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窓からのお誘い

作者: 柊 椎九

 ただいま8月13日水曜日。

 未成年の青春、夏休みの真っ只中である。

 時刻は午後3時を少しすぎたあたり。

 窓は少し開いていて微風が入り込む。

 微風とともに聞こえてくるのは軽快で涼しげなピアノの音。

 となりの家の窓も少し開いているのだろうか、いつもより音が大きく聞こえる。

 彼女はいつも決まって2時半からピアノの練習を開始する。

 1分のズレもなく2時半。

 几帳面な彼女らしいきちんとした決まりごとだ。

 せっかくの夏休みだというのに友達と遊びに行きたくなったりしないのだろうかと思うが、そっくりそのまま返されてしまうことに気づき、思考は霧散する。

 そもそも彼女と違って自分は習い事をするでもなくただ時間を潰すのに忙しいだけなのだ。

 あぁ、ダメだダメだまた集中力が途切れている。

 少しは彼女を見習うべきだろう。

 机の上に置かれたハガキに目を戻す。

 ハガキには夏を思わせる風鈴の絵が背景画としてあるが、肝心の中央のスペースはまっさら。

 別に作文が嫌いなわけではない。

 だが、隣の家に送る暑中見舞いなどなにを書けばいいのかわからない。

 そもそも暑中見舞いなんてものは会えない人へ送るものなんじゃないのか。

 そう文句を言いたいのはやまやまだが、机の上にもう一枚存在を主張するハガキは、今朝に郵便ポストに投函されていたもの。

 送られてきたら返すのが礼儀であると母に命じられ、机に向かったのは2時ごろ。

 一文字たりとも進まないのはいかほどか。

 窓から漏れてくるピアノの曲が変わった。

 門前の小僧はなんとやら、毎日聞くうちに彼女が練習している曲の種類も順番も覚えてしまった。

 練習終了まであと半分といったところだ。

 仕切り直しに机の上のアイスに手を伸ばすが、とっくに空だ。

 そもそも彼女は暑中見舞いになにを書いていたのだったか。

 丁寧な字で名前がかかれた面を裏返し、彼女ならのメッセージを確認する。

 背景画は元気な向日葵。


「元気ですか?どうせ貴重な夏休みを無意味にすごしてることでしょう。どちらにしろ無駄な時間なら、私に文章でも書いてみたらどうかしら。なんとポストに入れる必要がないわ。窓は開けているのだから」


 ...?!

 気づけばピアノの音はいつもよりかなり大きく聞こえる。

 半信半疑で窓に向かうと、たしかに向かいの窓は半分のその半分ほど開いていた。

 こちらから手を伸ばし、もし向こうからも手を伸ばしてくれたら...

 手段はわかった。

 ではわたす時間は?

 当然。練習が終わるタイミング以外ない。

 では終わる時間は?

 これもわかる。

 生真面目な彼女のピアノの練習時間は1時間。

 あまり時間があるとは言えない。

 だが、書きたいことは既に決まった。

 アイスの空をゴミ箱に放り、ペンを取る。

 カリカリとペンの走る音がピアノの疾走音と重なり、少し気持ちが良い。

 悔しいが彼女の音は、自分にとって良い背景音のようだ。


「もちろん元気です。僕の人生をどう無駄にしようが僕の自由なので、口添えは勘弁願いたい。でも、そうですね、あまりにも僕のこの時間が無駄だとあなたが言うので、明日は海にいくことにします。ただ、1人で海は寂しいし電車に遅れそうだ。だれか生真面目なパートナーが欲しいなぁ」


 ピアノが鳴り止んだ。

 窓の前にたつ。

 はたしてそこに彼女はいた。

 ハガキを読んで、彼女ははにかんだ。


「いいわよ。アイス奢ってくれたらね」

アイス要素がかなり無理矢理になりました

時間は1時間7分くらい

感想くれるとありがたいです

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