14 狼の趣味
天性の才とは、きっとこのことだと彼は思った。
白雪をそっと、見つめる。
美しい、黒髪と真っ白な雪のような肌。そこにいろずくピンク色の頬。
真っ赤な唇は、吸い込まれるくらいに見とれてしまう。
狼は、近づいてくる女に見向きもせずにいとおしい白雪は見つめていた。
あ、ターゲットに近づいた。そう、白雪の動向をじっと眺めながらすこし嫉妬する。男が、憎い。それが、数秒後に死ぬ相手だとしても。
近づいたことも、気付かれないうちに白雪は次々と殺していく。
倒れる、男女たちは”銃殺”されているというのに、音は一切ない。
そこが、余計に周りの者たちを怯えさせる。
どういう仕組みなのか、狼には一切わからない。銃を得意とするのは、周りに白雪しかいないからよほどだ。
天才か、とポツリ呟いて。誰にも悟られないように伸びをする。
さて、白雪ばかり働かすわけにはいかない。邪魔にならない程度に、殺るか。
いつもの愛刀はさすがに目立つため置いてきた。今日は、ナイフで行くか。
スーツの裏地に隠しもった、ナイフをそっと袖に隠す。
白雪に近づいて、そっと耳打ちをする。
「帰ったら、アレしてもいい?」
「・・・ん。」
肯定するように、一言もらす白雪に満足する狼は満面の笑みだ。
「やった、すぐ終わらせるから」
そう一言告げて、即座に離れる。
大丈夫、ばれていない。誰も、俺たちに気付いていない。
さっと、ターゲットの背後に回り首の動脈を寸分違いなく”斬る”。
彼の得意とする、”斬殺”。瞬時に切れば、人間というモノは斬られたことに気付かない数秒があるのだ。そのすきに、離れればいつその人は斬られたのか誰も分らずに混乱を招く。そう、そうすればこちらも仕事がはかどる。
混乱すればするほど、危機回避能力が下がる。
好都合、もっと、もっと、混乱しろ。
警視庁の人がいるにもかかわらず、今回の被害は多大すぎた。
その日の深夜のニュースでは、大々的に取り上げられ謎の殺人事件として巷をにぎわすのだった。
*****
「ろ、う、くん・・・・!ん、い・・・」
白雪は、苦痛の声をかすかにはいた。
「ダメ、まだ、ダメ」
狼は、白雪を揺らす。
「ろぉーく、ん。も・・・」
パタリ、白雪の手が虚空をつかんで落ちる。
「もー、ダメって言ったのにー。」
狼は、白雪の上で呟いた。
「寝ちゃうなんて。そんなに、良かった?白雪」
ニヒルな笑みを浮かべた狼は、後片付けを始めた。
マッサージセット、そう狼が言うのは数々のクリームたち。
狼の趣味の一つ、それは白雪を磨き上げること。
白雪のマッサージをするにも、いいクリームを使うし、
つやつやの髪を保つためにも、シャンプーもコンディショナーもオイルやらなんやらかんやら取り揃えている。
「むー、いつもいつも終わる前にねるー。」
そういって、狼もその横に滑り込む。
「・・・・おやすみ、白雪」
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