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possed day's

作者: 近接戦闘士
掲載日:2013/07/12

「一万円あったら何に使いますか?」

隣人、というにはあまりに近い空間を共有している秋島怜子が、例によって例の如くよくわからない質問をよこした。

「一億円とかじゃないんですか?」

よくありがちな百万円あったら~みたいな質問と同系統のものだ。こういう想像はスケールの大きい方が色々と膨らむと思うのだが、えらくスケールのちっさいもしも話だな、とか思う。言わないけど。

「いえいえ‼、一万円だからこそいいんですよ‼」

「というと?」

「一万円なら、おそらくは誰でも使ったことあるじゃないですか‼、だからこそ現実的に考えられるんですよ‼」

「夢を見させたいのか現実を見させたいのかハッキリしろ」

世の中には一日百円とかで過ごす方々もいるのだ。多分。

思わず振り向いてツッコんでしまったがために、話してである怜子さんの姿を見てしまった。黒髪お下げに丸めがね、眼が大きく、それなりに整った顔を台無しにしている古めかしいセーラ服はまあいい。問題は足下、そこにあるべきものがないという点である。

つまり、怜子さんは霊子さんなのであった。

「前々から思ってたんですけど、その日記の中での私の呼び名、些か失礼ではありませんか?」

大学生活も二年目に突入し、今はその夏休み中である。大学生の夏休みなんてひたすら遊ぶに尽きるのが世の理の筈なのに、僕は小学校四年生から馬鹿正直につけている日記を書いていた。書いてる時はのぞかず、そももそも日記を読むなと言ったはずなのだが、霊子さん、いや怜子さんには伝わらなかったらしい。異文化コミュニケーションは困難とみえた。

「いいじゃないですか、後世、これが世に出る日がくるかもしれない以上、可能性が0ではない以上、ある程度のユーモアを取り入れることは必要です。」

「どうしたらそんな日がくるんですか?」

「それは知りません」

大犯罪でも犯せば参考資料とかで出回る可能性があるかもしれない。というか、そんな状況下でこの日記を読まれたら精神異常者扱いされるのはまず間違いない。末代どころか子々孫々、永遠の恥となるだろう。

何だよ幽霊って、妄想かよ。みたいな

「ていうか名前ですよ‼、仮にそんな可能性があったとしても、それとこれとは無関係です‼。おっ父おっ母がつけた大切な名前なんです‼」

「日本国憲法に幽霊の人権保障に関する項目はありません」

というか、まず人じゃないし、人権ないし。

霊権かな?

ラノベに出てくる用語っぽいが。

ひどいよひどいよ・・・、と隅でいじけている怜子さんを放置して日記に向うが、どうにもペンが進まない。一日もまだ14時間しかたっていないし、焦ることもないので一旦閉じる。

「さて・・・」

部屋を見渡す。ベットの下でいじけているのを除けば特筆すべき点がない部屋である。PCラックにデスクに本棚、クローゼットとベット。ポスターや写真の類は一切ない上に、白黒基調の部屋なのでえらく殺風景な部屋である。娯楽といえばせいぜいネットか読書しかないが、生憎興が乗らない。こういう時には寝るのに限る、とはいえ昼頃まで惰眠を貪っていたので驚くほど意識は鮮明だ。眠気のカケラもない。

ということで・・・

「居候さん、ちょっと出かけてるので留守をお願いします」

幽霊にどんな防犯機能も望めるはずもないが、一応言っておく。

「ぐすっ・・・、どこに行くんですか?」

「えーっと、その辺をブラブラしようかと」

「・・・私も行きます」

だから言いたくなかったんだよ

「駄目です」

「なんてですか⁉」

案の定ベットの下から抜け出して(というか透けて)抗議する怜子さんに間髪入れずに言う

「幽霊が昼間に出たら変じゃないですか、化けて出るのは夜が相場と決まっています。」

「昼間から現れる幽霊だっていますって‼」

まあ言ってる本人が幽霊だからな

「いえ、天地を逆さにしてもそんなことはあり得ません。幽霊らしく日中は草葉の陰で大人しくしていてください。」

「そんな・・・」

「それこそ、です。」

財布と携帯電話を、出かける時に最低限必要なものをポケットにいれつつ

「さっき怜子さんが言っていた、権利を守るためでもあるんです」

人間には人間らしく

「幽霊には幽霊らしく存在する権利があるでしょう?、それにのっとれば本来なら夜に化けて出る幽霊が、昼間の街中を闊歩するなんてことはあってはいけないと思うんですよ」

「そ、そんなの揚げ足取りですよ‼、そんなこと言ったら、橋の下とかで寝てる人達はどうなんですか⁉、あれが人間らしい生活なら橋の下を増設する必要があるでしょう‼」

「彼らにとってはあそこがホームなのです」

人には人の家意識があるのです

そして橋の下を増設とか無意味すぎるから

「では、出掛けますんで大人しくしていてください」

まあ

うるさくて誰に迷惑をかけるでもないが


外に出ると、嫌でも夏を感じさせる要素がいっぺんに体を打つ。殺人的な陽射しに始まり、アスファルトからの地熱、まったく涼しくない風、蝉の鳴き声は無限ループし目に染みるほど空は青い。

「これは・・・失敗したかな」

暑いのは嫌いではない。だが物事には限度というものがあり、気温32℃という情報はその限度を超えていると判断できる材料といえるだろう。暑すぎる。地球温暖化もここまでのレベルに達してしまったかと地球環境への配慮を見せたいところだが、現在進行形で必要なのは自分への配慮である。

とりあえず歩く。そこまで広い道路ではないために車が通らないのか、閑散としていた。まあこの暑さで外に出かけるなんて正気の沙汰ではないのかもしれない。家で甲子園でも見ているのだろう。

「・・・しかし暑い」

額にはもう汗が浮いている。この様子では遠出をして水分不足で倒れるかもしれない。ギャグみたいな話だが、それだけ暑い。しかし、辺りを見回して見えるのは蝉のみ。子供の姿も大人の姿もそうじてナッシング・アットオール、だ。僕が小学生くらいの時を思い出せば、夏といったら蝉取りをしたりプールに行ったりしていたものだけれど、今の子どもは蝉とか触れないのだろうか。まあ今考えると何であんなに余命一週間の昆虫の収集にあれだけの情熱を捧げていたのか、まったくもって不明だが、それでもジェネレーション・ギャップを感じずにはいられない。

後半へ続く・・・

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