48 皆無な世界
もしも、もしも、白雪がいなくなったらどうなるのだろうか。その答えは、分かりきってる。俺が俺じゃなくなる、そう白雪が俺を作ってる。あの日、出逢ったのは運命、必然的だったから。どこで出逢ったとしても俺は白雪を愛していただろう。暗殺者、とか関係なくに。
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「白雪が、帰ってこない?」
狼は、いつもとは違う声音で返すと不安な顔でコクリと頷く双子。荊は、今にも泣きそうで水も必死に堪えてる。
「すぐ、戻るっていったの」「うん、言ってた」
なのに、帰ってこない。
狼も双子を安心させているが、心は双子以上に不安定だった。帰ってこない?白雪が?そう何度も何度も己に問い返した。
………もしも、もしも、白雪がこのまま帰ってこないなら…。俺は、どうなるのだろうか。いや、帰ってくる。そうだ、白雪はなにかあって…つれさられた?いや、白雪に限ってそんなわけがない…?ないとも、言えない…。
双子を義両親に預けると、狼は飛び出した。
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「私を、どうするの」
低く呟いた。白雪はとてつもなく不機嫌だ。帰ろうとしたら、突如襲われ不覚をとり今の状況だ。後ろで手は手錠をかけられ、椅子に座らされている。自由に話すことができるが、外との連絡手段がない。部屋は防音機能があるらしく、声はきっと届かない。
「どうする?それは、僕のお人形になってもらうんだよ」
白雪は、コイツ気持ちがワルいと思ったものの聞かなかったことにした。白雪にとって、この男は最近買い物先でレジ担当として出会った。
「運命だと思ったよ。僕の夢に出てくる僕の嫁…それが、君にそっくり…というより君だ」
徐々に近づいてくる男に舌打ちしたくなる。帰り道、煙の匂いに気づき足早にさろうとしたが香った時点で遅かったらしく、意識が遠のいた。いつも、太ももに装備していたホルスターには銃の重みがない。
「それにしても、こんな思いオモチャ持ってるなんてね、護身用?」と不思議そうにいうので、そっちの知識はないのだと知る。しかし、白雪はほくそ笑む。
………たとえ、同業者でなくとも己の命脅かすものにも制裁を。
「それが、オモチャ?」
ふふ、と笑みを零すと男は嬉しそうに笑う。バカなヒト、だと白雪は思う。本当に、バカなヒトだ。これから、己の身に何があるかも分からずに呑気に笑うバカなヒト。
パリン、小さくガラスの割れる音が聞こえる。それは、男には聞こえなかったらしく、警戒する素振りもない。白雪は、屈辱的な気持ちになる。こんな、バカなヒトに私は攫われてしまったのかと。
「……オオカミさん、来てくれたの?」
白雪は、溢れんばかりの笑顔でそう言うと、「うん、当たり前だよ赤ずきん」とオオカミさん、狼は言う。
「な、誰だよおまえ!」
男は状況判断出来ずに、狼に驚き叫ぶ。ここは、俺のアジトだとか。「俺の赤ずきん攫ったのに?関係ないよね、俺こそ聞きたいな。あんた誰?」
ギラリとした瞳を向ければ、男は震え怯える。「あ、でもいいや。名前なんて興味ないし、だってさ…」
「じゅ、銃刀違反だ!」
狼が帯刀している刀に気づいた男が、叫ぶがそれに盛大に笑ったのは白雪。「ふふふ、今更。返して、私の銃」いつの間にか、手錠から外れて手を伸ばす白雪に僅かに後ずさる男。
「あんた、も…君も一体何者なんだ?」
「そう、銃刀違反なんて皆無の世界の住人」
「あんた、の末路はこの刀に葬られる。……ただ、それのみ…だよ!」
狼は一気に男へと間合いをつめると、刀を一気に引き抜き切りかかる。バタリ、倒れた男の意識は既にない。「狼くん、居合い切り腕上がった?」
「うーん、そうかな?あんま、しないけど」
「ふふ、来てくれてありがとう」
いつもはポーカーフェイスを、笑顔にして白雪は狼に駆け寄る。それを、抱き留める狼。
「さあ、帰ろう?あの子たちがまってるよ」
「うん」
徒人は、関わってはいけない。メルヘンに。
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