-はじめ-
それは始まり。物事の起こり。起源であり最初。きっかけであり、引き金であり、契機であり、原因であり、動機であり、糸口である。
そしてそれは終わりでもある。結末であり、死であり、末路であり、行き着くところであり、最終回である。
何がと聞かれれば、出会いだったと答える。
何故かと聞かれれば、風のようだったと答える。
愚かであったことは否めない。失敗であったことも否めない。溢れたミルクを元に戻すことはできない。
物語がハッピーエンドであると判断できるのは、終わるタイミングだ。
つまりは、終わるタイミングがまずかった。
だからハッピーエンドにはならなかった。
はじめて手をつないで歩いたあの日に終わっていれば、物語はハッピーエンドだった。
しかし終わらなかったのだから、続けるしかない。続けた結果がこの有様だ。
…話を戻そう。
そうだそれは物語が終わる前。ハッピーエンドなど関係なく、終わるタイミングなど考えなくてもいい頃。話を始めるのは、その頃からが良い。
視点は切り替えよう。
物語を語る主人公に。
相応しい語り手と、相応しい紡ぎ手に。
舞台はアルラアカルラ国、国防軍第13作戦会議室。
厳かに指令を告げた上官に向かい、少女は素っ頓狂な声を上げた。
「わ、私が隊長ですかぁぁぁぁ!?」
「そうだ。部隊といっても危険な任務に就くわけではない。まあ、多少の擦り傷は覚悟してもらわなければならないが」
「そ、そんなこと言われても、私何のジョブも持ってないですし!」
「そうかと思って登録しておいた。魔法騎士だ。かっこいいだろう?」
「は、え?はいぃ?」
少女の名はリーシャ・ベルフェ。
1年前に高等学校を卒業し、今年で18歳になった。
現在は国防軍第1基地でーーー
受付嬢をしている。