ミリーシャ
前半はミリーシャの愚痴
日常が、壊れたのだろうか。
それとも、始めから壊れてたの?
昔からロクに家族と過ごさない祖父が戦死して、体の弱い一つ下の妹が伏せた。
そして、ドラゴン。
ああ、今でも頭が着いていけない。
私はその場を見なかったけれど、シャルティナが自殺行為にもドラゴンから逃げようとしなくて、父がドラゴンを倒した。
それで、意味もわからず妹は父に歯向かって、今や被害のない別棟の部屋に放り込まれている。
普段、父に反抗することはあるが、今回のシャルティナはどこかおかしかった。
なぜ凶暴な生き物を庇ったの?
泣いていた?なぜそう見えたの?
暴れて暴れて暴れまわっていただけじゃない。
ふつふつと湧いてくる怒りは、ドラゴンに対してか妹に対してか、はたまた祖父に対してかわからない。
理解できない自分に腹が立っているのかも。
とにかく、散々怯えて縮こまっていたのが、今はムシャクシャしてしょうがない。
シャルティナと引き離されたシマリスをアリエスが抱いている。
そういえば……
以前あの子が拾った生き物を父が取り上げたときも、今回なみに酷かった。
鳥でもなくネズミでもない中途半端で、気味の悪い生き物。
あの翼は絵本に出てきた悪魔と同じものだ。
それを、大事に手当したり可愛がったりして……
父が、悪魔に魅せられた、と言ったまさにそれだ。
なぜ、シャルティナは可愛げのないものばかりに執着するのか。
もっとテディベアとか、仔犬とか仔猫とか、もっと愛らしい生き物はたくさんいるし、望めば与えられるのに。
彼女が心を尽くすのは、決まって…………
「おれ、やっぱり心配だから…シャルんとこいく」
「マース…」
喋ったり暴れたり、それを連れてきた祖父も祖父だけど。
私たち姉妹と若い侍女は比較的被害の少ない部屋におかれていた。
窓の外からは父の兵や、城の騎士たちの声が聞こえる。
指示を出したり、励ましあったり。
ヒドイ有り様だ。
こんなヒドイことってある?
私の部屋は見事にドラゴンの尻尾で突き破られていたし、今夜寝る場所はもしかしたらこのまま雑魚寝かもしらない。
食事もまともなものが出るはずもないだろう。
イヤになる。イヤになるわ。
ーーワアアアア
その時、外の喧騒が大きくなった。
好奇心旺盛な侍女が窓を覗いて、悲鳴をあげる。悲鳴というか、歓喜の声というか。
「ご覧くださいお嬢様方!!殿下がお見えに!」
「!!!」
ドラゴンに跨る黒髪の青年。
褐色のあのドラゴンよりもずっと小柄なドラゴンが、空から降り立って、騎士たちに迎えられている。
ああ、ああ……あのお姿は、いつだったか仮面舞踏会でお逢いしたあの人だ。
あの時は素性を隠しているからと言って、纏うオーラや髪で分かった。
「メディウスさま……私をお助けに?」
イライラが急に取り払われて、甘い痺れが胸を震わせた。
あの夜はほんの一瞬の出来事だったけれど、私にはなんて甘美で素敵な時だったか言葉に言い表せない。
「お逢いしなければ、」
「ミリーシャ?どこに…」
エリザに声をかけられたが、振り返らずに走った。
ーー連れ出して、私を、ここから!!
殿下の名前を聞きつけたシマリスが、血相を変えて部屋を飛び出した姿に気付かない。
私がそれに気付いていたら、いや、それ以前に…私がお名前を呼んでいなければ…この後の事件は起きなかったかもしれないのに。
訂正》ミーシャ→ミリーシャ