33 紅い瞳
しまった。
白雪は、心の中でつぶやいた。
見上げるは、男の顔。嫌らしい顔でこちらを見おろす。
その顔に白雪は舌打ちをしたくなる。
背中に冷たい地面の感覚と、見おろす男に嫌気がさす。
なぜこのような状況になったのか、それは白雪が今日たまたま体調が思わしくなかったから。
今朝から体調が芳しくなく、熱もあったが音木家特有の方法というか特訓、体調コントロールによって平熱に抑えたが、しかし…思った以上に身体が思うように動かなかった。隙をつかれ、この有り様だった。
「へ~薄暗くって分かんなかったけど、極上じゃん?」
へへへと笑う男を無表情で見上げた。
「……おーい、なに1人で楽しんでんだぁ?」
「あー?そっちはそっちで、楽しめばぁ?」
「男で楽しめるか!」
白雪は目を見開いた。
───なんで?
「ま、よくわかんねぇけど、弱ってたんだよね~」
そういって男は、ドサリと1人の男を放り投げた。
その男に白雪は、見覚えがあった。いや、先程まで一緒にいた。
「……オオカミさん…?」
「あれ?もしかして、君の彼氏かな?」
そのニヤリとした笑みが、ムカついた。
「この男より、俺にしときなよ。同じ仕事でも、強い方がかっこいいだろ?」
と、狼の体を蹴り上げた。
「…あ、……あ、…」
白雪の中で何かがキレた。
「…え?どうしちゃったの?」
男はそう言おうと口を開いたが、激しい衝撃で飛ばされ壁にぶつかる。
「ぐっは…、…なに」
銃口を額にあてられ口を閉じた。
「…蹴らないで、オオカミさんを」
その瞳は紅く、その瞳に怯えた。
「……まさか、…はははいたんだ……cat's-eye…」
そう呟き銃音が響いた。
ドサリと、男が倒れた。
先程まで、白雪の上にいたはずの男は、いつの間にか気絶しており目覚めてみると男が死んでいた。
「……なに?なんなの…ヒッ」
ゆらりと白雪が男をみた。
鋭く紅い瞳。猫のような瞳孔。
裏社会では、伝説の瞳だ。通称cat's-eye。
暗殺者の瞳と言われるそれは、本当にあった。
「ハハハ、……かなわないや…」
また一つ、銃音が響いた。
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