしぐさに思わずハヤテの顔もほころんでしまった。


「いでっ!」


 マイアは笑顔でハヤテの足を踏みにじっていた。


「そちらは……?」


「ああ、えっとただの友じイデェ! えっと、あの……、お世話になっているマイアさんです……」


「おお、カフェル殿の姉君ですね。なるほどお美しい方ですね」


「えっ? いや……そんな、お美しいなんて……シーラー様に比べたら……」


 そういいながらも身をよじらせてまんざらでもなさそうなマイアである。


「私にはこちらに友人もいないので仲良くしてください」


「あ、はい! こちらこそ……」


 シーラーの方が何枚も上手なようだとハヤテは理解した。同時にマイアのちょろさも。


「ところで私が呼ばれた理由は何でしょうか?」


「ああすみません。思わぬ出会いに興奮してしまいました。

 実は、最近王都の方にも流れてくるこちらの製品が噂になっていまして。

 話を聞いていくうちにハヤテ様の見識のお話を聞きまして、ぜひご挨拶をしたいと思いまして参った所存にございます」


 王族の末席とはいえ高い身分でありながら、一介の平民、さらには辺境の村人にきちんと敬意をもって接することにハヤテはシーラーの人柄の良さを感じずにはいられなかった。


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