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プログラミング・デス  作者: 河野 る宇
◆最終章/螺旋は静かに絶え入る
11/13

*起因

「追ってくると思う?」

 その問いかけに、ベリルはジーンを一瞥した。

「ああ、感じてるんだね。後ろの気配」

 視界には高い木々のない荒野を走るバックミラーに不審な影はない。それでも、フォージュリの気配をベリルは感じ取っていた。

 からみつく憎しみの感情に圧迫感を覚えて深く息を吸い込む。

 初めに出会った時よりもフォージュリの気配はより近く、強く、ベリルにまとわりついている。

 もうしばらく走り続ければバリングラにたどり着く。その前に、フォージュリが仕掛けてくるかもしれない。

「無駄なのに」

 ジーンは肩をすくめてベリルの横顔を見つめた。

 無駄な事を何故、続けるんだろう? どうあがいたって、フォージュリから憎しみを取り去る事など出来ないのに。

「ねえ」

 呼びかけに、ジーンを視界の端に捉える。

「僕たちが父さんと同じ世界にいたこと。不思議に思ってる?」

 それに答えなくとも、ジーンにはベリルの感情が読み取れているようだ。

「父さんが勉強のために外の世界を観察する時間を与えられていたように、僕は父さんを見る時間を与えられていたんだ」

「そうか」

 虚ろな相づちにジーンの口元が緩む。

 見られていたことなど、ベリルにとっては今さらなのだろう。施設には、いたる所に監視カメラが設置され四六時中、観察されていたのだから。

 研究のためと言いつつもその実、逃亡を図ることを危惧していたのかもしれない。当然のことながら、恐れていたのは施設にいた者ではなく、政府の人間たちだ。

「父さんは天才少年という名目で、呼び出された専門家から学んでいたけど、僕は秘密の秘密だったから、取り寄せた教材で研究員たちから学んでいたんだ」

 勉強については、どうでもよかった。覚えればみんな喜ぶし、怒られないから楽しいものだったよ。

 僕が一番楽しかったのは、やっぱり父さんを見ている時間だった。

「ブルーっていう兵士に、戦術を教わっていたよね」

 ベリルは、その名前に複雑な色を瞳に映す。

 ブルー・ウェルナス──彼は、ベリルの初めの師と言ってもいい存在だ。ブルーがいたからこそ、ベリルは襲撃の際、敵と遭遇しても冷静に闘う事が出来た。

「父さんの訓練風景に、僕は見とれてた」

 兵士が教えたことを、あっという間に自分のものにして、みるみると強くなっていく。

「僕は見たんだ」

 父さんが敵と対峙して、相手を見事に殺した瞬間を──その言葉に、ベリルは目を見開いてジーンと視線を合わせた。

「あのとき、僕は闘いに魅せられたんだ。もしかすると、あいつ(フォージュリ)も別の場所でそれを見ていたのかもしれないね」

 ジーンの目には、ベリルの姿がとても美しく鮮烈に映った。施設を出れば退屈な日々から解放され、刺激的な生活が待っているのだと心が躍った。

「そうか」

 今度は、苦々しく応える。

 顔も知らない男と闘い、初めて人を刺し、初めて人の命を奪った瞬間を、ジーンは見ていた。

 あのときのことは、今でもはっきりと覚えている。

 生きた肉を刺した感覚と、脈動する皮膚。手に伝い落ちる血液の生暖かさ──それら全てが一瞬で手から全身へと伝わり、込み上がる吐き気を必死に抑えて震える体で懸命にその場から遠ざかった。

 彼らはその場面を、私とはまったく異なる感情を抱いて見ていたのか。

 それが事実であるならば、ジーンやフォージュリが命を奪う事に躊躇いがないのは、私にも原因の一端があるということになる。

 皮肉というには、あまりにもナンセンスだ。

 相手を殺したかった訳じゃない。けれども、私の「家族」を死に至らしめた者に報いをと少しも考えなかった訳ではない。

 その感情が画面越しに彼らに伝わっていたのだとすれば、私の罪は大きい。

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