第2話 偽りの王
①この作品は著者による完全オリジナルストーリーです。
②この作品はトランプを使用したトレーディングカードゲーム(著者オリジナル)です。
???「あなた、そのトランプが見えるのね?」
モデル体型で黒髪ロングの、そしていかにもミステリアスなオーラを漂わせてるような女性が俺に話しかけてきた。
南伊「これのことか?」
???「ええ」
南伊「このトランプのこと、知ってるのか?」
???「ええ。」
南伊「このトランプ、普通じゃないよな。教えてくれ、なんなんだこれは。」
???「これは選ばれし者たち…『語り人』のみが参加の許されるTCG『JORKER』用のトランプ。故にその他の人間にはこのトランプは見えないわ。」
南伊「…俺がその選ばれし者の一人だっていいたいのか?」
???「ええ、その通りよ。」
南伊「…そのトランプで俺にどうしろと言うんだ?」
???「戦うの。あなたのすべてを賭けて。」
南伊「は?」
何言ってるんだ。こいつ。
???「このトランプの世界は大富豪そのものよ。勝ち続ければ富を得て、負けを重ねれば貧しさに飢える。」
???「あなたはそのゲームに参加しなければいけない。そのデッキを手にしたからにはね。」
南伊「…拒否権は?」
???「ないわよそんなの。」
まさかの自由権剥奪。
南伊「…じゃあこのトランプ燃やして捨てるか。」
簡単なことだ。
強制参加でも媒体さえなくしてしまえば意味がない。
俺はポケットに入っていたライターに火を灯す。
そしてその火をトランプに近づけようとした瞬間、
ーードクンッッ!!!
突然、激しい痛みが心臓を襲う。
南伊「うっ……!!」
???「無駄よ、もうあなたとそのトランプは切っても切りきれない赤い糸で繋がっているのだから。」
南伊「何おかしなこと言っているんだ。アンタは。」
???「当然よ。だってこれは呪いですもの。」
南伊「呪い…?」
???「ええ、あなたはそのトランプの所持者である限り、その遊戯と呪いを一生背負わなければいけないの。」
南伊「…。」
???「でも大丈夫、あなたが勝ち続ければ富を…、」
南伊「…興味ない。」
???「え?」
南伊「そんなものには興味ない。」
???「へぇ、何故?」
南伊「俺には何もないからだ。」
???「…どういう意味かしら。」
南伊「そのまんまの意味だ。」
南伊「俺には何もない。故に得るものも失うものもなく、ただ無の存在でしかないからな。」
???「あなた、言っていることが矛盾してるわ。私にはあなたがみえる。そしてあなたはそのトランプを手にしている。」
南伊「それは違う。」
???「何がよ?」
南伊「それはあんたが勝手につくった認識という飾りを付けているだけだ。そう、あんただけがそう見えているだけ。」
???「これは共通認識よ。誰か見たってトランプを持ったあなたしかみえないわ。」
南伊「それはあんたの思い込みであり、錯覚だ。」
???「私はあなたと哲学をしてる暇なんてないの。よそでやって頂戴。」
南伊「俺だって疲れる。こんな飾りものだらけの世界は。それで用はそれだけ?」
???「ええ。どうぞお帰りください。ただし…、」
ーータッタッタッ。
後ろから足音が聞こえる。
???「あなたがゲーム勝ったらだけれど。」
霧島「見つけたぜ。ナレーター!
俺の名は霧島拓哉だ!よろしく!
…truth!!」
???「or…」
真、それとも…。
南伊「…fake。」
偽。
真か偽か。
俺はそのどちらでも……。
次に目を開く時には目の前にテーブルがあり、その上にトランプだけが置かれていた。
それ以外は真っ白な空間で何もなかった。
ただあるとすれば、向こう側に人が一人だけ…いた。
霧島「んじゃ、始めようぜ。」
南伊「俺は…秋瀬 南伊。…よくわかんないけど、とりあえず勝てばいいんでしょ。あとよろしく。」
霧島「初心者か。だが手加減なんてしないぞ!」
南伊「ごめん、その前に15秒ほど時間もらえる?」
霧島「ん?…ああ、いいぞ。」
許可をもらって俺はすかさずルールブックを開き速読する。基本的には大富豪みたいな感じか、なるほど。ポーカーやダウトみたいな要素もあるわけだ。勝利条件は7つある相手のライフポイントを0にしたら負け、が基本ルールらしい。ゲーム次第で他にもあるということか。
南伊「お待たせ。ルールはだいたいわかった。」
霧島「うわぁマジか!でもそれくらいじゃなきゃ張り合いないよなぁ!」
霧島「俺のクロニクルは♠︎の6だ。」
クロニクル。それはゲーム開始時に自分が1枚だけカードを選択し、ゲーム中そのカードを引いた時にプレイヤー特有のスキルを発動することができるカードのこと。このゲームにおいてそれが逆転の一手となるかもしれない…らしい。
南伊「俺のクロニクルは♢の9。」
まずお互いに5枚山札からカードを引く。そして手札のカードを任意の枚数山札に戻し、戻した分だけまた引き直せる。その際、戻そうとするカードを言わなければいけない。ただし…。
霧島「俺は♢の4、6、それと♡のJを戻すぜ。」
戻したカードは偽物でも構わない。
しかし…、
南伊「ダウト。♢の6じゃないね、それ。」
ダウトのカードをめくると、♠︎の5だった。
霧島「うっ…!あ、当たりだ。俺は♢の6を戻せず墓地へ。そして2枚カードを引く。」
偽ったものにはそれなりのリスクがあるということ。
当然だ、嘘をついているのだから。
ペナルティとして霧島は3枚引くはずだったが、2枚しか引けなくなった。
南伊「俺は♢のJ、K、♡のAを戻す。」
霧島「だっ…ダウト!ハートのA!」
ダウトのカードを確認。今度はハートのA、俺が宣言したカードだった。
南伊「残念。君の初回ドローフェイズはスキップだ。」
霧島「くっ…!なんで♡のAなんか、そんな貴重なカード戻すんだよ!」
南伊「今は必要ないからだ。」
霧島「何考えてるかわけんねーよ!
先行!♣︎の2を戦場に。ターン終了!」
さっそく敵が感情を乱してる。
南伊「俺のターン、ドロー。」
さて、どうしようか。
相手は手札は2枚しかないが、その代わりいきなり最上級クラスの「2」を出してきた。これを破るカードは…。
南伊「うん、こいつでいけそう。♡と♤の3を戦場に。」
霧島「ほぅ、同じ数字が手札にあったか。」
そう、基本的に戦場には1枚しかカードを出せないが手札に同じ数字がある場合はそれら一度に出すことができる。
霧島「だが、最弱な「3」のカードが2枚並んだところで「2」のカードには勝てないぞ!」
南伊「…どうかな。」
南伊「バトル。♡の3で♣︎の2にアタック。このとき俺は手札の♣︎の8と♠︎の7をコストに効果発動。」
霧島「ま、まさか…!」
南伊「八切。♣︎の2を墓地へ。」
八切と言えば大富豪でお馴染みの8のカード特有の効果。このゲームではバトル中に発動すれば、どんな相手だろうとそのバトルに勝てる、というルールらしい。
南伊「さらに♠︎の7の効果発動。クラッシュ。バトル成功で貫通、相手に追加1ダメージ。」
♠︎のカードはバトル中にコストとして手札から墓地へ送り、そのバトルに成功した場合相手のライフを1削る特殊能力…クラッシュをもつ。
霧島「くっ…!」
南伊「さらに♠︎の3で直接攻撃。
…FIRE。」
ーーバリィン!!
霧島のライフゲージが減るとともに破裂音が響いた。
霧島「つ、強い…。こいつホントに初心者かよ…。」
南伊「ターン終了。さあ、次はお前のターンだ。」
霧島「お、俺のターン…。……ふっ。」
霧島はニヤリと笑った。
霧島「今日の俺はついてるぜ。クロニクル!!♠︎の6!!俺はクロニクルのスキル①の効果を適応。カードをさらに2枚引く!!」
霧島「俺は♢と♣︎のAを戦場に!バトル!この2枚で♡と♠︎にアタック!」
今ので俺の場が何もなくなった。しかし俺のライフはまだ無傷。
霧島「ターン終了。」
南伊「俺のターン。♠︎のKを戦場に。…ターン終了。」
霧島「俺のターン。もう何もできないだろうよ。何たって俺の場には高パワーカードが2枚もあるんだからな!」
南伊「……。」
霧島「ほぅ、だんまりか。でも容赦はしないぜ!」
霧島「♢の5を戦場に!♢のAで♠︎のKにアタック!」
南伊「ガード。♠︎の9。9のカードの特殊スキル。完全ガード。これによりこのターン中俺の♠︎のKは破壊されない。」
霧島「やるな…。ターンエンド。」
南伊「俺のターン。ターンエンド。」
霧島「(…こいつ一体何を考えているんだ…。)」
霧島「俺のターン!もう一度♠︎のKにアタック!」
南伊「♣︎の9。9のスキル、完全ガード。」
霧島「また完全ガードか…。ターンエンド。」
南伊「俺のターン。きたか。」
俺が引いたカードは♢の9。つまり…。
南伊「クロニクル。♢の9。俺はクロニクルのスキル②を適用。墓地のカードを2枚サルベージ(手札に回収)。サルベージ対象は♠︎の9と♣︎の9。」
南伊「…ターン終了。」
霧島「守ってるだけじゃ勝てないぜ!俺のターン!手札の♡と♢の6を捨て、6のスキル発動!お前のKを破壊!」
霧島「これで完全ガードはできなくなったぜ。バトル!俺の場のカード4体で直接攻撃!FIRE!!」
ーーバリバリバリバリッン!!!
一気にライフゲージが4つ削られた。
あと残り3か。やばいな。
霧島「ターン終了だ。前言撤回、やっぱお前弱いな。」
…なんなんだよ。どいつもこいつも。強いだの、弱いだの。
頭いいだの、馬鹿だの。
金持ちだの、貧乏だの。
イケメンだの、ブサイクだの。
どいつもこいつも…誰の許可を得て勝手に形容してんだよ。
俺はそんな飾りつけてくれって、
頼んだ覚えなんてねぇんだよっ!
南伊「俺の、ターン!!」
それは俺が生まれてはじめて表に出した感情かもしれない。少なくともそう自覚したのははじめてだろう。
その感情に答えるかのように引いたカードは…。
南伊「『JORKER』…。」
それはスペルの違うjokerだった。
いや…、これは、こいつはもしかして…。
南伊「ははっ…。そういうことかよ。」
気づいてしまった。
こいつは…俺と同類だ。
JORKER。これはただの誤字ではない。このRには理由がある。
Rはroyal(王家)の頭文字をとったもの。しかし本来こいつには飾られていない称号。
さらにjokerの頭文字は王家jackの頭文字と同じだ。
そしてトランプの大富豪においては何者にもなり得る最強の僕。
そう…こいつは『かつて王家jackに成りすまし、その後王の座に君臨した暗殺者。』。
しかしこの華はほんの一瞬しか咲かず、自分とかつて同じ立場だった奴に暗殺されて生涯を終えた。
みたわけでも聞いたわけでもない。
だが、不思議なことにそれがわかってしまう。カードから次々と情報が流れてくる。
霧島「なんだよ。突然笑い出したりして。」
俺は引いたカードを表にし、
南伊「……『JORKER』。」
と言い放った。
その瞬間、目の前に黒い人影現れた。
JORKER?「俺は…何者だ…。」
お前は、そう…、
南伊「お前は…俺自身だ!」
南伊「JORKER!!♢の9(ナイン)変身!そしてクロニクル!スキル①を適用し、カードを2枚引く!!」
霧島「そんなJORKERの使い方…!」
南伊「俺は4種の9をコストに発動!『革命』!!」
霧島「はっ…!革命だと?!これじゃあ俺の最強部隊が…!!」
革命により強さが逆転した。
南伊「そして手札にある4種の4を戦場に。」
霧島「A級の強さのカードを同時に4枚だと⁈」
南伊「4種の4よ、敵の雑魚3体を蹴散らせ。」
ーーバンバンバン!!
革命で強キャラと化した4の精鋭部隊が雑魚キャラと成り果てた1を一掃した。
霧島「ああっ…!!」
南伊「ターン終了。さあ、お前のターンだ。」
霧島「お…俺のターン。…ターン終了」
霧島の手札はわずか2枚しか残っておらず、彼の目にはもうさっきまでの覇気すら感じられない。
南伊「俺のターン。♠︎と♣︎の10を戦場に。バトル。」
南伊「お前の敗因はただ一つ。俺の前でモノを飾り過ぎた、それだけだ。」
霧島「…じゃあお前は何者なんだよっ!!」
俺は…何者でも……、
南伊「…ナイ。」
怒涛の5連撃を受け霧島はライフゲージが0になった。
to be contenued
どうも!ハイネ1021です!
いかがだったでしょうか?
今回は少し長く描き過ぎてしまったかなと自分でも反省しております。
それとカードゲームの描写を描くのってとても難しいですね。(笑)
(もう既にネタが…。)
今回も誤字脱字等ありましたらご指摘していただけると嬉しいです!
それでは次回もお楽しみに!