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32 黒猫、黒

ニャー、薄暗い廊下に響く猫の鳴き声。

また、一つ鳴いた。



「…猫め、煩わしい…」


ニャー、

黒猫が男の前を突っ切る。

「不吉な!………黒猫め!」

ニャー、猫はまた鳴いた。じっと男の目を見つめながら、猫は鳴く。

「…なんだ、どっか行け!」

手で追い払うような仕草をする男になんの反応もみせず猫はじっと見つめる。

と、猫が跳ぶ。


とんっと跳ぶと、とある男の肩に乗る。

その男の頬に頬ずりをする猫。

「見つけたんだ、黒。ありがと」

「……じゃあ、ね。僕の猫を罵ったばーつだよ?」



不吉な笑みを浮かべた顔のきれいな男。

ペロリと舌を出した。



「あーぁ、つまんなーい。ねぇ、黒」


真っ赤に染まった男が転がっている。


***


「黒、にぼし…いる?」

「にゃ~」

白雪がにぼしをちらつかせると、黒は甘えた声で白雪にすり寄る。

「む~黒!白雪は、俺のだよ~」

そういうと、桃は黒をつまみ上げる。

「にゃーにゃー!にゃーにゃー!」

「黒、にぼし」

そんなのお構いなしに、白雪はにぼしを黒に与える。黒は嬉しそうににぼしを食べる。

「あ~白雪ぃ俺もにぼし」

「………どうぞ」

ただにぼしの入ったお皿を桃へ向ける白雪。それに不満を覚える桃。


「黒、おいで。」

白雪の肩に黒は乗る。

「狼くん、狼くん、……黒にごはん」

「ん~?あぁ、あれね!」

ゴソゴソ狼は、棚を漁ってある缶詰を出してくる。それは、この前の海外で購入した黒へのお土産だ。

「ほら、白雪。」

「ありがとう、狼くん」

つま先だちをして、狼にキスをする。それに微笑む狼。

「…黒、おたべ」

「にゃ~」


いつもは、普通の猫なのだが音木家は皆が普通じゃない。

それは、動物にも通用する。




「にゃ~ん、にゃ~ん」

男と女の前に一匹の黒猫。

黒猫は男女の顔を見ると、鋭い瞳にかえる。

「ニャッ!」

猫の爪が男と女の喉を切り裂いた。



「にゃ~ん」

尻尾を一振りすると、黒はその場を後にした。




「お帰り、黒。ご褒美は、何にしようかな?」

「にゃ~ん」


.

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