29 “絞殺”と“撲殺”
「おじい様ー、白雪たち終わったって」
「ほぅ、そうかそうか。」
ほっほっほっ、笑うと獰猛な目つきになる。
「おじい様、何をそんなに不安になってるんですー?」
桃は、抱えていた黒猫を撫でながら、一番いってはいけないことを言った。
「桃、お前はいずれ思い知る。それまで、ワシは現役でいられるだろうか?」
「さぁーねぇ?でもだいじょーぶ。あの子はそんなに脆くないよ、おじい様?不本意だけど、狼がいる限り。俺も父様もいるからねぇー」
ほっほっほっ、また一つ笑うと
「それは頼もしいわい。のう?雪や」
そう言って振り向いた先には、小綺麗な婦人。着物がよくにあう、和婦人な彼女はおばあ様。
「ですわねぇ、倭様」
それをじっと見ながら、依然桃は黒猫を撫でる。
「そうだ、今日おじい様とおばあ様にしてほしい依頼が…」
「人手が足りぬ、か。分かっておる、ワシも現役引退までは、殺るつもりじゃからのぉ~雪、お前さんも手伝ってくれるかの?」
「ええ、手伝わせていただきますわ」
「頼もしいなぁ~さて、と。俺も行くか」
*****
「なんだ、あんたら老人が来るような所じゃねぇぞ?」
若く厳つい顔つきの男は、老夫婦を見るやいなや言い放つ。
「あら、その口のききかたはしたのないこと」
「じゃのう?」
「…ぐっ…!」
「そのはしたのない口は、黙らせましょうね」
そういう前に、厳つい顔つきの男は首を締められていた。
バタリ、倒れた男の首からスルッとストールを取り去る。
「ほっほっほっ、お前さんも腕は鈍っておらんのぅ?」
「そうだといいですわね、最近は任せっきりでしたからね」
ずんずん奥に進めば進むほど、男たちがわらわらと出てくる。
しかし、倭はボコボコと殴り一発で致命傷を負わす。
その手には、竹杖だ。
「竹…」
「まさか…?!」
最奥で、一人高級感溢れる椅子に座していた男は慌てて立ち上がり銃を構えた。
「なぜ、ここに…メルヘンがっ!!」
男は瞬時に理解した。ここに2人の老夫婦がいる。それは、メルヘンだということに。一見、普通の老夫婦だ。若干若くは見えるがしかし、それはメルヘン。
メルヘンだから、己の部下たちはもう既にいない。
「用があってのぉ?」
「よ、用?……先日依頼したのはこの私だ!報酬が、少なかったのか?ならば、増やす!だから…!」
「ちぃーと、勘違いしてはないか?報酬はあれでいい、じゃがしかしな、今度はお前さんらを殺してくれとの依頼があっての?」
ほっほっほっ、笑うとカツンと竹杖を床にたたきつけた。
「な、なら!その依頼者を殺してくれ!報酬は、それ以上だそう!」
倭の隣に立っていた雪が、口を開いた。
「我が家の掟、依頼は依頼主が止めるまで遂行する。ですの、だから…アナタの死は確定ですわ」
男は、膝から崩れ落ちた。
「潔く、死してくれ」
倭は、竹杖を振り上げ男の頭へ振り下ろした。
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「昔は、竹刀じゃったがのぉ」
そう、昔は竹刀だったらしい。竹刀の先には固く重い鉄が仕込まれておりそこで撲殺されていたのだ。
「今じゃ、杖のが似合うからの」
そういうと、ぶんぶん振り回した。その杖の先には、やはり鉄が仕込まれている。結構な重量があり老人が振り回すのは厳しい。普通の老人ならば、の話。
───翌、撲殺と絞殺された死体が大量に発見された。
裏を知る人間たちは、一重にこう思う。
……竹取と、天女が再び現れた。
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