表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
タイトル未定  作者: 直線T
2/5

一話『戦いの始まり』

 例えば人を知るのは欲が一番だと考える。何を欲としているのか?それはどういった環境で育ったのか?人生を通して欲する物はきっとその人自身の真とする物なのだろう。分不相応な欲を持った人間が力を手に入れた時、きっとその人は欲をなんとしてでも満たすだろう。

 2016年4月1日、日本に謎の光の球体が飛来した。姿のよく見えないそれを人は始め未確認飛行物体だなんだと騒いだ。しかしそれは分裂し、小さな光となって各々に降り注いだ。彼もまたその一人だった。

 「やっぱり三話にはほとんど人いねぇや・・・」

 時計を見ると時刻は九時半だった。これまでの生活ならこの時間、コンビニにいくついでに散歩をする。しかし光の事件以来、彼は散歩に気乗りしなくなっていた。

 SNSを開き、カタカタと打ち始めた。『光の巨人になったりs』書き途中で消し、反対に検索を始めた。『光』自身に光が落ちた日と同じ日のSNSのコメントを眺めた。多くの人が落ちたことを見ている人である中、ちらほらとではあるが落ちた人もいた。しかし大体が中学生らしく、真実味に欠けた。

 (誰も落ちた人間がいなくて、SNSに書く奴だって現れない・・検索したのは今日が始めてだから、実は昔に書かれてて、政府がそれを消した上で人体実験用に回収しているんじゃ・・なんてな)

 頭の中で適当な陰謀論を広げていると、ドアの開く音がした。今まで避けていたが最近は家にいる方が安全なので回避しようがない。ドアがノックされた。

 「カイフ、いるか?」

 ドアは開かないまま声が聞こえた。

 「・・おかえり」

 「ああ、ただいま」

 父の声だった。それから少しドアの前で立ち止まっていた。二秒ほどだった。その後リビングへと戻っていった。父は何か言いたげだった、しかしカイフは答えることを拒否した。もう十数ヶ月まともに口を利いていない。なんだか家にいるのも居心地が悪くて、コンビニに行くことにした。

 カイフは財布と携帯、イヤホンをポケットに入れると部屋を出た。家を出るにはリビングを通らなければいけない。リビングに入ると父は小音でテレビを見ていた。足音に振り返ると少し驚いた表情で見た。

 「・・どっかいくのか?」

 「少しコンビニに」

 「・・そうか」

 そのまま家を出た。久しぶりに見た父の顔だった。前に見たときより老けている気がした。加齢によるものではなく、精神的なもののように思えた。きっと父にも思いつめていることがあってそれを自分に話したいと思っている、そこまで頭で理解していても答える気にはなれなかった。それは悪意の一切ない感情だった。

 コンビニに向かうことにしたのは今はもう安全だと考えたからだった。事件から三ヶ月以上経った今、同様の事件は起こっていない。それでも一応いつもと違う道を通っていくことにした、父はもう帰ってきているのだから時間をつぶす必要もない。

 住宅街を通っていると二人の男女が話している姿が見えた。決して目が良い方ではなく、相手が足音に気づく頃にようやく自身も相手が見えるくらいだった。こちらの足音に反応して向くとよく知った顔だった。

 「富士・・くん?」

 「誡歩じゃん!」

 目を凝らすと女の方は『雨車 辰飛-うるま たつひ-』、男の方は『馬角 天行-まかく てんぎょう-』だった。あまり仲良くない中学からの元同級生だった。

 「・・どうも」

 (二人は付き合ってたのか)

 会釈をして通りすぎようとした。二人は微妙な表情をしていたのが見えてこれ以上の会話をしようと思えなかった。

 「富士・・くん、学校・・来ないの?」

 「おい」

 誡歩は面倒だという表情で少し雨車を見た後、無視して歩いていった。二人がどんな表情をしていようと、後日学校でどう噂されようと関係なかった。今後も学校に通うことはないからだ。

 本来はすぐに帰るつもりだったが、二人が話し終える頃合を見てコンビニを出ることにした。時刻は十時と少し、店員も嫌そうな表情になったので誡歩は家へと帰ることにした。別に違うルートで帰ることは出来た、しかし誡歩は先ほどと同じルートで帰っていた。

 (もしかして俺ってすごく面倒なんじゃ)

 なんて考えながら家の近くに来ていた。ぼーっと地面を見ながら歩いていた所為か、先ほどの場所がもうそこまで来ていることに気がつかなかった。顔を上げると二人はまだ話していた。幸いまだこちらに気がついていないのを確認した後来た道を戻ろうと振り返った。

 「富士くん!」雨車の声にピタリと足を止めた。本質は構ってほしくて、それが実際に成ってしまうと途端に恥ずかしくなった。もしかしてなんかじゃなく、自分は本当に面倒な性格をしていることに苛立った。

 (ここまで来たならとことん面倒くさくなるか・・・)

 「うおっと・・」誡歩は振り返ると雨車がやけに近くなっていたことに驚いた。もう30㎝ほどしか顔に距離が無かった。

 「富士くん」

 とぼとぼと後ろから馬角が歩いて来ているのが見えた。

 「・・はい」

 「今天行と話してて、4月1日に変わったことなかった?」

 それは光の玉が飛来した日だった。

 (んだよミーハーかよ)

 「・・光の玉の話ですか?いえ特には」そう言いながら誡歩は歩き始めた。

 過ぎ去る誡歩の背に馬角は声をかけた。「俺達光の玉に当たったんだよ」

 「・・珍しい事もあるもんですね」そのまま誡歩は家へと入っていった。

 帰る頃には父は寝ており、開いていた鍵を閉めると自分の部屋へと入った。構ってほしくて話に乗ったのにただのミーハーの世間話と知るとすぐに帰ってしまう自分の身勝手さに腹が立ってしまった。いつもは何を考えるでもなくただ過ごしているだけだというのに、今日はやけに感情的になった。

 (苛立つほどクラスメイトに期待してたはずなんてないんだけどな・・)

 中学の日々を思い返していた。不登校になっている高校生活の今からは考えられないほど明るい生活をしていたような気がした。普通の人からすればごく一般的な学生生活で、むしろ標準以下だったのかもしれない。それでも二年の冬に初めて話をした二人のことを思い出していた。

 「富士くん、ここってどう・・あ、そう書くのか」

 「富士よー、進路どうすんの?・・・まじ?俺もそこにすっかぁ」

 本当に他愛のない話しかしてなかった気がする。

 (はぁ・・やり直してぇ・・)

 SNSを見ると気になるコメントがあった。香川オワタという言葉と共に動画のURLがつけられていた。開くとマスクをつけた男が立っていた。

 「諸君!私の名は未確認!今からここに秘密結社U-Don'tkNowを立ち上げることを宣言する!我々は異能を使い香川県民の安全を守るために日夜活動することを誓おう!」カメラを置くと噴水広場を何人かの者たちが囲い、秘密の呪文を唱えている姿が映った。ローブを身にまとった者達が七人いる。

 (あー、たしかにこれは終わったな・・・)

 何やらうーどんうーどん言いながら両手を上に上げていた。動画を消す前にコメント欄を見ると気になるものがあった。

 『噴水の動きおかしくね?』

 動画を見直す。たしかに様子がおかしい、ここの噴水はただただ一定量出るだけだった。しかしこの動画の噴水は多く噴出したり普通に戻ったりを繰り返していた。

 (異能・・?)

 家を出て噴水広場まで走った。噴水広場までは走って五分といったところだった。もちろん引きこもりの誡歩はそれ以上に掛かった。当然のように秘密結社は撤収した後だった。噴水はいつものように一定量出ていた。誡歩はベンチに座り考えた。

 (光の玉に当てられた者・・秘密結社・・異能・・)

 馬鹿馬鹿しいすべての事柄が何か重要な一つのことにつながる気がした。

 (無編集だから動画の投稿時間の少し前が撮影時間ってことになるのかな・・二人に出くわした時間・・まさかな)

 「よう」声のする方を見ると金髪の男がこちらを見ていた。「てめぇUDNの団員か?」

 「違いますけ-」男の腕が見る見る変化していった。岩のように硬質化している。

 「しらばっくれんな!」硬質化した腕を地面へと振り下ろした。間一髪で避けたがベンチは粉々に砕けた。

 「嘘だろっ!?」

 男は鼻をスンスンと鳴らした。「臭うんだよなぁ」金髪の男は誡歩をにらんだ。「異能力者ってのは独特のにおいを持ってる、俺だってお前だってそうだ。UDNははっきりと言ったぜ、異能とな」

 (異能は臭う・・?)

 「今日出来たばっかの新米組織が俺たちカガワ・ブリガードの敵となるとは到底思えんが、早めにつぶしておくに越したこたぁねぇよな」

 木の陰から何者かが二人の姿を覗いていた。

 男が大きく振り上げた拳はさらに硬質化を重ね、しだいに元の二倍以上の大きさとなっていた。軽々と持ち上げていた腕は重さで振り下ろす力と交わり強力な一撃となった。誡歩は両手を顔の前に出しガードしようとしたがただの人の腕を相手にしているのとは訳が違う。腕のガードが崩され頭を地面に叩き落される一瞬の間、わずかな光の反射が誡歩の全身を走った。

 (あれは!)

 鈍い音がした後誡歩は頭から地面にめり込んだ。形の変わらない頭と一滴も流れない血が男に疑問を持たせた。

 (ガードタイプの異能力者か・・)

 男は疑問を確信に変えるためにもう一度拳を振りげた。ヨロヨロと片ひざを上げた。誡歩は恐怖と怒りの混じった眼差しで男を見た。男は少しうろたえた。

 「何か力が湧いて出て来るんだ」誡歩はゆっくりと立ち上がった。「今までは誰かに俺を壊されたって自分の中で落とし込むだけだった。でも違う、こいつが俺を壊す奴を殺っちまえって言ってくるんだ」

 「・・てめぇ自身を地獄に落とし込みやがれ!」

 男はうろたえながらも拳を振り下ろした。加速しながら硬質化する中、まだ重さの足りない段階で誡歩は腕を外へはじいた。右手からコンバットナイフが現れた。まるでバターでも切るようにナイフは男の右腕を切り落とした。

 「てめぇ・・・俺の最大を見せてやる!」

 男はまるで全身を包むほどのスピードで硬質化を始めた。その瞬間ローブで身を包んだ何者かが二人の間に割って入った。

 「チィッ!」

 半端な硬質化のまま体を回転させた。硬質化した腕が回転で力を増したままこちらに向かってくる。

 「おっと」

 ローブの男はジャンプして避けると、ローブの男の体で状況がよく見えていなかった誡歩は腕に殴られ吹き飛んだ。その隙に金髪の男はどこかへ走り去ってしまった。

 薄れいく意識の中で雨車の声が聞こえた。「...じくん!富士くん!」

 (君が望むなら・・)

 目を覚ますと誡歩はソファの上で寝ていた。時計を見ると時刻は朝の七時、キッチンで父が朝食を作っていた。今まで昼夜逆転の生活をしていたため朝食の匂いを嗅ぐなんて新鮮な感覚だった。

 「起きたか。俺はもう出るから、友達にお礼言っとけよ」

 「・・分かった」

 (・・・友達?)

 男はベッドの上でもだえていた。少年から少し離れた時点で腕から出血が止まらなくなっていた。硬質化の力で傷口を無理やりかさぶたのように塞いだことで出血は収まったが痛みは尋常なものではなかった。

 「あいつの近くにいる時には出血なんて無かったんだ・・あれがあいつの能力か・・二つの異能・・」

 男は壁を殴った。

 「許さねぇ・・・ブチ殺してやる・・・」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ