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第1話 墜落

SFのつもりで書き始めています。

 ヴィーーーーーー!! ヴィーーーーーー!! ヴィーーーーーー!!


【緊急事態発生! 緊急事態発生! 乗組員は速やかに脱出ポットへ移動してください!

 本艦は墜落いたします!

 繰り返します!

 緊急事態発生! 緊急事態発生! 乗組員は速やかに脱出ポットへ移動してください!

 本艦は墜落いたします!】 


 船内にけたたましい警報音と緊急事態を伝えるコールが繰り返されている。


「クッソ! 何が起きたんだよ!」


 一人の男が真っ赤に照らされた廊下を駆けている。

 激しい振動が廊下を揺り動かして、何度も体勢を崩すが、見事な身体能力で恐ろしい速さで目的地へと駆けていた。

 黒髪、ソフトモヒカンにサイドは綺麗に剃りこんでいる。

 体つきは無駄な脂肪など一切ない鍛え上げられた肢体。

 188㎝の長身に110kgの体重でありながら体脂肪率は11%、数多の危険な戦場を生き抜いてきたその肉体は頑強さと柔軟さを兼ね備えている。


 男の名はサカキバラ・ハヤテ。

 28歳元軍人、現在は墜落しつつある宇宙船ラッキーストライクの船長だ。

 

「ようやく手つかずの惑星を見つけたって言うのによ!」


 宇宙を旅して居住可能な星や資源を持つ惑星を見つけて開拓し、巨万の富を夢見る惑星開発業者の一人だ。

 この世界で一発逆転を夢見て危険な仕事に就いた初めての航海での不運な事故。

 この仕事をする人間にとっては珍しくもない事態。

 それがたまたま最上の星を見つけた直後に訪れただけであった。

 

「くっそー!! 退職金も借金返済計画もこれでパーかよ!!」


 ハヤテは軍隊で最も危険な部隊で10年間一線で働き続け、そして幹部への道を提示されるとスパっと軍をやめて宇宙開拓業界へと飛び込んだ。

 糞上司たちに苛め抜かれた経験から、絶対にこんな上司みたいになりたくないという強い意志と、未開の宇宙空間へと挑むこの業界にロマンを感じていた。

 元々軍隊へ入ったのも惑星開発業者になるための経験と資金稼ぎのつもりだったが、何の因果か彼には軍人として類まれな才能が存在し、それを軍隊という組織が磨き上げたのだ。


 幾度のコールドスリープを経て、ようやく前人未達の新惑星を発見し、その惑星の分析を開始するために偵察艇を送り込んだ。そこまでは幸運としか言いようがない平穏な旅であった。


 しかし、現実は現状である。


 偵察艇からの情報を、今か今かと待ちわびていたハヤテの乗る艦艇は、激しい衝撃に襲われ、軍役自体のつてを使って巡航艦クラスの砲撃にも耐えるシールドを持つはずのラッキーストライクは、墜落へと向かっている。


 ようやく脱出ポッドにたどり着いたハヤテは飛び込むようにポッド内へと乗船し、すぐに射出の準備を始める。


「細かな設定は後回しだ! 出発する!」


 すでにほかの物資はいくつかのポッドに分けて射出している。

 体内に流れているナノマシンを通じて各ポッドと本艦と一瞬で情報をやり取りしている。

 軽いGを感じながら宇宙空間に射出されたポッドが映すラッキーストライクの映像は、おおよそ信じられるものではなかった。


「う……嘘だろ……」


 全長1キロほどの中規模艦であるラッキーストライクの後部、推進装置部分にえぐり取られたかのような巨大な孔が開いていた。

 戦艦の主砲でも撃ち込まれたかのような惨劇にハヤテは言葉を詰まらせる。

 そして、即時爆発しなかった幸運に感謝をした。

 しかし、次の瞬間、すさまじい爆発とともにラッキーストライクはその艦艇を宇宙に霧散させる。

 一部は宇宙を飛び交うデブリと化すだろうし、いくつかの船体は惑星の重力に引かれ、無数の炎の塊となって大気の層で消し炭にされてしまうことだろう……

 その爆発の衝撃は、すでに惑星への突入状態に入っていたハヤテの乗るポッドに襲い掛かる。


「うお!!」


 激しく揺さぶられる船内で必死に体勢を修正する。

 なんとか大気圏での消滅の危機を回避したハヤテであったが、船体の異常を知らせるアラームがナノマシーンを通して鳴り響く、同時に探査艇から一部調査状況が伝えられてくる。


「外気は対応可能か! 水も緑もある宝の山じゃねーか!

 くっそ、死んでたまるか!! なんとか着地させるしかない!!」


 即座に地表データを分析し、すでに推進力を失ったポッドをイチかバチかで着陸させる場所を計算する。


「アクエント星のトカゲ野郎たちの時も似たようなことがあった! 出来る! やるぞ!」


 コントロールを失っている船体を手動で無理やりに墜落方向を変えていく、目標は湖、万が一にも可能性があるとすれば水上着陸しかないとハヤテは判断した。


「着陸なんてしろもんじゃねーけどな! さっさとまがりやがれーーー!!」


 緊急時の手動操縦桿がハヤテの剛力によってギシギシと悲鳴を上げている。

 ほぼ自由落下となっていた船体が僅かに空気を掴み、垂直落下から斜め方向への落下へと変化していく、それでも地表にたたきつけられれば瓦礫と死体になることは疑いようもない。

 歯を食いしばり操縦桿を捻じ曲げる勢いで力をさらに加える。


「あそこだ! あそこに突っ込みやがれ!!」


 目の前に頼りない大きさの湖がある。

 贅沢を言っていられる場合ではない、なんとしてもそこに墜とすしかないのだ。


「いい子だからあと少しだけ上を向いてくれー!!」


 食いしばる歯が割れるんじゃないかというぐらい力を込めた時、進入角度が湖に達する状態になる。

 時を置かずに目の前に迫る水面。激しい振動と同時に、激突したポッドの内部に緊急衝突時の救命装置が発動する。

 ポッド内が大量の泡によって瞬時に満たされすぐに硬化する。

 セーフティバブル。

 エアバックの進化版のようなもので、泡に包まれていても呼吸を妨げず、衝撃吸収能力も非常に高い。

 強い衝撃には非常に強いが、ゆっくりと力を加えるとバリバリと割れてくれるので内部の人間が自力で脱出することも救出することも容易にできる。あと、食べられる。


 すさまじい衝撃、揺れ、回転、天も地もわからなくなるほどよく混ぜられ、ようやくハヤテへの攻撃は収まってくれた。

 もしもハヤテが軍隊での経験と訓練を経ていなければ、身を護ってくれた泡の内部は吐しゃ物で満たされていただろう。


「……生き残って……くれたみたいだな……」


 深刻な外傷はどうやらおってはいないようだった。ナノマシンがハヤテに自身の体の状態を教えてくれる。


「なんか、調子が悪いな……」


 視界がゆがむ、流石にあれだけの事故の後だと目に見えない影響があるのだろうとハヤテはゆっくりと緩衝材を割っていく。

 ポッドの外壁は大きくはじけ飛んでおり、青空がハヤテを迎えてくれた。


「……呼吸も出来る……青空に、緑、木々も自然もある……これは……大当たりじゃねーか!?」


 基本的に惑星開発は第一発見者に権利が発生する。

 宇宙政府に連絡を取ってこの惑星の座標を登録すればハヤテは初めての航海で巨万の富を得られるのは間違いがない、だめになった宇宙船なんて何台も買えるほどの金を手に入れることが出来る。


「ほかのポッドを探して通信機器を……」


 ナノマシンを介しての通信をしようとした瞬間、世界が回転した。

 正確には突然体の自由が利かなくなりハヤテは大地に突っ伏してしまったのだ。


(な、何が起きた……)


 ナノマシンが反応しない。

 いくらコマンドを出そうが、一切の反応がない。

 それだけではなく、身体の自由さえ効かなくなっている。


(ヤバい! 呼吸が……意識が……)


 生体に異常があるとナノマシンは生命活動を最優先させる。

 しかし、何らかの理由でナノマシンが機能不全を起こしただけではなく、どうやら体の活動を止めてしまっているようだった。


(まずい、まずい……もう、意識が……)


 視界が白けてくる。思考する意識も薄れていく、ハヤテが死を意識したとき、血脈がカッと熱くなる。


「カッハ! ゴフっ! はぁーー!!」


 呼吸が戻ってくれた。

 同時に白んでいた視界がクリアになっていく。


「な、なにが……起きた……?」


 ハヤテは自身の体に起きた変調を確かめようとナノマシンを呼び出す。


「? 反応が……?」


 しかし、いくら呼び掛けてもナノマシンが起動することは無かった。

 他のポッドの位置情報や偵察機への連絡も全て機能しなくなっていた。


「マジかよ、どんな過酷な環境でも故障したことが無かったのに、こんな大事な時に……」


 ハヤテはとりあえず現状を把握することを第一とした。

 ポッドが落下した場所は湖のそば、湖面を跳ねて今は近くの木にポッドが激突している。

 外壁はめちゃくちゃで、よく自分が無事だったと冷静になって改めて思ってしまう。

 地面にもすさまじい衝撃で激突した爪痕が残っている。

 

「とりあえず、使える物を取り出すか……」


 脱出用のポッドには緊急用の備品が常備されている。

 全てのエネルギーが落ちて爆発などの心配が無いことを確かめてから、機体を漁っていく。

 セーフティバブルは万が一の食料になるので近くの木々を適当に摘んでその上に集めていく。

 

「これだけか……まぁ、ないよりはましか……」


 無事に回収が出来たのは携帯食料10日分、エネルギーカッター、救護ボックスが3セット、検査端末と工具一式。

 これだけだった。


「ナノマシンが動いてない今、医療品は生命線だからな……

 レンジャー訓練受けといてよかったな……

 二度とやりたくはないが……」


 ナノマシンの機能を停止させて森林部を一か月かけて踏破する地獄の訓練。

 あまりの過酷な訓練に精神を病んでしまう人間もいるという、軍隊の中でもごく一部の人間しか通過していない訓練だ。民間出の人間が軍の最上部に入るならこの訓練を越えなければならない。


「ま、俺は興味本位で受けただけなんだが……」


 そして、民間人として史上18人目のレンジャー訓練通過者となった。


「どうやらこの惑星の光星は日没があるみたいだし、夜に備えないとな……」


 これだけの自然があれば、当然他の生命体も存在しているだろう。 

 それらがハヤテにとって好意的である可能性はむしろ低いだろう。


「まずは、湖の水を調べて、木々を使ってベースを作るか……」


 目標としては、生活基盤を整えて落下したポッドを探して救難信号を出す。

 可能ならばこの惑星の登録をする。


「しかし、地球に似てるな……この星は……」


 大地に生える草花、木々、そして頬に触れる風。

 ハヤテの故郷である地球の高級観光地の“自然”環境にそっくりだった。

 軍の仕事で様々な星々の自然と触れ合っていたが、こんなにも優しく穏やかな自然は初めてだった。


「これは登録出来たら億万長者間違いなしだな」


 ハヤテの野望にも再び火が付いた。


 水質の分析結果を待つ間にエネルギーカッターを利用して木々を伐採加工していく。

 日が出ている間は太陽光でエネルギーを貯めることも忘れない。

 

「パワー的にはナノマシンの補助が入っている感じだな……ほんとにどうなってるんだか……」


 切り倒した木を担ぎながらハヤテは考えていた。

 ナノマシンによる肉体への補助下では、生身の体よりも能力が向上する。

 ナノマシンとの接続は一切できないが、その補助はされているという奇妙な状態だった。

 生身でも丸太を引きずるぐらいはハヤテもできるが、正直補助があることはありがたかった。


 黙々と作業を続け、湖の水が飲水に耐えるということが判明したころ、小さなプレハブのような建物を作り上げていた。


「流石にドアはしばらくははめ込み式だな」


 内側に板を閂のようにはめ込んで扉を塞ぐ作りになっている。

 救護ボックスを一つ開けて保温シートや食器類を取り出す。

 水を沸かせる容器なども入っているので湖の水を煮沸して利用する。

 ろ過してどんな泥水だろうが飲み水に出来るキットもあるが、いざというときのために取っておく。

 一度利用すると1週間ほどでだめになってしまうからだ。

 セーフティバブルをお湯で溶いたまずい栄養を取るためだけの液体を流し込んで、大地に身を任せる。


「星がきれいだな……」


 すっかりと日が暮れて頭上には満天の星空が広がっている。

 もくもくと家づくりをしていたハヤテの気持ちはすっかり落ち着いていた。

 美味しい空気に最高の星空、遭難した身ではあるものの、いくつかのツールまで使える。


「レンジャー訓練よりもめぐまれているしな、何とかなるだろ」


 迷彩服一式とサバイバルナイフ。

 レンジャー訓練はその状態で森に放置される。

 そして、森を抜けろとだけ命令される。

 ほぼすべての物を現地調達で賄わなければならない。

 食べられるものは草の根だろうが虫だろうが何でも食べて耐え抜く訓練だった。

 先ほどから虫の音も聞こえてくる。森を探せば彼にとっての食材も豊富に存在しているだろう。


 近くの木々で燻した室内の煙が落ち着き、換気を済ませた後に、部屋で横になる。

 このひと工夫で虫の害が格段に減る。

 サバイバル生活で怖いのは虫と感染症だ。

 保温シートで身を包み、ハヤテの未開拓惑星での最初の一日が過ぎていくのであった。

 

 





 


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