*プロローグ
この世界にいる事は、私にとって適正であり、満足な死を迎えられるのだろうと思っていた──それが敵わぬものであると理解したとき、そこには喜びも感動も絶望もなく。
やはり私はただ、それを冷静に受け止めていた。
──ベリルは、数ある家のうちの一つ、ダーウィンの別宅にいた。
オーストラリア連邦ノーザンテリトリー準州の首府、ダーウィン。オーストラリア大陸北側のチモール海沿いに位置している街である。
仕事を終え、数日のんびりしようと買い物を済ませてキッチンで冷蔵庫に食材を仕舞っていた。
フリーの傭兵をしている彼は、抜群の戦闘センスと指揮の高さに、その世界では名の知れた人物だ。
歳の頃は二十五歳ほどだろうか。百七十四センチと、やや小柄な印象ではあるが強烈な存在感から、それをまるで感じさせることはない。
金髪のショートヘア、神秘性を備えたエメラルド色の瞳に整った目鼻立ちと魅力的な面持ちをしている。
ソフトデニムのジーンズに黒いインナースーツ、その上から薄手の前開きの半袖シャツを着こなし、まるで高価な衣服であるように感じさせる。
名のある傭兵と言われる通り、誰もが目を見張る彼の強さに、いつしか「素晴らしき傭兵」とまで呼ばれるようになった。
二十歳の時に付けられた通り名だが本人は当然、気に入っている訳ではない。
当初、皮肉から名付けられたものではあったけれど現在、その名は真実であることは誰しもが認めている。
仕事の内容は主に戦時下での住民の救助のため、収入はあまりないようにも思われるが成功率の高さ故に、慈善事業の一環としてスポンサーが多くついている。
もちろん、彼の風貌から根強いファンも一部にはいて、金額の大小に拘わらず寄付をする人数は膨大なものとなり現在も増え続けている。
管理だけでも大変であるため、専門の業者に任せている。
今はアメリカに住んでいるが、ゆくゆくはこちらを主な住処にしようと考えている。