1:神と人間
地球を貰ったルナは新たな世界に胸を高まらせていた。
『よし、これで人間たちが新たに住む世界は出来上がりだわ』
チラッと地球を見たルナはニヤリと笑った。
『ルナ様、転生させる人間、転移させる人間の選別が完了しました』
人間の選別をしていた神の側仕えと呼ばれている天人がスッとルナの後ろから姿を現し、主のルナにそう伝えた。天人の言葉にルナは嬉しそうにほほ笑んだ。
『そう、それじゃあ神の間に人間を集めて頂戴』
『かしこまりました』
天人は一礼すると元からその場にいなかったかのように姿が消えてなくなった。ルナはそれを確認した後、新たな世界を動かし始めた。
『フフフッ。ずっと、人間のような知的生命体が欲しいと思っていたところだったのよね。お父様の世界の人間は最初の頃は強かったらしいのだけど、エルフやドワーフなどの魔力を持って生まれた格上の知的生命体が生まれたばっかりに今はもう、絶滅危惧種となったって言ってたわ』
ルナは地球を手に取り、まるで実験をする子供のような好奇心いっぱいの笑顔を浮かべた。
『それなら、始めから人間にも確率で魔力を持つように設定すれば、エルフたちにも対抗できるんじゃないかしら?…あぁそうだわ、地球からの人間を入れる時期は魔族が力を持つ時期に入れましょう!』
ルナは楽しそうに呟いた後、人間に会いに神の間に転移した。
『起きろ』
「ハッ!」
白い空間で目を覚ました人間たちは、起きろと呼びかけられたほうに視線を向けた。
「ここは…?」
見たことのない真っ白の空間に集められた20人の人間たちは不安を感じていた。
(どこ?初めて来る場所…よね?)
鳥崎 雫鳥崎 雫は集められた20人の一人だった。
集められた人間は歳も年齢も性別もバラバラ。雫もなぜこんな場所に連れてこられたか見当もつかず、ただ、自分たちの前の数段高い場所にある大きな椅子に不釣り合いだがどこか絵になるような神秘さを持った少女「ルナ」を見つめていた。
(不思議…透き通るような白い肌に、月のような黄色い瞳。そして、銀髪の長い髪と淡い紫と金の装飾品が付いたドレス。すべてが完璧に見える…)
他の人間も同じことを思っているのか雫同様、みんなルナをじっと見つめていた。
『神の御前だ。人間よ跪拝を持たれ!』
ルナを守るように立っていた天人が大声を発すると、何かの力が作用し雫たちはみな地面に頭をぶつけるような勢いでひざまずいていた。
「なんだ?!体がッ!」
「なんで?!う、動かないっ!?」
雫の斜め前にいた30代の男がどうにか体を動かそうとしていたが、誰も一歩たりとも動かすことができなかった。
戸惑う雫たちの姿をルナは何の反応も示さずただ、黙ってみていた。
『…さて、地球という世界で生まれた人間たちよ。私は創造神シリウスの孫のルナ。あなた方が住んでいた地球という世界は祖父であるシリウスが作った世界である』
「…そ、創造神…」
「神なんて存在したのか?!」
「わ、私たち、な、なんで神様にっ?!」
雫は横で震えている女性に視線を向けた。
(顔は動かせないけど、視線だけならいけるのか!)
『黙れ!』
天人は騒ぎだした人間たちに怒りだし、雫の斜め前にいた男にルビーのような赤い宝石が付いた長い杖を男に向けた。どこかわからない場所で武器として向けられたであろう杖に雫たちは驚き、標的となった男のほうに視線を向けた。
「ヒッ!た、助けて!」
男は視線だけを動かし、どうにか逃げ出そうとしていたが何かの力のせいで動くことができなかった。
『やめなさい』
ずっとやり取りを見ているだけだったルナは天人が力を行使しようとした瞬間にやっと止めた。
「ハッ…ハッ…」
男はガタガタと震え、顔が青くなっていた。それを見ていた隣の女性はさっきよりももっと震え怒りを向けられた男を心配そうに見ていた。
『人間よ。ここは地球ではない。それは薄々わかっているでしょう。そして、あなた方の住んでいた地球はしばらくすると…なくなる』
「「!?」」
(地球がなくなる?!)
ルナは困惑し驚いている雫たちを見て楽しそうにニヤリと笑った。
『まぁそれはあなた方の働きによるわ。彼らの拘束を解きなさい!』
ルナの掛け声に天人は杖を一振りする。次の瞬間、動かすことができなかった体を動かすことができるようになっていた。
「体が!」
「動くわ!よかった!」
「・・・」
人間たちは動くようになった体を確かめるように腕を回したり、不安のあまりその場に座り込んでいる人もいた。
(ひとまず、動かせることができるようになったけど…)
あまり変わっていない状況に雫は安心できずにいた。
『さて、人間たちよ。私は地球を人質にあなた方人間にある要求をしましょう。拒めばこの地球と一緒にあなた方も死にます』
淡々と話すルナに動くことに喜んでいた人間たちの動きが止まった。
「あ、あの!その要求はいったい…」
大学生っぽい青年が恐る恐るといった感じで手を上げルナに話しかけた。
(話しかけて大丈夫なのか?)
青年の質問にルナはニコッと笑い要求について話し始めた。
『私の要求はこの新しい世界に皆さんが転移、または転生することです。転移する場合は異世界からの者としてよい待遇を与えられますが、大体は勇者や聖女なのでいつかは真王を倒し英雄へ。しかし、魔物などとの戦いに駆り出されるので死ぬ確率が高いです』
死と聞いてみんなの表情が暗くなった。
(転移…小説や漫画とかでしか聞かない単語だけど、そういうことだよね…転生物とかって好きだし、いつかなったらなって思っていたけど、これは…)
状況が状況なだけに雫はこの状況を喜べずにグッと手を握った。
『そして転生。好きな階級、種族、能力を選ぶことはできませんが人間以外の種族に転生できると任芸上に秀でた能力を獲得することができます。確率ですがね。もちろん、人間より劣った種族に転生することもあります』
ルナは手に持った地球をおもちゃのようにポイッと地面に投げ捨てた。投げ捨てられた地球はコロコロとボールのように転がり人間の足元に転がった。
「・・・転生か転移か選ぶことはできるのですか」
『いいえ。もうそれもこちらで決めてしまっているわ。後は同意するかどうかよ』
異議を申し入れないというようにニコッと笑いかけるルナに人間はみな、黙り込んでしまった。
「・・・あ、あ、あの!」
雫たちは手を挙げて質問をしようとする女の子に視線を向けた。藍色の制服をきっちりと着こなし、規則通りに髪は肩にかかるより短いショートヘアの女の子だった。
(制服を着ているし、中学生か高校生かな?高校生なら私と同じぐらい…)
「よ、よく。転生したりするときって、…と、特典とかもらえたりしますか」
『ほぅ…面白い。特典か…そうね…いいわ、一人一つから二つの特典をあげましょう。温情ですわ』
ルナの言葉に女の子はホッと息をつき胸をなでおろしていた。
『それで、転生や転移に異論があるものは?』
ルナの問いにみんな顔を見合わせたが、誰も手を上げようとしなかった。
(転生とかにみんな異論はないようだな。まぁ、何もせずに死ぬよりかはマシよね)
雫はゴクリと息をのみ軽く深呼吸をした。ずっと緊張していたせいか嫌な汗をかいていた。
『異論はないようね』
嬉しそうにそう言ったルナは椅子から降りると雫たちに向かって手をかざした。
『人間よ、新たな世界で生き残って見せなさい』
つぎの瞬間雫たちの体が透け始めた。
「な、なにこれ?!」
「体が、透けてる?!」
「お、おい、なんだよこの魔方陣!?」
(魔方陣?!そうか!体が透けている人は転生で足元に魔方陣が浮かび上がった人は転移なのか!なら私は…)
雫は透けてゆく自分の体を見て急に不安でいっぱいになった。
「転生…」
不安でいっぱいの中、雫たち人間は真っ白の空間から消し去られていった。
『ふぅやっと終わったわね』
ルナは疲れたように椅子の背もたれにもたれかかるように座り込んだ。
『お疲れ様ですルナ様。下等な人間どもにも慈悲を見せるとは何ともお優しい…』
杖を持った天人が尊敬のまなざしでルナを崇めるように見つめルナは嬉しそうにニコッと笑った。
『これが私たちの仕事ですもの。さぁ、この調子でほかの人間も別の世界へ転生または転移させていきましょう』
『『はい!』』
天人たちはルナの笑顔に顔を赤らめサッと次の作業に取り掛かり始めた。
(最初の仕事は終わったわね。おじい様が作った地球はいい世界だったのに、人間のような生物によって壊されてしまったもの。でも、私だったらおじい様より人間をうまく扱えるわ。そして、神格をもっと高めるのよ)
ルナは計画に笑みがこぼれた。
『最後ぐらいは役に立ちなさい…』
ルナはボソッと呟いた後、神の間を後にした。