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ミッション1:顔合わせ

言ってしまえば、他人から見てかわいいと言われる類の人間であることは、幼い頃からわかっていた。

それ故のメリットを享受する方法と、目立たないように振る舞う術は生きていく内に自然と身についていた。

みんながかわいいねって言ってくれた。

それで満足だった。

嫌なことはうまくやれば誰かが代わりにやってくれた。勉強も運動もできなかったが、それでも何となくでうまく回っていたのだ。卒業が近づいて、周囲が独り立ちしていこうとしていることに気付いた時、時すでに遅かった。慌てて駆け回ったが、雇ってくれるとこなどなかった。

サービス業ならまだ行けるかもしれないが、不定期な休みは避けたいし、残業とかしたくない。

起業しようとしている友人にも声をかけたが、やんわりと遠回しに断られた。

何もできない私は、共に歩んでいく人としては見られなかったのだ。

必死に声をかけまくり、ようやく仕事にありついた。それが、国防軍の総務部庶務課。その中で、私は入り口で入館者の受付を行う仕事を行うことになった。

やることも少ないし単調だが、色んな人と触れ合えるし、顔も覚えてもらえる。うまくいけば良い人と出会いもあるかもしれない。


ダメ人間だと言われればそれまでだ。

だが、やれないものをやろうとして報われなかったら無意味だ。無意味な上に辛いことに時間を費やすくらいなら、無意味でも楽しくすごしたほうが良い。

そんなこんなで、18年間生きてきた。

もし人生をやり直せるとしたら、いつからがいいのだろうか。結局のところ、やり直すのがしんどいので、今でいいとなりそうだ。


面倒なことは避けてきた。

目立つようなことも避けてきた。

友達は多いと思う。

上司にも気に入られている。

十分良い人生だと思う。十分。

そんなこんなで生きていたのだ。


急に呼び出されたときは、人員削減で首にでもなるのかと思った。

言い渡された命令にぶっ倒れるかと思った。

もはや新手の辞職命令か何かだと思った。


最近、国防軍への応募人数が減ってきているらしい。男臭いとか、危険な任務が嫌だとか、休暇取得状況が悪いとか、遠征が多いだとか、色々言われているらしい。

そこで、イメージアップのために、外受けしそうな部隊を立ち上げて、宣伝に利用しようという企画が持ち上がったのだ。

ただし既存の部隊からおいそれと引き抜くのは厳しい。余剰のあるところから出しなさい。そういうお達しが出で、私はあっさり差し出されることになった。


辞令が出てしまっては、どうしようもない。

あれよあれよという間に、物事は進んでしまった。

最早元の場所には私の席はない。

今日は同じようにかき集められた人たちと初顔合わせだ。辞令を見たときには、他に5人の名前があった。見たことない名前だった。


「ここか…」


新しい職場となる一室の扉を見上げた。

とりあえず出来るだけ頑張る。無理だったら辞めよう。ここに骨を埋める必要はない。辞めたければ辞めればいいのだ。

勇気を振り絞ってドアを開けた。

「失礼しまーす」

中を見渡すと、4人の人影が見えた。


「あ、おはよーございまーす!」

気の抜けた声で青年が挨拶をした。

「えーだぁれー?」

甘ったるい声の女性が気だるげに振り向いた。

「あ…受付の…」

か細い声で少年がつぶやいた。

「……」

1人は無言のままこちらを一瞥した。

「え、えと…」


「ああ。私が一番最後か」

不意に後ろから声がした。振り向くと、すごい美人が微笑んでいる。女の私でも見惚れるほどの。

黒髪のうつくしい、和風な顔立ちの美人だ。

「リーシャ・ベルフェだね?私はアレクシス・ルシフェルトだ。…今日からよろしく」

「は、はいーー」

「おー元気そうだな女装男。まさかお前と同じ所属になるたーなぁ」

奥にいた青年がケラケラと笑った。

…今なんと?

「ちょっと…せっかく彼女が知らなさそうだったから、しばらく隠しとこうと思ってたのに」

「あ?わりーわりー」

「…え?」

アレクシスはこちらを見て、優雅に微笑んだ。どう見ても女性にしか見えないそれで。


アレクシス・ルシフェルト

男性・19歳・吟遊詩人レベル13

基本的に女性の格好をしている。


「なんか自己紹介の流れー?俺はシオン。シオン・ベリアルタ。元は諜報部隊にいたんだけどさー。なんかお前は口が軽すぎるとかでこっちに異動になっちったー」

さきほどから軽い口調で話していた男が名乗った。


諜報部隊と言えば、陰日向に暗躍する部隊で、どちらかといえば無口な印象だ。この男は間逆だった。


シオン・ベリアルタ

男性・23歳・モンクレベル35

よく喋る。


「あらあら。随分と可愛らしい子が隊長なのね?よかったわぁ。私はシャノン・アスモ。よろしくね」

奥にいた女性が前に出てきて私の両手を手で包み込んだ。

さきほどはあまり気にしなかったが、何やらやたら露出が多い。前にかがまれると、何故か私までドキドキした。

「元の部隊で男女問わず修羅場起こして異動になったんだっけ?」

「あら?やめてよシオンくん。私はみんなと仲良くしていただけよ?」

「え」


シャノン・アスモ

女性・27歳・ヒーラーレベル7

セクシーなお姉さん。


微妙な間を悟ってか、男の子が少しきょどりながら、頭を下げた。

「ニ、ニック・アスタと申し、ます。ごごごご迷惑おかけしないように、が、が、がんばります!」


ニック・アスタ

男性・17歳・ソルジャーレベル2

挙動不審。


「………………」

1番奥にいた男は、何もしゃべることなく、こちらを見て一瞥した。ニックが慌てたように弁明する。

「あああの。フィルさんは、その、ほとんど話さない方なので…」

確かにそんな感じの人だ。顔立ちは整っているが、こんな感じで広報できるのかは疑問だが、色んなタイプがいてもいいのかもしれない。

「…名はフィル・レヴィア」

不意に、こちらをしっかりと見て言った。

「あ、よろしくお願いしま…」

「…呪われし運命を砕き、愚かな神に成り代わる準備はできているか?」

「は」

ぼそりとつぶやかれた言葉の意味を、理解できずにフリーズした。

申し訳なさそうにニックが呟く。

「…細かな内容は気にしない方が良いかと…」


フィル・レヴィア

男性・27歳・魔術師レベル55

無口な電波。


「あの、えと…リーシャ・ベルフェです。よろしくお願いします」

改めて、周囲を見渡した。

色々なタイプがいるが、なんにせよこれから同じ職場で働く同僚となる。

しかも役職上は、私が1番上だ。


リーシャ・ベルフェ

女性・18歳・魔法騎士レベル1

元受付嬢で隊長。


「つか、君らレベル低っ」

挨拶がてらステータス表を見ていたシオンがあきれた声で言った。

たしかに、シオンとフィルを除いてしまうとかなり低い。私に至っては先日ジョブをつけてもらったばかりのため、まごう事なく1しかない。


「つかアレク、お前もうちょいレベル高くなかったっけ」

「あー音術士になろうと思ってレベル上げ中だったんだよね。タイミングミスったかな」


アレクシスの指にきらりと光ったリングをみつけ、この前受け取ったばかりのリングをそっと指先でなぞった。ひんやりとした感触が指先に伝わる。


通常、入隊後すぐに適性テストがあり、そこで初期装備となるリングが配られる。どういう仕組みかイマイチ覚えてないが、リングをつけることによって、魔法やスキルが使えるようになる。

使用できる魔法やスキルは、レベルを上げることで増えていく。レベルは指輪を身につけたまま訓練や任務をこなしていくことで上がっていく仕組みだ。

一定以上レベルを上げると指輪を交換できるようになり、他のジョブも習得できる。

複数のリングのレベルを一定数上げて、リングを合成することも可能で、魔法騎士は魔導師をレベル20、剣士をレベル10、あと何かを足して初めて合成可能なリングになる。まあ私は受付担当なので初期装備のリングなど受け取るはずもなく、こういうチートみたいなことになってるわけだが。


「広報って言ってもさ、多少力つけといたほうがいくね?たいちょーさんも、スキルほとんど使えないとかカッコつかないだろ」

「その辺はカリキュラムに組み込まれてるんじゃないかな。具体的な活動内容次第だね」

アレクシスとシオンで何やら話し合いが始まったようだ。誰が隊長かなどわかったものじゃない。


なぜ私が隊長になったかと理由を問うた私に上官は静かにこう言った。最初は別の誰かに頼もうとしていたが断られ、代わりに推薦されたのが私だったと。

その人が何故私を選んだかは知らない。

「だだ大丈夫だと思いますよ。ぼ、ぼくよりは…ずっと」

しかめっ面でもしていたのだろうか。横に立っていたニックが遠慮がちに話しかけてきた。

この人も随分自虐的な人だ。

「あらぁ。2人ともどうしたのぉ?そんなに緊張しなくても大丈夫よ?…お姉さんが緊張解してあげようか?」

「え」

「2人ともすごくかわいいわ。お人形さんみたい。ちいさくて目がぱっちりしてて。私そういう子好みなの。ねぇ、どうかしら?何なら2人一緒でも…」

「おい」

不穏な雰囲気に慄いていると、ムスッとした声が聞こえた。呆れたような顔でにらみつけているのはフィルだ。フィルはシャノンを一睨みすると、やはりそのまま黙り込んでしまった。

ニックはハッとしたように駆けて行って、フィルの後ろにさっと隠れてしまう。何あれ。

「そんな男と一緒にいるより、私と楽しいことしたほうがいいと思うのになぁ」

シャノンは心底悔しそうだった。この人も何なんだ。

「あの2人いつもああなのよね。こっちは2人一辺でも良いって言ってるのに、何が不満なのかしら」

ちょっと何言ってるかわからない。

「あ、えと…フィルさんとニックさんは以前から知り合いなんですか?」

「え?…あ、敬語はいらないわよ?あなたは隊長なんだし、部下に対する敬称もいらないわ。…2人は昔からああよ。どっちかというと、フィルがいるとこにニックがくっついてまわってる感じ」

ニックが入隊してきた2年前くらいからずっとね。シャノンはあきれたようにそう言った。

あれ、そういえばこの人たち…。

「シャノンさん…シャノンは、フィルと同期ですよね?」

「…まあね。入隊当初からわけわかんない奴だったけど、…最近輪をかけて何言ってるかわかんなくなってきたわね。…ニックちゃんは何であんなのがいいのかしら!」

何やら喚き始めたシャノンを横目に、メンバーをザッと眺めた。

シャノンは言わずもがなセクシー系。シオンはちょい悪な感じで、ニックは小動物系。フィルは目つきは悪いが喋らなければクールな雰囲気だ。

アレクシスは形容しがたいが、言ってしまえば中性的な美人だ。

全員並んで勧誘したら圧巻だろうな。ていうか広報部隊ってなにするんだろ。ポスターとかに載るとかかなぁ。これからの任務に対し、考えを巡らす。

全国行脚とかするのだろうか。体験談とか話すのかな。私受付しかしたことないから他の人に回そうかな。

なんにせよ、もう少しで任務の詳細を持った上官がくるはずだ。


コンコン


ちいさいノック音が聞こえ、その後ドアが開けられてきた。

「いやいやすまないねー。会議が長引いちゃって。挨拶はもうすんだかい?」

「クレイン上官!」

慌てて敬礼する。この辺りの作法は習っておいて良かった。

「すまないね。ではさっそく」

クレイン上官はメンバーにそれぞれ紙の束を配って行く。

「今後のスケジュールとか、任務の予定が書かれているからきちんと目を通すように」

返事をして、もらった紙をパラパラとめくっていく。結構な量だった。

基礎訓練から、基本的な作法やお茶の稽古なんかも盛り込まれている。あとは…。

「…ん?」


さあ私の手を取って

一緒に飛び出そう

まだ知らぬ世界をつかめ


きっかけは些細なこと

それが私の運命の選択となった

さあ選べ信じる道を

それが苦難の道であろうとも


さあ私の手を取って

みんなで飛び出そう

まだ知らぬ世界をつかめ

以下略


「…っ??!」

「どうかしたかい、ベルフェ隊長」

クレイン上官が穏やかな微笑みを浮かべながら問う。

「…この、ライブってなんでしょうか」

一応部下を見渡したが、アレクシスもシャノンも同じように固まっている。

「なにって、テーマソングだよ。定番だろう?」

何が定番だ、歌詞ダサいし。

…とは誰も言えず、何とも言えない愛想笑いで周囲が満たされた。

唯一フィルのみが、資料も見ずに素知らぬ顔でうとうとしている。


「ちなみに、1週間後にお披露目がある」

「はいぃ!?」


そうして、猛特訓は幕をあけた。

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