強制契約への顛末 その2
私が祖母に抱いていた印象は華のような人だ。
祖母は、母の姉と言われても不思議でないくらいに若く美しかった。
背筋がピンと伸びていて、和服やドレスなどの衣装も綺麗に着こなし、ひとたび外に出れば多くの人が祖母を目で追っていた。
祖母はそんな視線を微塵も気にもしていないように、微笑みをたたえながら祖父の後ろをゆっくりと歩いていた。
私や母に対しても、いつも慈しむような笑みをうかべていた。そんな祖母の近くはやわらかな雰囲気に包まれていて、母があんなにおっとりとした性格になったのもわかる気がした。
誰よりも人目を惹いて、誰よりもやさしく、誰よりも美しかった祖母が倒れたと聞いた時にはひどく驚いたものだ。
祖母が死ぬだなんてことはありえないと思っていた。
けれど、ベッドに横たわった祖母の顔にいままで見たことのないたるみができ始めているのを見たとき。あゝ、もうながくないのだなと確信した。
見舞いに行ったあの時、祖母とは何かを話したような気がする。伝えたくないことを伝えようとしているような切迫した感じといつもより固い声音で何かを聞かされたような……。
「--契約--、更新--」
そう確か契約の更新がどうたら。あゝ、どうして憶えていないのだろうとても大切なことのはずなのに。
「-が来る--封印-る」
そうだ、確か時がくるまで封印するって……あれ、おかしい。何で記憶の封印なんてものを当然のように受け入れているの。そんなことあり得ないはずなのに。
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誓約書
私、エマ・テレジアは死後、赤糸 万里-マリア・テレジアに
グリモワールを引き継ぐことをここに誓います。
その際、エマ・テレジアが生きている間、マリア・テレジアが
受ける、魔術に関する知識・記憶を封印することをここに誓わせ
ます。
エマ・テレジア
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そうだ、誓約書、署名欄に私じゃなくて祖母の名前の書かれた誓約書を見せられて……。
だとしても、魔術って、グリモワールって何なの。
そもそも、祖母が倒れた原因ってなに?
「グリモワールの契約の更新によって私たちは解放される」
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私の家には納屋がある。
祖母しか入らない納屋がある。
私はあの日、祖母が倒れたあの日に入ったのだ。
そして、グリモワールに触れてしまった。
強制契約のグリモワールを更新してしまったのだ。