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タイトル未定  作者: 直線T
3/5

二話『U Don't kNow』

 午後九時半、いつものように誡歩はアニメを見ていた。

 「五話から急激に面白くなりだした・・これ見逃してた奴損だなぁっと」

 SNSに感想文を書き終えると、家を出る準備をした。携帯にイヤホンを付け、財布をポケットにしまう。リビングに来た時にドアが開いた。丁度父とばったり出くわしたのだ。

 「・・おう」

 「どうも」

 「コンビニか?」

 「・・うん」

 誡歩はそそくさと家を出た。最近はイヤでも父と顔を合わせている気がする。父はもう帰ってきているのだから時間をあまり潰さないルートでコンビニに向かった。

 二人の男女の姿は見えた。誰かは分からないがおそらくの検討はついていた。面倒だったがスーパーに行くルートに向き直った。

 「富士くん!」

 (鳥の目でも持ってんのかよ・・)

 振り返ると、今回はそれなりに離れていたためか走ってくる姿が見えた。瞬間移動はない、彼女も人なのだろうと安心した。

 「なんですか」

 「もう、同級生なのになんで敬語なの」

 (いきなり距離つめてくるから防御してるんすよ・・)

 「はぁ、それで何かありました?」

 また後ろで馬角がとぼとぼと歩いている。彼氏として彼女がこんな態度を許していいのだろうかと少し呆れた。

 「そうそう、この前噴水広場で倒れてるの見かけて天行と一緒に運んだんだけど、その後体調はどうかなって。もしかして学校来ないのって何か病気があったり・・?」

 (そっか、声の主は雨車さんだったのか。夢じゃなかったんだ)

 「ああ、もう大丈夫です。ありがとう。何かお礼が出来ればいいんですが」

 (うまい棒と言ってくれ)

 「お礼?そうだなぁ・・・じゃあ学校こよっ、また昔みたいにお話したいなぁって」

 (うぇ!?)

 心の中で声にならない声と、現実で表現しようのない微妙な表情をしていた。追いついた馬角がニヤニヤとしながら誡歩の肩に手を置いた。

 「ま、言っちまったもんな!お礼するって」

 クックックと笑う馬角を誡歩は半目で見た。

 「分かりましたよ・・」

 馬角の手を払い、家へと向かった。

 「絶対だからねー!」

 雨車の笑顔が眩しかった。

 (行かないよ・・これから会わないルートにするか)

 不登校になったのは一年の夏休み前で、問題は時間が解決してくれるというありがたいお言葉通りにはならず、むしろ時間が学校に行くという気持ちや問題をどうだっていいやという気持ちとは反対の感情ばかりが増幅した。今は冬休み前、今行ったところで冬が開ければまた来なくなるのは明白だった。

 (そろそろ退学を決めないと・・どうせ行かないし)

 次の日、珍しく早く起きていた所為かチャイムの音が聞こえた。キーボードを叩く手を止めて音の方を見た。

 (まさか・・)

 父がドアをノックした。

 「誡歩、友達が来てるぞ」

 (オーマイゴッド)

 誡歩は手で顔を覆って机に塞ぎこんだ。

 「今出る・・」

 ドアを開けると父が扉の前にいた。心なしか嬉しそうな表情に見えた。

 「おはよう」

 「・・おはよう」

 寝巻きはジャージなので特に気にせずドアを開けた。そこにはよく知った二人の姿があった。純粋無垢な笑顔で迎える雨車とニヤニヤ笑う馬角だった。

 「やっ、来たよ!」

 「こいつ面白いよな」馬角は後ろで雨車を指さしてクスクス笑っていた。

 「おはようございます・・」

 ああ、これはもうだめなんだと思った誡歩は部屋に戻り、久しぶりに制服を着た。カバンにノートと筆箱だけを入れ、他の準備を済ませた。朝食はもう取っていたのですぐに出た。

 「わー、いつもジャージだったから新鮮」

 「そうですか」

 三人は学校に向かった。四、五ヶ月休んでいた引きこもりとしては未熟者レベルだったのでルートはまだまだ覚えている。しかしそれだけ生活習慣が荒れていたのであまり体調は良くない。

 「でさー、そこでミカコがー」

 「はぁ」

 雨車の話は長いので適当に相槌を打っていた。次第に学生服の数が増えてくると、なんだか鼓動が早くなってきた。キョロキョロと目が泳ぐスピードもまた同様に。

 (だめだ・・視線が多い・・)

 校門の前で完全に立ち止まった。目を泳がせながら不慣れに息を吸う、地面を見たまま不慣れに息を吐いた。

 「富士くん・・大丈夫?」

 「・・ごめん」

 誡歩はそのまま二人を振り払って保健室へと向かった。朝の保健室には当然誰かがいるわけでもなく、誡歩と同じ境遇の者もどうやらいなかった。

 「あら、いらっしゃい」保健室の先生が誡歩を見た。「どうかした?」

 「えーっと・・あの」

 目の泳ぐ誡歩を見て先生はベッドを指した。「まぁ、座って」ベッドに座っていると先生はこちらに目をあわさず、なにやら仕事をしていた。「どうしたの?」

 「ひさしぶりに学校来たんですけど・・前より悪化してて・・その、人の目に対する恐怖が・・」

 「いつからそれを意識するようになったの?」

 「小学校の時からあまり人と目をあわすのは好きじゃなかったです・・中学に入って軽いいじめに遭って、それで少し悪化した気がします。いじめは一年くらいでなくなったんですけど、それから完全に目を合わさなくなった気がします・・」

 「あなたのご両親はなんて?」

 「母は僕が中学の頃に他界していて、父は刑事なので忙しくて・・」

 「そう・・」

 それからしばらく保健室に居た。学校に来てまで何をしてるんだと思ったが、すぐに帰れる気はしなかった。少しばかり申し訳ないのだという気持ちがあったからだった。

 「あなたお昼は?」

 「あ・・用意してないです」

 「はいこれ」先生はサンドイッチを誡歩に投げた。「私は食堂で食べることにするから、あとこれ」受け取ると鍵だった。「屋上の鍵、実は無断で合鍵作ってるのよ、内緒にしといてね?」

 「了解です。ありがとうございました」

 保健室を出る。誡歩は保健室から出て右側に出たのだが、左側の階段から誰かが降りてくる音が聞こえた。ビクリとしたが下手に小走りで逃げると怪しまれる。

 「失礼しまーす」

 聞こえたのは雨車の声だった。ニアミスといったところだ。誡歩は少し考えたがそのまま屋上へと向かった。屋上は綺麗だった。鳩の糞などなかった。ドアのすぐ横にモップとバケツがある。きっとそれで普段から掃除しているのだろう。

 (屋上は普段入れないから役得かも)

 入り口の近くにベンチがあった。下手に屋上の端っこまで行くと誰かに見られかねない。誡歩はおとなしくベンチに座った。近くに灰皿が置いてある。吸殻が五、六本置いてあった。

 外に出ているというのに誰の視線も無く、そして青空と風がとても気持ちよかった。誡歩はのんびりと移ろう雲を見ながら背伸びをした。体が喜んでいるようだった。

 サンドイッチを開けた。具はツナとタマゴだった。いろんが具を試しても結局にこの二種に戻ってしまうのは人間の性というやつなのだろうか。

 ぼーっと空を見つめていると空を飛ぶ鳥が見えた。鳥のフンがこちら目掛けて落ちてきた。

 「うわっ!?」

 手を前に出して防ぐと、べチャっという音はしたが感触はなかった。手を見るとたしかにフンがついているのだが、自身との間には数ミリの間が開いていた。浮いているのだ。落ちないかと手のひらを下に向けて振ってみても何も起こらない。気が抜けたとき、宙に浮いていたフンはよりどころを失って地面に落ちた。黒の制服なのでフンが付くと目立つのだが、どこにも付いている様子は無かった。

 「異能・・・か」

 そろそろ昼休みが終わる時間だった。誰にも遭わないように校外に出た。そしてその足で鍵屋に向かった。屋上の鍵のスペアキーを作る。とても居心地の良い場所だった。

 家に着く。もちろん父は仕事でいつもの九時過ぎまで帰らないために途中で家に帰った誡歩を心配する人も説教する人もいなかった。

 夜の九時半になって誡歩は家を出た。もちろん時間を稼ぐコンビニルートだった。あの二人に遭うこともない。

 「なんかうどんうどん言ってる集団が噴水広場にいるらしいぞ」

 すれ違った二人組みが話しているのを聞いた。誡歩はすぐに噴水広場に向かった。しかし誰も見当たらない。足音に振り返ると先日の金髪男が立っていた。ラリアットを食らって吹っ飛ぶ。

 「チッ、不意打ちにも対応してやがんのか。自動防御か?」

 噴水にめり込む。男は誡歩の首を掴んで引き剥がした。

 「てめーにやられた右腕が痛むんだよ!」

 男の憎しみの目が誡歩を見た。そうだ中学のときのいじめっ子ににらまれた目と同じだ。誡歩は目を背けた。その時背中から何かが現れた。四つの円がゆっくりと回転している。

 (またこの感覚だ・・)

 気づけば誡歩は男をにらみ返していた。男は誡歩の右手を見た。前と同じコンバットナイフが出ている。それは自身目掛けて突き刺そうとしてた。

 (こいつ俺から視線を外さずに用意してやがった・・)

 男は足でナイフを持つ手を押さえた。すると誡歩は左手で男の右腕を掴む。

 「なんだ!?」

 体中を電気が走った。男はビクビクと痙攣し、地面に倒れた。

 「ふぅ」誡歩はふらつきながらベンチへと向かった。

 男は背後で腕を硬質化し、ゆっくりと迫った。

 「後ろ見ろよ」右肩から声が聞こえた。振り返ると男が右腕を振りかぶっていた。誡歩は急いで左腕で掴んで電気を流した。

 影から七人の者が現れた。皆ローブで体を隠している。誡歩は見たことがあった。UDNだ。

 「君の戦いを見ていた。すばらしかったよ」一番手前にいた男が口を開いた。

 「何の用です?」

 「まぁそう警戒するな」男はどこからか熱々のうどんを出した。「まぁうどんでも食べて」

 (・・・)

 誡歩はベンチでうどんをすすった。「あなた達、うどん脳ですよね?」

 「UDon'tkNow、正式名はね。たしかに君の言うとおり僕らはUDNだ」

 「それが何の用です?」

 背後の二人が前に出てきた。

 「僕の名前は『王 将仁-おう まさひと-』、能力はうどんを作ることさ。そしてこの二人は」二人がフードを上げた。するとそこには雨車と馬角の姿があった。

 (やっぱり・・)

 「それで?」

 「私達の目的は-」

 「香川の安全を守ること・・馬鹿らしい」誡歩は器を置いて立ち上がった。「ご馳走様でした」そのまま家へと去ろうとした。

 「敵がいれば馬鹿らしくないかい?」王は話した。

 「カガワ・ブリガードってやつですか?」

 「ああ、彼らは計り知れないほどの異能構成員を持っている。彼らは巨大組織ゆえに末端は無秩序だ。そういう連中から一般市民を守らなきゃいけないんだ」

 (引きこもっているうちにそんなことが・・)

 「君に力を貸して欲しい」

 「・・・考えておきます」

 「富士くん!・・・明日も一緒に行こうね?」

 誡歩は背中を向けたまま手を振った。彼の意思表示でもあった。

 「辰飛、あんなのがお前が仲間に入れたいと言った奴なのか?」

 「富士くんは・・・お兄ちゃんが思ってるよりも凄い人だから・・」

 男は鼻で笑うと、去っていった。残りのメンバーも一人、また一人と影に消えていく。

 某廃工場。

 「王の野郎が動きだしたって?」

 「ああ、UDNとかぬかしてたぜ」

 某店内。

 「うどん?関係ない、われわれには鶏さえあれば・・」

 「ああ」

 某校内。

 「なぁ、冬休みっていつからだっけ?」

 「知らなーい」

 各所がUDN結成にざわついていた。K・ブリガード構成員との戦いはこれから訪れる長い戦いの序章にしか過ぎなかった。

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