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3:レイン

「…」が見ずらいなと感じたので「・・・」こっちに変更します。

「ハッ!」

また目を覚ますと、最初と同じ藁の香りがする小屋の中にいた。

(もしかして、あの時死んじゃった・・・?)

そう思い痛む頭に手を伸ばすと血だらけの代わりに包帯が巻かれていた。

(誰かが治療してくれたのかな?てことは、あの時意識を失っただけか・・・)

ホッと一息ついていると小屋のドアが開き食べ物を持った少女が入ってきた。

「あ!よかったぁ。意識取り戻したのね!」

少女がホッと息を付きボーっとしている雫の額を見て満足そうにうなずいた。

「怪我も血が止まったわ。お腹すいている?」

「う、うん」

雫は看病してくれている少女たちが先ほどの奴隷の子供だったと思いだした。

(さっきまで怯えていたはず・・・そういえば、意識を失う前鞭を持った男を――)

「――ン、ねぇレインったら!・・・話を聞いているの?」

(レイン?・・・この体の少女の名前かな、あの子も私をそう呼んでいたし・・・)

雫は少女の声にハッとして取り繕うように謝った。

「ご、ごめん。考え事してて・・・」

「ううん。一気にいろんなことが起こったんだもの。しょうがないわ」

少女は雫の怪我に視線を向けながら話し始めた。

「今日は助けることができなくてごめんなさい。言い訳になるかもしれないけど、あの時の私たちには奴隷紋が発動していて、命令されたこと以外は動くことができなかったの・・・」

少女は右手の甲にある紫色に薄く光っている魔方陣を抑えながら雫に頭を下げた。

「ううん、仕方がないと思う。私だって怖かったし・・・」

雫がそう言うと少女は目に涙を浮かべながら、雫に「ありがとう」とまた頭を下げた。

「…あの、私の名前って、レインっていうの?」

「・・・」

さっきまで雫に頭を下げていた少女は雫の言葉を聞いてピタリと動きが止まった。

「え…う、嘘よね?もしかして、その傷のせいで…」

少女は驚きながら、雫を見たが困ったような表情のまま視線を外している雫を見て嘘ではないと思ったのか少女は簡単に雫の体の少女のことについて教えてくれた。

「そうね…あなたの名前はレイン。そして、私たちと同じ奴隷であの男が私たちを買い取った主人だったの」

「だったっていうことはもう死んだってこと?」

「えぇ、死体はグランが、えっと・・・あの男を刺した子とほかの男子がアンデットにならないように今焼いているわ」

雫は嫌な想像をしてしまい吐き気を覚えた。

「大丈夫?」

幸い、少女が雫の背中をゆっくり撫でてくれたおかげか吐き気はすぐに収まった。

「ありがとう…名前はなんていうの?」

「私はシュティー。今年で12歳よ。レインは今10歳ぐらいだと言っていたわ」

「そうなんだ。私たちって、出会ってから長いの?」

「うーん・・・どうだろう?私が一番の古株なんだけど、レインは二か月前ぐらいからしかいないから・・・」

雫はまた頭が痛みだし頭を抑える。シュティーは頭を押さえだした雫を横に寝かせた。

「薬は今探しているからとりあえずは、横になってもう休んで。記憶がなくなって辛いだろうけど、まずは体を治しましょう」

シュティーは持っていた薄い布を雫にかけてあげた後、静かに部屋を出て行った。

「・・・ふぅ」

雫はシュティーがいなくなった後いつの間にか力が入っていた肩の力を抜いた。

(焦ったぁ…シュティーさんが自己紹介してこなかったら危なかった!)

雫は胸をなでおろしている最中に手首に指二つ分の大きさの小さな魔方陣が刻まれていることに気づいた。その魔方陣は白く淡い光を発していた。

(なんだろう?魔方陣…だよね?)

恐る恐る魔方陣を触ってみる。しかし、触っても特に何も起こらなかった。

雫は魔方陣をジッと見た後腕を上に上げブンブン振ってみた。しかし、やっぱり何も起こることはなかった。

「おかしいな?何の魔方陣なんだろう?色的に氷っぽい?」

「何をブツブツ話してるんだ?」

「うわぁ!」

魔方陣に夢中になって入ってきて人に気づかず、雫は驚き万が一のために手首を背中の後ろに隠した。

「ど、どうしたの?」

雫は取り繕ったような笑顔で入ってきた人に視線を向けた。夜空のように青い髪に猫のような黄色い目。奴隷としていたせいか少し瘦せて服も汚れているが顔は今まで見たことのないようなきれいな美少年でボロボロの服がとても似合っていなかった。そんな少年を見て雫は倒れる前の光景を思い出した。

(あっ、さっきシュティーが教えてくれた子だ。名前は確か・・・)

「グラン・・・」

「ん?」

名前を呼ばれた少年はフワッと表情を崩し笑顔でしずくの話を待っていてくれているようだった。

「えっと…何でもないよ」

雫はごまかすようにニコッと笑い返し、グランは不思議そうに首を傾げていた。純粋そうで恋愛ごとに興味がない雫でさえも恋に落ちてしまいそうなほど見惚れてしまうグランの顔に一瞬ボーッとしかけていたが、雫はハッと思いだしサッと視線を逸らした。

(危ない危ない!こんな純粋そうな顔だけど、さっき男を殺した人だから!!)

「ゔっ・・・」

「大丈夫?」

男が殺されたことを思い出し急に吐き気が込み上げた雫にグランは心配そうに雫に駆け寄り、優しく背中をさすってくれていた。

(ど、どうしてこの子は私に優しくしてくれるんだろう?)

そう思いながら雫はキラキラと吐き出した。


「ふぅー・・・」

(すっきりしたぁ・・・)

雫の目の前ではシュティーがせっせと雫が吐き出してしまったものを片付けてくれていた。

なぜシュティーが片付けているのかというと、吐いてしまった雫を心配したグランが外に声をかけると丁度、夜ご飯の準備をしていたシュティーが駆けつけてくれたからだ。駆けつけたシュティーはグランを見た瞬間驚いていたが、顔が青くなって吐いている雫を見た瞬間すぐに掃除に取り掛かってくれた。

しかし、やはり大人を一瞬で殺せるほどの力を持ったグランが怖いのか片付けていたシュティーはビクビクと震えているようだ。

シュティーは怯えた目で壁に寄りかかっているグランにチラッと視線を向けると、グランはシュティーの手伝いはせずただ雫の隣に座って黙ってみているのが目に入った。

「ご、ごめんね、シュティー・・・」

グランに介抱されていた雫がシュティーに申し訳なさそうに謝るとシュティーは平気だと首を横にふった。

「それよりも、これからどうするんですか?」

シュティーは楽しそうに介抱しているグランに話しかけた。

話しかけられたグランは介抱の手を止め、チラッとシュティーに視線を向けた。その視線にシュティーはゴクリと息を飲んだ。

(なんて背筋が凍りそうな目なの・・・私の方が年上なはずなのに、まるで大人と話しているような圧を感じるわ)

シュティーは気持ちを落ち着けるかのように軽く深呼吸をした。

「これからか・・・」

グランは自分が介抱している少女、レインをジーッと見つめた後、フッと笑みを浮かべた。

「とりあえずしばらくは、力をつけることに集中するさ」

グランの言葉にシュティーは決意したかのようにグランに向き直った。

「良ければですが、私もご一緒させてください!」

「一緒に?」

シュティーの言葉にグランは嫌そうに眉をひそめた。

(こんなまだ互いに何も知らない奴をそばに置くのはごめんだ・・・だが・・・)

グランはレインのことを考えた。レインはグランと一緒に行動することについてまだ、同意さえもしていないがグランにとってはもう、済んだ話となっていた。なので、これから行動する際、一人ぐらいレイン達の治療ができる者、レインの気が休まるように同性の者を同行させることは最優先事項でもあった。

その点、シュティーはとてもその条件に当てはまっており、グランにとっても渡りに船だったのだ。

(信用がまだできないという点が残っているがな・・・)

信用ができないと思っておきながらこれ以上ないほど自分にとって好都合な人間だったため、グランはシュティーの同行を許可した。

「ありがとうございます!」

「よかったね!」

嬉しそうに話す二人を見てグランは自分の判断が正解だったことを感じた。

グランはそんな二人を邪魔しないようにそっと部屋から出ていこうとした。

「待って!」

「・・・なに?」

グランはゆっくり振り返り呼び止めたレインに視線を向けた。シュティーの時とは違い、レインにはとてもやさしい声色と笑顔を見せていた。

「シュティーは一緒に行動することは決まったけど・・・あの子たちはどうなるの?」

「他の奴隷のこと?」

「うん・・・同じように荷物とかを運んでいた子たち・・・」

奴隷という言い方に少し眉をひそめつつ、レインは話を続けた。

「ここで解放されても行くあてがない子もいると思うの…」

レインは雫の時の家族を思い出し、懐かしくなった。

(まだ、こっちに来てから1日も経ってないのにもう会えないと思うと懐かしいな)

血の繋がりがなくても優しく接して愛してくれた家族。

(私はもう、会えないから、せめて・・・)

「あの子達を親元へ帰して━━あっ・・・」

家族を思い出し笑顔になりかけていたレインの言葉は目の前にいる2人の表情を見て止まった。

「・・・ご、ごめん!」

すぐに禁句に触れてしまったことを察し、頭を下げた。

「・・・フッ、大丈夫だよ」

グランは強ばったレインの頭を撫でながらシュティーに視線を向けた。

「・・・レイン。言いづらいのだけど、あの子たちを親元に返してもまた売られてしまうわ。ほとんどが口減らしで売られたのだから・・・」

シュティーの説明にレインは自分がどれだけ愚かなことを言っていたことに気づき、口元を手で覆った。

「・・・ご、ごめんなさい。ほんとに、そんなつもりじゃ・・・」

(ほんとに、そんなつもりじゃないのは私も、彼もわかっているわ。けど、ここで一度私たちが言っておかないともしあの子たちの前でこの話をしたときに変にぬか喜びをさせてしまうだけだから・・・)

顔を青くしているレインを落ち着かせるようにシュティーは優しく抱き寄せ頭を優しくなでた。

「わかっているわ。だけど、そんなことは軽々しく話してはダメよ」

チラッとシュティーはグランに視線を向け合図を送る。いきなり視線を向けられ理解するのに時間がかかったグランは取り繕うかのように咳払いをした。

「ゴホン・・・レイン、君はまだ何もわからない状態だとシュティーが話していたのを聞いたんだ。だから、まず何かを伝えたいときやほしいものがあったときとか、まず先に話してほしい。いいかな?」

レインと視線を合わせるようにしゃがみながら話すグランにレインは頷いた。

「いい子だね!それじゃあ今日はもう、ゆっくり休んで明日また、ゆっくり話そう」

「明日には大分よくなっているはずよ」

シュティーはレインに布団を被せ横になるレインの頭を撫でた後、部屋を出ていくグランと一緒にいなくなった。


二人がいなくなったことを確認したレインは自分の小さくなった手を見て女神が言っていたことを考えてた。

「もう、元に戻ることはない・・・はぁ・・・」

(あれから、お母さんたちはどうなったんだろう?もしかして、帰ってこない私を心配して近所を探しているかもしれない・・・)

「会いたいなぁ・・・」

ポロリと涙が零れだし、それを振り払うようにレインは寝転がっていた藁のベッドに顔をうずめた。泣いてももう、雫という前の人間に戻ることはできないと知っているからこその悲しさの中、レインは眠りにつくのだった。


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