46 王寺の血
あの子達が、力に目覚めたのは1才。
「荊ちゃーん」と、微笑ましく見守っていた白雪の母、麗良。つまり、荊と水のおばあちゃんになるのだが、彼女は異変にすぐさま気づく。
「あ~」と、手を伸ばす荊のまわりの物が少し浮き、麗良に突如眠気が襲う。咄嗟に距離をとった麗良は、すぐさまに水を見る。水は、大人しく眠っていたがパチリと目を覚ます。「う~」と、唸って荊に手を伸ばす。ぺしり、タオルケットが荊に直撃する。タオルケットが浮かび、荊へと当たったのだ。麗良は、目を見開きすぐさま白雪を呼ぶ。
「お母様?」
上から降ってきた白雪と狼に、麗良は慌てた顔(珍しい)で先程のことを話す。しかし、白雪と狼は至って冷静で白雪に関しては荊を抱き上げつつ、水の頭を撫でる。
「ダメ、わかった?」
荊にそう言い聞かせるように言うと、水には「いい子」と何度も頭を撫でる。ほにゃあとした顔の水は、なんと愛らしいことか。荊は、しょんぼり顔だ。
「言ってませんでしたね、俺の血が濃くでたみたいです。」
そう、狼がはにかみながら言うと麗良はすぐさま納得する。
「そうね、そうだったわね。狼くんは王寺の血だったわね!長らくすごしていたから忘れていたわ!」
と大きな声で一人納得。それを聞いた、他の家人がそこへと集結する。
「……なるほど、そういえば王寺だった…」
と、皆が忘れていた。ロイは一人分からず、頭を傾げていたが狼がそれに気づく。
「俺の元の家は、王寺っていうんだ。」
王寺家は、日本有数の貴族である。そして、特殊な力を有する一族でもある。特殊な力とは、日本では有名な陰陽の力。陰陽師の一族である。
日本でも、数家しかない力で他国では道士様だとか、エクソシストだとか言われるあの力である。
「俺、一族の中でも一番力持っていたからね」
それなのに、どうしてここにいるのか。それは、彼が暗殺されそうになって暗殺しにきた少女に恋に落ちここまできたから。どうして、暗殺されそうになったのか。それは、
「でも、妾の子だったし」
本妻の子よりも力を持っていた狼が、邪魔だったから。
「でも、あの時暗殺の計画がなかったら白雪とは出逢ってない。だから、良かったんだよね。」
でも、王寺家にとっては不幸の始まりだったのだろう。
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「ねえ、あなたがおじいたま?」
「ねえ、聞いてる?」
幼いが美しい顔のつくり、その顔を見た壮年の男は目を見開く。どことなく、失踪した愛しき息子に似ている。
「違うよね、もう一人のおじいたまはまだまだ若いもん!」
「比べちゃだめだよ」
「えーでも曾おじいたまも若いよぉ?」
「たしかに」
「もしや、狼の…」
それを、聞いた双子は満足げにその場をさった。
「おとうたま、元気そうでした!」
「はい、元気そうでした!」
「うん、あれでも一応親だしね」
あの男は知らないのだろう、俺の暗殺計画があったことを。本妻は知らないのだろう、俺がこうしてまだ生きていることを。
「……昨夜、狼の子が現れたんだ」
女は、驚きしかし顔には出さないように努めた。どうして、狼という言葉がでるのか。あの日、暗殺されたはずなのに。
「あ~」美しい歌声が庭から微かに聞こえた女は、障子を少しだけ開け外をうかがう。「……誰の声?」
「人魚姫の唄は、人を惑わす。僕の声、言霊は…人を死へと導く」
「あなたは、昔大罪を犯した。ようやく、仕返しにこようと思いましてね」
そこには、幼子二人と美しい女。それと、あの日殺されたはずの……妾の子。
「………殺しにきましたよ」
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