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自由の祠

父と祖父の話に混ざるには、二人とも子供すぎたらしい。

追い立てられるように部屋を出され、夕食時になるまで祖父にも会えなかった。

難しい話をしているのだろう。

お稽古の合間に、書斎を見張るが、顔を合わせたのは空が赤く染まった頃だ。

旅の話や、昨日の素敵な出来事について語り合いたい一心で、なんとか屈強の老人を捕まえ、今夜の彼の寝室に引っ張り込んだ。


「ガハハハハ!!ティナは相変わらず強引な娘じゃ!ほんに、あの二人の子かもわからぬ!」

「でも、お爺さまの孫なのは明らかだわ!」

「違いない!ガハハハハ!」


おしゃれなワイン、ではなく泡が乗った発酵酒を好むお爺さまは、私の持つグラスより五倍は大きいジョッキの中身を煽う。

どうしても飲み方が荒くなる晩酌に付き合えるのは、私だけだ。

お姉さまたちはお爺さまが苦手だし、お父さまは夜酒は飲まない……らしい。

まだ未成年の私は、果実の蜜でできたジュースをストローで飲みながら、お爺さまの旅の話に耳を傾けた。


「大陸のよ、砂漠の果てに人がいたんじゃ」

「ええ!オアシスも緑も無いっていうのに?」

「岩を食す人種でな。ワシよりももーっと大きな奴らじゃったよ」

「岩を…!?そんなにすごい人たちがいるなんて!」

「ちと頭は弱いが、気のいい者共ばかりでの。ワシが会ったのは、サボテン花を植えて回る旅団だが、故郷まで連れて行ってくれたぞ」

「サボテン花って?」


お爺さまの話は面白い。

色んな人たちや生き物、冒険にロマンス!

ロマンスって、お爺さまじゃなくて旅先で出会う人たちについてだけとも、ちゃっかりキューピッドのような役割も果たしたと、胸を張ることもしばしば。


「地下の迷宮もなかなかじゃった〜。サボテン花の根が壁に張り付いて、少し湿っぽいのがまた雰囲気があっての…地上じゃ見たことない形の虫や生き物とぎょーさん会ったわい」

「迷宮の最奥にはいけたの?」

「そうさな…ティナには教えてやろう、あの迷宮の秘密じゃ」


私にとって、顔を付き合わせ、お爺さまとドキドキワクワクするような話をすることが何よりも楽しい。

ああ、私の足が動くのなら付いて行くのに!!


「ティナ、ぬしが不自由などと考えてはいかんぞ。人を不自由にするのは、不自由だと思う心だからじゃ!ぬしは足は動かんが、ワシに負けぬ探究心と好奇心、それと勇気も運も持ち合わせておる。旅にはそれだけで十分じゃ!」

「けれど、お父さまが許してなんてくれないわ」

「それも、不自由にする心じゃよ。ぬしが(しか)と説得してみれば、案外理解してくれるやもしれん」


そのような情景を頭の中で浮かべて見る。

外に出たい、という私の話を真摯に聞いて、そして笑顔で頷くお父さま…………

お父さまの笑顔………見たことないけど。


「…どうしましょう…仏頂面が定着して、なんの隙間もみられないわ……そもそも、お父さまってば私の話を真摯に聞いたことなんて……」


というよりも、私が苦手で避けているだけで、話をしようとも考えなかった。

父に、お願いをしたら……どうなるのかしら。


「また頭でっかちなら、一緒に抜け出そうかの」

「え?」


お爺さまの言葉が胸をときめかせた。

かじっていたストローから、唇を離して身を乗り出す。


「なんて?お爺さま…本気?」

「本気じゃよ。ティナの気質はよう分かっておる。内で籠るだけじゃあ、ぬしの良さは死んでしまう」


死んでしまうって何が!?私が!?


「ぬしはもっと多くの者に出逢うと良い。それが学びともなり、幸に繫がる!」

「…私も、お爺さまが出逢った人たちに逢ってみたい。たくさんの生き物も見たい」


お爺さまの生き方が、私の夢なのだ。

前向きで楽しくて、キラキラとしている。


「叶う願いじゃよ!」

「きっとね!約束してくれる?お爺さま!」

「なんなら、成人の誕生日に共に行こうかの!」


私の17歳の誕生日までは、あと四ヶ月もしない。

それまでに祖父が帰ってくる保証も、戦争が終わってまた祖父が自由になる保証もないのに、私はその言葉を信じた。

小指と小指を付き合わせて指切り。

日に焼けていない真っ白な私の手と、日焼けした大きな手が交差する。

小さな傷が所々に着いているが、それも冒険の証!かっこいい!すてき!


その夜は、お爺さまが迷宮の化け物との闘いを武器を取り出して演じ、大盛り上がりを見せたところで、

父と次姉が乱入し、片や氷のような怒りで、片やニワトリのような喚き声で私たちを説教した。














5日後、家族が見送る中で祖父は戦場へ赴き、三ヶ月経った早朝に通達された戦死の届けには、祖父の名前が記されていた。


私が17歳の誕生日を迎える一週間前のことだ。


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