四話
日曜日。本日も丸亀町商店街をぶらついていた。ふと声がするので辺りを見回していると丸田と亀梨の姿があった。
「本日もよろしくお願いします!」
「します!」
商店街で働く仲間として、一軒一軒に挨拶をしていた。
「前は迷惑してたけど、良い子達みたいで良かったわぁ」
(どうやらM・レネゲイズは大丈夫そうだな)
二人はその姿を暖かい目で見守った後、カフェでコーヒーを飲んでいた。こういった店に慣れていないため、誡歩は注文のすべてを馬角に任せた。視線が気になる事を察して外の席に座った。
(やっぱり人通りの多いところは平気みたいだ)
ぼーっと人通りを眺めている誡歩の横で馬角は携帯で何かしていた。それから十分後、二人の男が現れた。二人の身長は同じくらいで170cmといったところだ。一人は金髪の大学生風の男、もう一人は黒髪で二十台後半くらいだった。
「やっ、うどん食べてる?」
(食べてねーよ)
金髪の男はすぐに分かった。
「・・・王さん、どうしたんですか」
王は笑顔で誡歩を見た。「良く分かったね。今日は顔合わせがあってさ」王は隣の男に顔を向けた。「こちら『緑川 三十浪-みどりかわ さんじゅうろう-』さん、M・レネゲイズのリーダー」
男は頭をかきながら照れくさそうにした。
「いやぁ、まぁリーダーというよりは保護者みたいなもんでね。紹介に預かったとおり俺は緑川三十浪、丸田は俺の甥でね、面倒を見てる」
馬角は察した表情で王を見た。
「ははーん?王さん、お灸をすえるとかいって、交流会ですね?これ」
「いやーはは、まぁそうなんだよね」
二人は席に座った。
「俺から話を持ちかけたんだ」緑川は話し始めた。「あいつらあの通りでさ、チームってよりはただの遊び仲間って感じなわけでよ、俺も社会人でいつでも見れるわけじゃない。だから王くんに話を持ちかけたんだ。近々顔合わせがあるって話だから一緒にお願いしたいって」
「顔合わせ?」馬角が聞いた。
「儀式みたいなもんだよ。チームを作るっていうことは結成してから他チームに顔合わせをしなくちゃいけない。僕達UDNとM・R、顔合わせの日をあわせて一緒にやっちゃおうってこと」
「あの」誡歩が人通りから視線をはずし、王の方を見た。「前々から気になってたんですけど、光が落ちたのは一ヶ月前ですよね?チームとか伝統とか、出来るのが早すぎると思うんですが・・」
「そこが緑川さんに頼まれた要因になるわけだ。実はね、チームってのは香川に昔からあるんだ。異能が手に入るよりずっと前からね。仲間意識から成る結束もあれば、喧嘩だってそうだ、決まった一つの目標のためにってこともある。なんでもないただの集まりにならないように、香川では伝統によってチームとして宣言する必要があるんだ。遡ると最古のチームは昭和にあったりする」
(あっても不良の抗争程度のものだったのが、異能を手にして悪い大人や馬鹿共がやんちゃしてるって話か・・)
「あ、おっちゃん!」
丸田と亀梨が走ってきた。どうやら休憩時間らしく、そのまま六人で談笑が始まった。
「それでよーこいつら馴染みの店が無くなるってんでわんわん泣き出してさ」
「おっちゃん!俺ら泣いてねーよ!」
「ねーよ!」
「はいはい心の汗なー」
「なぁなぁ丸田、綾ちゃん来ないの?」
(こいつ・・)
「綾は塾行ってる」
「お腹すいたなぁ」王はどこからかうどんを取り出した。
「お客様困ります!」
「ぐ・・しかたない・・・決めたよ富士くん、僕は香川のどこでもうどん食べて良い条例を作ることをUDNの目的とする!」
「さいですか・・」
(なんだこのカオスな空間は・・)
そうこうしているうちに時間はすぎていくもので、二人はバイトへと戻っていった。まっすぐ店に戻っていく姿を見て緑川は親のように優しい表情で見守っていた。
「あいつらいっつもばらばらでさ、昔から面倒見てるがそりゃ大変だった。チームの目的を聞いた時だって不安しか無かったんだよ。でもああやって真っ直ぐ進んでる姿を見てるとあいつらなりに頑張ってんだなぁって感慨深くなるよ」
「・・ですね」王もまた、緑川と同じような表情をしていた。
誡歩は緑川に父の顔を重ねていた。親の子供に対する表情、それを見たことがあったのか、考えていた。
「父ちゃんかっこいい!」
「だろ?」若き父は誡歩の頭を撫でた。「父ちゃんが町を守ってやるからな!」
「僕も大きくなったら刑事になる!」
「キャー!」
悲鳴で目が覚めた。音の方を見ると不良二人が暴れていた。
「俺達ぁカガワ・ブリガードだ!」
「はぁ・・・無抵抗の奴らをぶちのめすのってなんて快感なんだ・・」
二人とも目が据わっている。