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一章〜入隊

 EUS(ヨーロッパ連邦)――新たな技術を取り込むアメリカ/急成長を見せる中国などの大国に経済的/文化的に対抗するために作られたEUがさらに結びつきを強める=一つの国家に。

 政治的/経済的統合よりも文化的統合を推進――世界で最も数多くの魔法の起源を持つ地域が協力したことにより、アメリカ/ロシア/日本などを追い抜き経済/文化/技術の中心に。

 イタリア地方バチカンにあるヨーロッパ連邦軍《魔法部隊》のイタリア第2支部の一室――床にレッドカーペット/映像を写す水晶/積み上げられた書類――情報管理室。



「こんにちは」

 その部屋にある唯一の木製ドアを開けて入る少年。

「お疲れ様。あと一人だからもう少し待っててね」

 おそらく普通に話しているだけなのに妙に色っぽい女性の声――黒い長髪のストレート/肌色の肌/黒といっても差し支えのない目/放漫な胸/きっちりとしたスーツ姿/椅子に座ったまま――大人の魅力満載のナイスバディ。

「あぁ、アンタか」

 無表情な少女Aの声――肩のあたりで切られた金髪/鋭い視線=青い目/白い肌/平均的な胸――誰も近づくなと言っているような雰囲気。

「お前と一緒か」

 嬉しそうな少年の声――短く切られた黒髪/黒い目/肌色の肌/平均的な背丈――どこにでも居そうな男子の風貌。

「悪い?」

 少女Aの声――相変わらず感情なし。

「えっ、あ……」

 少年の返答――言葉に詰まる。

「ごめんなさい、遅くなりました」

 突然聞こえる声=少女B――毛先のカールした短めのストレート/黒い髪/黒い目/細い足/小さな背――張り詰めた空気を一瞬で壊す脳天気な明るさ。

「それじゃあ、始めるわよ」

 椅子から立ち上がる女性――3人を集める。

「今年の連邦軍、イタリア第2支部に配属になったのは、君たち3人です。厳しい試験の結果、軍に配属になった事に心から祝福申し上げます」

 女性の声――先程までの色っぽい様子は微塵もなし/堂々とした大人の態度。

 少し緊張する3人/女性が再び腰を下ろす。

「それじゃあ、自己紹介をしてもらおうかしら。まずはあなたね」

「はい」

 女性の指先が少年の方へ/少年がいきなりの指名に少し驚く/すぐに自己紹介を始める。

「エンブ=グレンです。生まれも育ちもフランスで、超能力(スキル)発火能力(パイロキネシス)です。魔法は一切使えませんが、よろしくお願いします。」

 頭を下げる炎舞/突然女性の声――椅子に座りながら/以前の色気たっぷりの様子。

「嘘を言わなくていいわよ」

「先程言ったことに嘘は無いですけど」

 戸惑うエンブ/再び口を開く女性。

「それじゃあ、私が言っちゃうわね」――相変わらず色っぽい声。

「生まれは《科学界》の日本、幼少時に超能力(スキル)に目覚めアラスカに移住。12歳で次元の裂け目(ワームホール)に飲み込まれ《魔法界》へ。これで間違いないわよね?」

「はい」――エンブ=戸惑いを隠しきれず。

科学界(・・・)!?」――少女A=驚きで目が大きく開く/直ぐに睨みつけるような目に。

「あと、得意魔法は炎の元素魔法って名乗りなさい」

「俺、元素魔法習得の為の儀式なんて受けてませんけど」

 反論するエンブ。

「あなたは発火能力(パイロキネシス)だけでも充分戦えるから軍に配属になったけど、普通そんなことあり得ないのよ」

「はぁ」

 女性の強い物言い/反論すら出来ないエンブ。

「あと、出身に関してはあなたが最初に話した通りでいいわ」

「分かりました」

 返答するエンブ――押されるがまま。

「次はあなた」

 女性の指先が少女Aへ/自己紹介を始める少女A――いかにも面倒くさそう。

「名前はフェリシー=セヴェール。出身はフランス。超能力(スキル)は無し。得意魔法は筆記(スペル)魔法全般です」

 口を閉じる少女=フェリシー――よろしくお願いします、の一言もなし。

「問題ないわね」

 うなずく女性/とっさに反論するエンブ。

「どういうことだよ、得意魔法なしって?」

「どの魔法も万遍なく使えるってことよ」

 口を閉じたままのフェリシー/代わりに女性が返答。

「そんなことって……」

 エンブ――続けて食いつく。

「あんたみたいな落ちこぼれとは違うのよ」

 国立第一中学校の成績――フェリシー=学年主席/エンブ=最下位。

「……」

 エンブの沈黙――返答できず。

「それに、よく軍に入れたものね」

 連邦軍=最高の仕事――強い力を持つものを常に国の管理下に置くため/死亡率が高く敬遠されがちなため――最高の待遇/世界一の企業の社長の年収を優に越える給料。

「……」

「学校での成績が強さを表すとは限らないしね。成績は仕える魔法の数や制御の上手さで決まるし」

 女性の言葉――黙るエンブに代わり補足。

「それじゃあ、最後にあなた」

 にらみ合うエンブ+フェリシー/2人を気にせず次に進める女性――伸ばした指先が少女Bに/元気に返事をして話し始める少女B。

「ユカ=ストウです。育ったのはフランスの孤児院ですが、12歳より前の記憶が無いです。超能力(スキル)は使えませんが、召喚魔法の錬金術が得意です。よろしくお願いします」

 12歳以前の記憶が無いというより12歳そのもののような少女B=ユカの話し方/姿/振る舞い。

 有香!?――ユカに誰かの面影を見るエンブ/そんなわけないか――勝手に納得。

「あとは私ね」

 立ち上がる女性――やはり色っぽい。

「名前はシェイラ=レデーロ、出身はスペイン。通信官ね。得意な魔法は精神系全般、超能力(スキル)はヒミツ♪そういうことで、これからよろしくね」

 女性=シェイラが話し終える/軽く頭を下げる/再び口を開く。

「今日から、この第2支部で生活してもらうことになるわ。詳しいことは、部屋にいる家政婦さんに聞いてもらえればいいわ」

「はい」

 ユカの元気な返事/無言で頷くエンブ/特に反応なしのフェリシー。

「あと、任務以外で外出する場合は門番さんにその趣旨を伝えてね」

「はい」――ユカの返事。

「分かりました」――炎舞の返事――意外とハッキリ。

「……」――無言のフェリシー――聞いているのかどうかすら分からない。

「まあ、伝えなくてもどうすることもないけどね」

 そう話すシェイラ――軽く笑いながら/右手を軽く挙げるエンブ。

「あの……」

「何?」

「どうすることもないって……」

「本当は罰を与えたいのは山々なんだけどね。でも、それがきっかけで反乱をおこされたら、たまったものじゃないしね。だから、犯罪なんかも大抵無罪扱いになるわ」

「はぁ」

 話すシェイラ――世間話でもするよう/エンブの返事――反応に困る。

「何か質問があれば今聞くけど、何かある?」

「何もありません」

 問いかけるシェイラ/ユカの返答/頷くエンブ/反応なしのフェリシー。

「それじゃあ、部屋の方に行ってちょうだい。入り口のところにあった階段から2階に上がってもらえれば地図があるからそれで場所を確認してね」

 そう言われ3人は部屋を出て行った。



「おい、やっぱり間違いだよな。これ」

「違うでしょ、書いてあるんだから」

 地図を頼りにたどり着いた部屋の前――誰にともなく質問を投げかけるエンブ/ボソっと答えるフェリシー。

 部屋の前の表記――214号室 フェリシー=セヴェール・エンブ=グレン・ユカ=ストウ。

 一つの札に書いてある3人の名前=同じ部屋での生活。

「ただいま」

 言葉が続かず、ぼっ立っている2人/ユカが先にドアを開けて中へ。

「おじゃまします」

「失礼します」

 エンブ/フェリシーも遅れて中へ――初めてはいる部屋で妙に緊張/自室に入るときにあわない挨拶に。

「お帰りなさいませ、ご主人様」

 出迎えの家政婦――白いフリルのカチュウシャ/黒い上着/フリルのついたスカート/その上にある白いエプロン=メイド服。

 その衣服に身を包んだ黒髪/茶色い目の17・8の少女の挨拶。

「……」

 どこからどうみてもメイドにしか見えない相手に呆然となるエンブ/気にせず話し始めるメイド。

「フェリシー様、ユカ様、エンブ様でよろしいですね」

「はい」

 フェリシーの返事――やたらと高めのトーン。

(わたくし)はメイドです。今日から皆様の身の回りのお世話をさせていただきます。不束者ではありますが、よろしくお願いします」

「よろしくお願いします」

 丁寧にお辞儀をするメイド/それに答えるフェリシー+ユカ。

 1人置いていかれるエンブ――職業名(・・・)ではなく名前(・・)を名乗ってください=内心のツッコミ。

「お疲れのご様子ですので、説明を手軽に済ませてしまいますね」

 メイドが説明を始める。

 別に疲れてないけど=エンブの内心――1人だけ状況についていけず内心投げやり。

「今居るのが、共通で使用する大広間になります」

 大広間――大きめのテーブル/赤い絨毯/レンガで造られた暖炉。どこにでもありそうなリビングの風貌。

「右に2つ、左に1つあるドアが個室へのドアですね」

 ドア=木製/鍵付き。下げられたプレート――左側=エンブ、右側手前=フェリシー、右側奥=ユカ

「そして奥のドアは左から浴室、お手洗いと、恥ずかしながら(わたくし)の自室となっております」

 奥の3つのドア――丁寧に、浴室のマーク/トイレのマーク/メイドと書かれた札がついている。

「今日は1日休暇だそうですのでご自由にお過ごしください。ご昼食は呼びに参りますので」

「はーい」

 ユカ+フェリシーの元気な返事。

 それを境に各々の部屋へ散っていった。



 木製のベッド/勉強机を連想させる机/綺麗な模様のクローゼット。高級ホテルよりも、別荘のイメージ。

 柔らかい――部屋を一通り見終わるなりベッドに腰をかけたエンブの素直なの感想。

 コンコン――不意に響くノックの音。

「ご主人様、お少しよろしいでしょうか?」

 ドア越しに聞こえるメイドの声。

「どうぞ」

 ドアを開けるエンブ/失礼します、と断って中に入るメイド/口を開く。

「送られてきたお荷物は勝手ながら整理させていただきましたが、問題なかったでしょうか」

「はい」

 本棚に並べられた本/クローゼットの服――まるで店の展示品。

「しまうの上手ですね」

 会話が続きそうにないので、感想を述べる。

「恐縮です」

 メイドの心からそう言っているかのような返事。

「あの、メ、メイドさん……」

 エンブの語尾のしぼんだ問いかけ――呼び方が呼び方なだけに恥ずかしくなる。

「何でしょうか?」

 それに気づかず不思議な顔をするメイド。

「本名を教えてもらってもいいですか?」

 呼び方を変えたい――エンブの本心。

「先程申し上げましたようにメイドと申します」

 にっこり――炎舞の変な質問に疑問/職業故にそれをごまかす。

「職業ではなくて」

 メイドがメイドと名乗る事=執事が執事と名乗るのと変わらないだろう――エンブの内心でのツッコミ/訳が分からないのでボツ。

「失礼いたしました。本名はメイド=メイドと申します」

 唖然となるエンブ/かまわず続けるメイド。

「私たちの家系はメイド家といいまして、世界最多のメイドや執事を輩出しております。私の母がメイド家出身なのですが、父の家系に嫁に入りまして、名字が違っても立派なメイドになれるように、メイドと名付けられました」

 いきなり大きなスケールの話/さらに唖然となるエンブ。

「ですが、メイド家の後継ぎであった叔父が死んでしまったため、私が養子に入りメイド=メイドの誕生という訳でございます」

「あだ名とかないんですか?」

 話が終わるなり直ぐに質問を切り替え。

「恥ずかしながら昔からメイドちゃんと呼ばれてきたので……」

 笑顔で帰るメイド/額に汗が浮かぶよう。

「もしよかったら、ご主人様がご考案してくださってもかまいませんが」

 早速思案――メイメイ/メイちゃん――恥ずかしいのは変わらないので却下/他になし。

「それじゃあ、今まで通りメイドさん、と呼ばせてもらいます」

「ありがとうございます、ご主人様」

 諦めたエンブ/返すメイド=にっこり。

「あと、出来れば呼び方を変えてほしいんですけど」――エンブの本心その2。

「でしたら、お坊ちゃま、エンブ様、エンブ君、お兄ちゃん等いろいろ出来ますが、どうしましょうか?」

 お坊ちゃま=大して変わらないので却下/エンブ君、お兄ちゃん=俺にはそんな性癖はない――内心の叫び。

「呼び捨てで呼んでもらってもいいですか?」――エンブの必至の提案。

「まさか、そんな失礼なこと……」

 断るメイド――さすがに慌てたような顔/再び折れるエンブ。

「普通に名前で呼んでください」

「かしこまりました、エンブ様」

 メイドの返答。

「そういえば、何か用事があったんじゃないですか?」

 話題を変えるエンブ/それに質問を返すメイド。

「ご夕食のことなのですが、何かご希望があればお作りしますが何かありますでしょうか?」

「希望って、なにが作れるんですか?」

「フランス料理からイタリア料理、中華や和風、各種民族料理など大抵のものは心得ておりますが」

「凄いですね」

 驚きのあまりそれしか言えず/しっかりと意識を持つ。

「お好み焼きとかって作れますか?」

 お好み焼き――6歳で生き別れた実の母の得意料理。

「大丈夫ですよ」

「それじゃあ、お願いします」

「かしこまりました。それでは失礼いたします」

 その言葉を最後に部屋を出ていくメイド。

 その日の夕食は、しっかりと覚えていない母の味を鮮明に思い出すものだった。


「早速なんだけど」

 第2支部に到着した翌日/シェイラの自室。

 昨日とは違う服装――学ラン/セーラー服=軍の制服――で話を聞くエンブ/フェリシー/ユカ。

 朝食の味の余韻を楽しみながら話を聞くエンブ。

「西部の方に任務に行ってもらうわ」

 説明するシェイラ――部屋着。

「西部って西部ですか?」

 西部=剣士の地方。急激な魔術文化の成長により文化/生活格差が開く/無視して政策を進める/より格差が開く/非魔術師による反乱。

 その後、EUS議会により、魔術師を西/非魔術師を東に移住させる――東西それぞれ政治/文化が成長――国際上では同一国家でありながら、今ではほとんど別の国のように。

「皆さま、お飲み物が入りましたので、よろしかったらお飲みください」

 不意に入る声――バンダナでまとめられた髪/一般的なエプロン/30代だろう顔に浮かぶ暖かな笑み。

「ありがとう、サーラさん」

 暖かな紅茶を受け取るシェイラ/3人もそれに続いて受け取る。

「紹介しておくわね。私の部屋の家政婦のサーラ=ピアッツァさんよ」

「サーラです。よろしくお願いします」

 挨拶するサーラ/返す3人/続けて口を開くエンブ。

「なんで、メイド服じゃないんですか?」

 一瞬で場が静まる――自分の失言に気づく/苦笑しながら返すサーラ。

「スミマセン。あいにくそのような物は持ち合わせていないもので」

「え、だって家政婦=メイドじゃ」

「申し訳ありません。イメージを損なわせるような服装で。次までには必ず準備を……」

「そうじゃなくて」

 すかさず否定――自分を変な目で見られるのを防ぐため。

 黙ってみていたシェイラが口を開く。

「この支部ないでも、家政婦がメイドなのはあなた達の部屋とその他一部ぐらいよ」

「なんで……」

 言いたいことが分かってるんなら早く口を入れてください。

「それは、メイドがいいって希望した人がいるからよ」

 話に興味を示さないフェリシーを除く全員の視線がエンブに/少なくとも自分でないことを内心で確認/同時に弁解の余地がないことを悟る/急いで話題を逸らす。

「この紅茶美味しいですね」

「ありがとうございます」

 よし成功――心の中でガッツポーズ。

「まあ、メイドちゃんには負けますが」

 結局戻る話題。

「仕方がないんじゃない?あの子って、前年度の奉仕選手権の世界大会で優勝した上、戦闘部門を除いて最優秀賞を総ナメしたんでしょ」

「そうですよね。私なんて総合で3位のみですもんね」

 フォローしたシェイラ/逆に落ち込むサーラ。

「ちなみに、その大会って難しいんですか?」

 訊ねるユカ――首を傾げる姿が保護欲を誘う。

「難しいわよ。なんてったって、世界中のメイドさんや執事、お手伝いさんが全員参加するのよ。メイドがいるから目立たないけど、サーラさんも充分すごいのよ」

「そうですよね。この紅茶美味しいですもん」

 ユカの柔らかな声/顔。

「でも、何でそんな凄いメイドさんがユカ達のお世話をしてくれるんですか?」

「誰かさんが世界一のメイドをって希望したから」

 履歴書内のアンケートの質問のひとつ――職場に対しての希望/ああ、あそこか――エンブの回答=無記入。

 再びエンブに集まる視線/相変わらず無関心なフェリシー。

「で、今回の任務ってどんな内容ですか?」

 またも話をそらす。

「ああ、あなた達、連邦軍の《剣士部隊》が西部(こっち)に攻め込んだ事件知ってる?」

「はい」

 話を聞きだしたフェリシーの返答。

「今は、警察が応戦してるわ」

「それを制圧して来いってことですか?」

「それが出来たらいいんだけどね」

「だったらすればいいんじゃないですか?」

 フェリシーの疑問――何も考えず。

「出来ないからこうやって話してるんじゃないの」

 返すシェイラ――多少あきれた声。

「出来ない理由があるってことですよね」

 割り込むエンブ。

「ご名答」

 エンブを指差すシェイラ/すぐに戻る。

「攻め込んできた全員が催眠状態だったのよ」

「つまり、どういうことですか?」

 聞き返すエンブ。

「要は、何者かに乗っ取られたか否かを確かめてこいってことですね?」

 いち早く自体を理解したフェリシー。

「そういうこと。国際的な立場が悪化しかねないから氾濫と分からない限り軍を出せないのよ」

「具体的には?」

東部(向こう)のお偉いさんに確認とか取れれば理想ね」

「もし、何者かに乗っ取られてたら制圧すればいいですか?」

「あなた、やたらと血走るわね」

 攻めるような声。

「乗っ取られてたとしても、これだけ大規模な術をかけられるやつ相手にあなた達が勝てるわけないから、分かり次第、別の部隊を送り込むわ」

「それじゃあ、行ってきます」

 部屋を出ようとするフェリシー。

「待ちなさい」

 明らかに怒りの見える声/フェリシーの足が一瞬で止まる。

「初任務で緊張してるのは分かるけど、落ち着きなさい」

「緊張なんて」

 返すフェリシー/再び怒声。

「それが緊張って言うんでしょうが」

「うっ……」――反論できず。

「で、フェリシー、あなたテレパス石ってどのレベルのものを持ってる?」――普通の声に戻る。

「ヨーロッパ全域に届くくらいまでは」

「それじゃあ、これをもっていきなさい」

 机の上にある赤い石を取る/フェリシーへ――受け取るフェリシー。

「いいんですか、こんな高価なもの」

「支給品よ。今回はあんまり変わらないと思うけど、一応地球上ならどこでも伝わるから」

 地球上って、それ以外に出ることなんてあるんですか?――フェリシーの疑問。

「あとこれ」

 机の上の人形に手を伸ばす/フェリシーに手渡す。

 受け取ろうとするフェリシー/動きが止まる。

「なんですかこれ?」

 シェイラの手にある人形――整った顔+凹凸のある身体=シェイラ/紐を中心とした露出の多い黒い服/別についている黒い鞭。

「何って、人形よ」

『そんなことは分かります』――エンブ+フェリシーの斉唱。

「藁人形に釘をさす儀式って知ってる?」

「丑の刻参りのことですよね?」

 日本人であるエンブではなくフェリシーの返答。

「そうよ。それの応用版で私のコピーに当たるわ」

「それをどう使えと?」

「テレパシーの届かないところにいるときの連絡手段よ」

「テレパシーの届かないところって……」

 あるのかよ――内心の叫び。

「そのうち分かるわ。それより使い方なんだけど」

 一瞬身構えるフェリシー+エンブ+ユカ。

「私から伝えるときはいいけど、あなたたから連絡するときはここを押しなさい」

 ここ=2本の足の付け根。

「他に方法は」――エンブの質問/間髪いれず。

「ないわ」――即答。

「分かりました」

 受け取るフェリシー――早く話題を引き上げる=使う気無し。

「あと、よかったらつながってるときにこの鞭でたたいてね」――手に鞭/フェリシーに渡す。

「効果は」――抵抗の気力すらなし。

「つながってるときは、この人形の衝撃がそのまま私の感覚になるから、そういうことよ」

「分かりました」――受け取るフェリシー=もちろん使う気無し。

「他に質問はある?」

「リーダーは?」

「言ってなかったかしら……?これからは基本的にあなた達3人組(スリーマンセル)で動いてもらうから、そのときはフェリシーが長でお願いね」

「かしこまりました」――誇らしげ。

「他にある?」

「いえ、特には」

 フェリシーの返答/頷くエンブ+ユカ。

「魔法陣って1階でしたよね?」

「そうだけど、必要ないわ」

「必要ないって?」――目を丸くするフェリシー。

「ユカがやるから。ね?」――ユカの方を見る。

「ここでやっていいんですか?」

「大丈夫よ」

「はーい」

 ユカが右手を挙げる/宙に縦に線を書く。

 空間が割れる/奥に黒い空間が現れる。

「それじゃあ行こ!炎舞、フェリシー」



 上/前/下――全てが闇。

 だが、自分の体/相手の体はしっかりと確認できる。

 先ほどの割れ目に入った中の空間。

「結局、ここって何だ?」――エンブの質問。

「よく分かんない」――ユカの回答。

「おそらく、別次元でしょうね」――フェリシーの補足/さらに続く。

「転移魔法って、普通は魔法陣から魔法陣に次元の裂け目(ワームホール)を開いて移動するんだけど、それを別次元に移動することで同じようなことを起こしてるんでしょ。魔法陣がないのに次元の裂け目(ワームホール)を作ったのか、とか分かんないところも多いけど」

「ユカって、そんなすごいことしてたんだ」

「こんな調子だし、本人も分かってないんでしょ」

 目を丸くするユカ/フェリシーのあきれた感じのしめ。

「この辺でいいかな」

 ユカが足を止める/右手を宙に/縦に線を描く。

 床の描いた線の向こうから見える光景――石畳/レンガでできた家――おそらくドイツの市街地。

 覗き込むエンブ。

「へえ、ここがそうなのか。でも、ユカ、地面まで結構距離あるぞ。どうするんだ?」

 穴の奥――2階建ての建物の屋根を上から眺められるはずの高さ。

「え?地面にでれる高さで開けたはずなんだけど……」

 覗き込むユカ/エンブの肩を掴む/前屈みになるエンブ。

「見せなさいよ」

 続いて覗き込むフェリシー/さらに前屈みになるエンブ。

「おい、押すなって」

 倒れそうになるエンブ。

「見えないでしょうが」

 お構いなしに押すフェリシー/こらえるエンブ。

「もうちょっと前いきなさいよ」

 さらに押すフェリシーさらに踏ん張るエンブ

「本当だ」

 エンブが耐えきれなくなる/穴から落ちる。

「エンブー」――ユカの叫び。

「フェリシー、フェリシー。聞こえてる?」

 不意に響くシェイラの声――バックの中から。

「何でしょうか?」

 バックの中から人形を取り出す。

「言い忘れたんだけど、西部は次元がだいぶずれててうまく次元の裂け目(ワームホール)が作れない可能性があるから、フランスのドイツの国境付近に出てから結界に割れ目を作って、東部と西部を直接つなぎなさい」

「術式はどれを使えばいいですか?」

「ユカが出来るはずよ。ね?」

「大丈夫です」――ユカの返答。

「それじゃあ、接続を切るわね」

 動かなくなり四肢が垂れる人形/それをバックにしまうフェリシー/再び宙に線を書くユカ――2人にはエンブのことなど頭になかった。



 フランスとドイツの国境付近。

「確かに結界が貼られてるわね。しかも結構強固だし」

 ドイツ側に手を伸ばすフェリシー/向こうは普通に見えるのに何かが手に当たり向こうへ行けない。

「それじゃあ、開けるよ」

 結界を指でなぞるユカ。

「先行くね」――ドイツ側へ足を踏み入れながら。

「うん」――ほとんど生返事。

 普通なら複雑な術式を組んで/大変な手間をかけて行う作業。それをいとも簡単に行っていたユカ。

 それは、学年主席で中学を卒業したユカのプライドが傷つくには充分だった。

「早く」

「分かってるわよ」

 ユカに急かされフェリシーは国境を踏み越えた。

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