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現代恋愛

年末ジャンボで10億当たってしまった俺、幼馴染がグイグイきて困らない。

作者: キンクマ
掲載日:2026/10/27

 年末ジャンボ宝くじで十億円が当たった。


 最初は何かの間違いだと思った。何度も当選番号を確認し、公式サイトを開き直し、しまいには銀行の窓口まで足を運んだ。ところが、どうやら本当に当たっているらしい。


 俺、佐藤健一。二十八歳。独身。彼女なし。


 どこにでもいる平凡なサラリーマンだった俺は、こうして一夜にして億万長者になった。


 もっとも、生活はそれほど変わらなかった。


 会社には相変わらず通っているし、昼飯はコンビニのおにぎりだ。少し贅沢をしたといえば、スーパーで半額シールの貼られていない牛肉を買うようになったくらいだろうか。


 そんな俺の生活が一変したのは、当選から三か月ほど経ったある日のことだった。


「健一くん! 久しぶり!」


 会社帰り、最寄り駅の改札を抜けたところで、懐かしい声が聞こえてきた。


 振り返ると、そこには一人の女性が立っていた。


 肩まで伸びた栗色の髪に、大きな瞳。薄いベージュのコートを羽織り、白いブラウスに膝丈のスカートを合わせた彼女は、昔と変わらず可愛らしかった。


「……莉子?」


「そうだよ! もう、忘れちゃったの?」


 幼馴染の小鳥遊莉子だった。


 小学校から高校まで一緒だった彼女は、俺の初恋の相手でもある。


 もっとも、その恋が実ることはなかった。


 高校三年生の卒業式。意を決して告白した俺に、莉子は困ったような笑顔を浮かべてこう言った。


『健一くんのこと、そういうふうには見られないかな』


 それ以来、俺たちは疎遠になった。


 だから、こうして向こうから声をかけてくるなんて、正直驚いた。


「どうしたんだよ、急に」


「えへへ。ちょっと会いたくなっちゃって」


「俺に?」


「うん!」


 莉子は満面の笑みを浮かべると、俺の腕に自分の腕を絡めてきた。


 柔らかな感触と、ほのかに甘い香水の匂い。


 高校時代の俺なら、この時点で心臓が破裂していたかもしれない。


「ねえ、健一くん。これからご飯でも行かない?」


「……いいけど」


「やった!」


 莉子は嬉しそうに笑った。


 その笑顔を見ながら、俺は考えていた。


 ――なるほど。そういうことか。


 どうやら俺が宝くじに当選したという噂は、彼女の耳にも届いていたらしい。


 そして俺は、もう一つ知っていることがあった。


 莉子の父親が経営していた会社が倒産したこと。


 そして彼女が、連帯保証などの事情で一億円近い借金を背負っていることだ。


 共通の知人から聞いた話なので、詳しい事情までは知らない。


 だが、目の前の彼女が俺に何を期待しているのか。それくらいは想像がついた。


 俺は腕に絡みつく莉子を見下ろし、思わず笑みを浮かべた。


 昔から好きだった女の子が、向こうから俺にすり寄ってきている。


 こんなに嬉しいことがあるだろうか。


 *


「健一くんって、昔から優しかったよね」


 駅前のイタリアンレストラン。


 向かいの席に座った莉子は、赤ワインのグラスを片手にそんなことを言い出した。


「そうか?」


「うん。私が困ってると、いつも助けてくれたじゃない?」


「まあ、幼馴染だったしな」


「ふふっ。そういうところ、好きだったなあ」


 好き。


 なんとも便利な言葉である。


 十年前に聞きたかった言葉を、今になってこんなに簡単に聞けるとは思わなかった。


「そういえば健一くん、宝くじが当たったんだって?」


 来た。


「まあな」


「すごいよね! 十億円だっけ?」


「そうだよ」


「いいなあ。私なんて最近、嫌なことばっかりで……」


 莉子は悲しそうに目を伏せた。


 なるほど。ここから身の上話が始まるわけだ。


「実はね、お父さんの会社が倒産しちゃって……」


「そうなのか。大変だったな」


「うん。それでね、色々あって、私にも借金ができちゃったの」


「へえ。いくら?」


「……一億円」


 莉子は小さな声で答えた。


 俺はフォークを置き、彼女の顔を見つめた。


「一億円か。そりゃ大変だ」


「うん……」


「でも、頑張って返さないとな」


「…………え?」


 莉子が顔を上げた。


「いや、だから。頑張れよ。応援してる」


「う、うん。ありがとう……」


 彼女の笑顔が少し引きつった。


 俺はグラスの水を一口飲んだ。


 さて。


 どうやら彼女は、俺が自分から借金の肩代わりを申し出るよう仕向けたいらしい。


 化粧で隠してはいたが、彼女の目にはうっすらとクマの跡がある。どうやらそれなりに苦労しているようだ。


 十億円のうちの一億円。


 確かに、今の俺なら払えない金額ではない。


 だが、どうして払わなければならないのだろう。


「ねえ、健一くん」


「ん?」


「十億円って、使い切れないくらいのお金だよね?」


「まあ、普通に暮らしてればな」


「そうだよね……」


 莉子はしばらく黙り込んだあと、意を決したように身を乗り出した。


「あのね、健一くん。お願いがあるんだけど……」


「何?」


「私に、一億円貸してくれないかな?」


 とうとう言った。


「もちろん、絶対に返すから! 時間はかかると思うけど、ちゃんと働いて返すつもりだし!」


「そうか」


「それに、私たち幼馴染じゃない? 昔からずっと仲良しだったし……」


「うんうん」


「だから……お願い!」


 莉子は両手を合わせ、上目遣いで俺を見つめた。


 可愛い。


 実に可愛い。


 昔から俺は、この顔に弱かった。


「分かった」


「本当!?」


 莉子の顔がぱっと明るくなった。


 俺はにっこり笑った。


「お金はあーげ……」


「うん!」


「……ないっ!」


「…………は?」


 莉子が固まった。


「え?」


「だから、あげない」


「……なんで?」


「なんでって、俺の金だから」


「で、でも、十億円もあるんでしょ!?」


「あるよ」


「だったら一億円くらい……!」


「莉子」


 俺は彼女の目をまっすぐ見つめた。


「俺、お前のこと好きなんだよ」


「…………え?」


「高校の頃からずっと好きだった。今でも好きだよ」


 莉子は目を見開いた。


 そして、少し頬を赤らめる。


「そ、そうなんだ……。だったら、私たち……」


「でも、お金はあげない」


「なんでよ!!」


 とうとう素が出た。


 懐かしい。


 昔から莉子は、思い通りにならないことがあるとすぐに怒る女の子だった。


 俺はそんなところも好きだった。


「だってさ、莉子。俺が一億円あげたら、お前、もう俺に会いに来ないだろ?」


「そ、そんなことないよ!」


「本当に?」


「本当だよ! 私だって健一くんのこと、ずっと気になってたし……」


「じゃあ、お金をあげなくても付き合ってくれる?」


「…………」


 沈黙。


 莉子の視線が泳いだ。


 俺はその様子を眺めながら、残っていたワインを飲み干した。


「まあ、いいよ。急いで答えなくても」


「……健一くん」


「そうだ。ちょっとお願いしてもいい?」


「えっ?」


「俺のこと、大好きって言ってみてよ」


「……は?」


「ほら、昔から好きだったんだろ? だったら言えるよな?」


 莉子は困惑した表情を浮かべた。


 しかし、すぐに笑顔を作る。


「も、もちろん! 健一くん、大好きだよ♡」


「声が小さいなあ」


「えっ?」


「もうちょっと大きな声で」


「こ、ここで!?」


「うん」


 莉子は周囲を見回した。


 店内には仕事帰りの会社員やカップルが何組もいる。隣のテーブルでは、若い男女が楽しそうに談笑していた。


「そ、そんなの恥ずかしいよ……」


「そっか。残念だなあ」


 俺はわざとらしくため息をついた。


「一億円かあ……」


「…………っ!」


 莉子の肩が跳ねた。


 しばらく唇を噛みしめていた彼女は、やがて意を決したように立ち上がった。


「け、健一くん!」


「はい」


「だ、大好きですっ!!」


 店内に響き渡る大声。


 周囲の客たちが一斉にこちらを振り返った。


 隣のテーブルの女性が、驚いたように目を丸くしている。


 莉子は耳まで真っ赤になっていた。


「こ、これでいいでしょ……!」


「うん。可愛かったよ」


「じゃ、じゃあ……!」


 俺は満面の笑みを浮かべた。


「お金はあーげ……ないっ!」


「なんでよおおおおっ!!」


 店内に再び莉子の絶叫が響き渡った。


 *


 食事を終えた俺たちは、駅前の広場を歩いていた。


 夜の街には色とりどりのネオンが輝き、行き交う人々の話し声が賑やかに響いている。


 莉子は俺の隣を歩きながら、ずっと不機嫌そうに頬を膨らませていた。


「……健一くんって、昔はもっと優しかったよね」


「そうか?」


「そうだよ。私がお願いしたら、何でも聞いてくれたじゃない」


「まあ、昔はな」


「今は違うの?」


「今だって莉子のことは大好きだよ」


「だったら……」


「でも、お金はあげない」


「もうっ!」


 莉子は地団駄を踏んだ。


 その姿があまりにも可愛らしくて、俺は思わず笑ってしまった。


「そうだ、莉子。もう一つお願いしていい?」


「……今度は何?」


「俺のこと、健一様って呼んでみて」


「はあ!?」


「健一様」


「な、なんでそんなこと言わなきゃいけないのよ!」


「別に嫌ならいいけど」


 俺はポケットからスマートフォンを取り出し、銀行口座の残高を確認するふりをした。


「十億円って、すごい金額だよなあ」


「…………っ!」


 莉子の顔が引きつった。


 そして、周囲を見回したあと、小さな声で呟いた。


「……健一様」


「聞こえないなあ」


「け、健一様っ!」


「はい、よくできました」


「じゃあ、今度こそ……!」


「お金はあーげ……ないっ!」


「きいいいいっ!!」


 莉子は両手を握りしめ、悔しそうに俺を睨みつけた。


 俺は笑顔でその頭を撫でた。


「いい子いい子」


「子供扱いしないでよ!」


「はいはい」


「もうっ! ほんっとに性格悪い!」


「そうだな」


 俺は素直に頷いた。


 昔の俺なら、彼女に嫌われるのが怖くてこんなことはできなかっただろう。


 でも、今は違う。


 俺には十億円がある。


 そして彼女には、一億円の借金がある。


 その事実が、俺たちの関係をすっかり変えてしまった。


「ねえ、莉子」


「……何よ」


「俺と付き合わない?」


「…………え?」


 莉子は目を見開いた。


「付き合ってくれたら、毎週美味しいものを食べに行こう。旅行だって連れていってあげるし、欲しい服も買ってあげる」


「ほ、本当!?」


「ああ。もちろん」


 莉子の表情がみるみる明るくなった。


「じゃ、じゃあ……借金も……?」


「お金はあーげ……ないっ!」


「だからなんでよおおおおっ!!」


 俺は腹を抱えて笑った。


 莉子は本当に可愛い。


 こんなに表情豊かで、こんなに面白い女の子だったなんて。


 高校時代には気づかなかった。


 いや、違うな。


 昔から知っていたからこそ、俺は彼女が好きだったのだ。


 *


 帰り際、莉子は駅の改札前で立ち止まった。


「……ねえ、健一くん」


「ん?」


「本当に、私のこと好きなの?」


「もちろん」


「だったら、どうして助けてくれないの?」


 その声には、先ほどまでの甘ったるさがなかった。


 俺は少し考えてから答えた。


「だって、莉子。俺が一億円払ったら、お前はもう俺に会いに来ないだろ?」


「そんなこと……」


「ないって言える?」


 莉子は黙り込んだ。


 俺は彼女の顔を見つめた。


 昔から大好きだった栗色の髪。少し吊り上がった大きな瞳。怒ると唇を尖らせる癖。


 何もかもが懐かしく、愛おしかった。


「俺はさ、莉子と一緒にいたいんだよ」


「…………」


「だから、これからもいっぱい遊ぼうぜ」


 俺は彼女の手を握った。


 莉子は一瞬身を固くしたが、振り払おうとはしなかった。


「……最低」


「うん」


「健一くん、最低だよ」


「知ってる」


「……大嫌い」


「俺は大好きだよ」


 莉子は悔しそうに顔を歪めた。


 しかし、しばらくすると小さな声で尋ねてきた。


「……ねえ、次はいつ会える?」


 俺は笑った。


「今度の土曜日はどう?」


「……うん」


「温泉旅行でも行こうか。露天風呂付きの高級旅館」


「……行く」


「二人きりだけど、いい?」


「…………いいよ」


 莉子は真っ赤になって俯いた。


 俺はそんな彼女を見つめながら、心の底から幸せを感じていた。


 十億円。


 そのうちの一億円を渡せば、彼女は救われる。


 だが、俺は絶対に渡さない。


 だって、渡してしまったら終わりじゃないか。


 これからも彼女と食事をして、旅行をして、デートをして。


 時には恥ずかしいことをお願いして、真っ赤になって怒る彼女を眺める。


 そんな楽しい毎日を、俺はずっと続けたいのだ。


「じゃあ、また土曜日な」


「……うん」


 莉子は小さく手を振り、改札の向こうへ消えていった。


 俺はその後ろ姿を見送りながら、スマートフォンを取り出した。


 さっそく高級旅館を予約しよう。


 きっと莉子も喜んでくれるだろう。


 そう思ったところで、彼女からメッセージが届いた。


『健一くん、今日はありがとう。土曜日、楽しみにしてるね♡』


 俺は満面の笑みを浮かべた。


 ああ、幸せだ。


 昔は俺から連絡しなければ、何か月だって音沙汰がなかった女の子が、今では向こうからハートマークを送ってくれる。


 お金って、本当にすごいなあ。


 俺は夜空を見上げ、小さく呟いた。


「莉子。俺たち、ずっと一緒にいような」


 彼女が俺を好きになってくれるかどうかなんて、もうどうでもよかった。


 俺が彼女を好きなのだから。


 それで十分じゃないか。


 そして、これから先も。


 十年経っても、二十年経っても。


 たとえ彼女が泣いて頼んできたとしても。


 俺はきっと、同じ言葉を返すだろう。


 「お金はあーげ……ないっ!」


 ――おしまい。

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えへへっ。 めっちゃたのしかったです。
お初ですm(_ _)m そんな金目当ての女より、俺が白髪染めてスネ毛を剃ってスカートはくから 付き合おうよ 違うか(≧▽≦)
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