謎の少女
三日前、世界が滅んだ。
大地に無数の隕石が降り注ぎ、大地は天変地異を起こし、人間の文明を跡形も無く破壊し尽くして、長い長い歴史に終止符を打った。
人間も動物も皆死んだし、建物は全て壊れたし、植物や食べ物はもう二度と育たない。
そんな確実に「終わった」環境となれど、リアは生きていた。
とあるマッドサイエンティストの実験台にされていた彼は、五年にも及ぶ地獄の日々の末に不老不死の身体を獲得していた。
例え肉塊になろうと灰になろうと身体は再生してものの五秒で元通り。老いること無いので、彼が死ぬとしたら『消滅』させられる時だろう。
その点、隕石だけでは力不足だった。彼も隕石の直撃を受けた者の一人でだったが、潰れて身体の中身を全てぶち撒けた程度だった。簡単に再生した。
その後火山から飛び出してきた溶岩を浴びたが、マグマの中で再生と溶解を繰り返し、死に切る事は無かった。
地割れに巻き込まれて二十メートルくらい転落もしたが、身体がぐちゃぐちゃになっただけでは死なない。
そうして何回も致死量のダメージと一瞬の再生を繰り返している内に辺りは静かになり、滅んだ世界にぽつんと佇むリアが生まれる、という訳だ。
ただ、彼に絶望や悲しみという感情は生まれなかった。
何せ彼は物心ついた時にはもう実験用の人形と化しており、世界に対する思入れなんて一つも無い。むしろマッドサイエンティストを殺してくれてせいせいしていた。
あるとすれば、折角外に出れたのに、誰も居ないしする事も無いしで「ひまだなぁ」と思うくらいだった。
――瓦礫の山の麓に立つ彼女と出会うまでは。
☓ ☓ ☓ ☓ ☓ ☓ ☓ ☓
「·········人間?」
リアの黒と白、左右色違いの瞳に人型が映り込んでいる。
今の荒廃した土地ではあり得ない程美しい金の長髪を靡かせ、これまたあり得ない程白く傷の無い肌を持ち、小洒落た薄青のワンピースに身を包む、六歳の時点で成長の止まったリアよりも年下に見える少女だ。
そしてその少女もまた、不思議そうな顔をしながらリアの顔を宝石の様に煌めく青い瞳に映していた。
「キミ······何者?」
不老不死の人間――と呼べるかさえ怪しい存在が、どの口が言ってるんだとツッコまれそうな質問をした。
その曖昧な問いに、少女は眉間に皺を寄せて困惑の表情を作り、答えた。
「私は·········何者なんでしょうか·········?」
「······え?」
少女が発した回答は、「?」だった。
「······名前は?」
「······分かりません」
「······三日前、何があったかは?」
「······わかりません」
「キミは、人間?」
「······分かりません。何もかも、分かりません」
全ての質問に対し、「分かりません」と答える少女。リアはそんな彼女の様子を、『人の形をした無』と評価した。
器だけを授かり、その中に入れるべきモノを何一つとして持っていない、空虚な存在。
哀れ――だとは思わない。リア自身も十分空っぽだからだ。
ただ、何一つとして「分からない」というのは、些か不便に思えた。リアは改造人間だが、名前くらいは流石に分かっているし、呼び名があった方が楽だ。
なので、名前を与える事にした。
「――――――――――」
「·················?」
残念、何一つとして思い浮かばない。
研究所の外に出たことが経験が無いリアには、子供が当たり前に持つ感情を持ち合わせていない。数百の実験で殆ど無くしてしまった。
だから、どう名前を付ければ良いかなんて見当が付かない。そうして顔を萎めて黙り込んでいるので、少女がきょとんとしてしまっている。
「あ、あの·········」
「――――ん?あぁあぁごめんごめん。ちょっとキミの名前考えてた」
「私の、名前?」
リアが何気無くそう言った瞬間、少女の表情が変わったのを、リアは見逃さなかった。
何から何へ変わったのか、感情を欠落させたリアにはそこまでは分からなかったが、雰囲気の変化は肌で感じ取れた。
人間の習慣の力というのは凄いもので、例え以前の自分じゃない身体に作り変えられようが、イカれた自称博士を恐怖し、その雰囲気を敏感に感じ取れる肌感覚が残っていた。
少女は、怒っていた。




