35 呼ぶ声
「白雪!!」
ぎゅっと抱きしめて狼は、叫んだ。
「…!!……ろ、」
「白雪っ」
「狼くん……」
瞳をぱちりと瞬かせて、白雪は狼を見つめた。
「……狼くん…狼くん…」
白雪もぎゅっと抱きしめて、狼の名前を呼ぶ。
「白雪、だめだよ。もう、あんなむちゃをしちゃ」
「…?…私」
「…どうしたの、白雪」
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白雪は、ぼうと座り込んだ。ふかふかのベッドの上で。
「白雪、本当に覚えてないの?」
こくり、頷いて白雪は口をひらく。
「ん、狼くんが捕まって殺されたって思って…それから、」
「記憶がとんでるんだね…」
狼は、考え込んだ。
覚えてない。あの、瞳の時のことを。らしくない、暗殺だった。一面、赤色のあの部屋。いつもは、綺麗な暗殺なのに…あんな。
「……今日は、疲れたよね。おやすみ、白雪…」
すやすや眠る白雪に、キスを落とす。
「もう絶対に、……堕とさせやしない」
****
どうして、狼くんの声はこんなにも心地いいのだろう。
一生にひとりの人。私、いや音木の血がながれる者は一生のうちに一人しか愛さない。
昔、いたそうだ。
愛した人には、既にパートナーがいてその人はそれ以降もずっと一人だったとか。それや、出会わないまま終わった人とか。
なぜ、音木は一人しか愛さないのか。
それは、家族以外に殺せない人を増やさないためだ。もしも、狼くんと結婚出来なかった場合…私はただ一人、狼くんを殺せないのだ。
だから、かな…。
狼くんの温もり、声、鼓動すべてが愛おしい。
狼くんがいなくなったら、私は私じゃなくなる。
本能がそう、言ってる。
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