第99話 兄妹 THE LAST MASTER その9
はっきり言ってエイドリアンの理屈も無茶苦茶だ。神龍の力を借りてもう一度ドーマの身体に邪神を封印するだなんて。
まったく――あいつは、ドーマを電子ジャーか何かと勘違いしているのでは無いだろうか。はっきり言って少年漫画の読み過ぎだ……。
しかし――
それをやるしか無いのなら――こちらにだって無茶な理論の塊『千年九剣』がある。
そう。俺は知っている。
無茶だろうがなんだろうが、それを押し通せてしまうのが、この異世界って場所なのだ。
だったらもう――
疑うことを止めよう。
諦めることを止めよう。
俺はもう迷わずに思い付いた事を片っ端から試してやる――邪神に囚われたドーマをなにがなんでも救出してやるのだ。
そして、その為にまず必用なのは邪神の体内にいるであろうドーマの位置の特定――。
「おいレイラ。お前の三層『絶対分析』で、あのダークエルフの位置が分からないか?」
そう。まずはこの方法を試すべきだ。
もちろん俺の言っていることは無茶苦茶だ。相手は魔力で出来た邪神の化身。そんなラスボス級の敵が、そんな簡単に手の内を明かすはずがない。
しかし、もしそれが分かるなら、少々強引ではあるが一番手っ取り早い方法なのだ。なんせ妹はあの邪神すら封じ込めた魔力結界を一刀両断にしたのだから。
もしダークエルフの位置が分かるなら、それ以外の場所を手当たり次第に切り刻むまでである。
だが、妹の答えはNOだった。
やはり妹の目を持ってしても、あの黒い魔力の塊の中身までは見え無いらしい。
「やっぱりダメか……。あの結界を破壊したお前ならばもしやと思ったが……」
まぁ、結局のところ結界のような魔力出できた卵の殻を割るのとは訳が違うということだ。邪神は、言うなれば魔力がとことんまで詰って出来たボーリングの球なのだ。
「ごめんね、お兄ちゃん。やっぱり無理」
「いや、謝らなくていいよ。第三層はエデンがやったようにもともと人の弱点を見つける技だ。それより、もう一度協力してあいつの頭を落とそう。そしてあいつの魔力の流れをもう一度見極めようじゃないか。」
「分かった。その時もう一度ドーマさんの位置を探って見るね」
「ああ。そうしてくれ」
そして、俺達は互いに目で合図をすると、今度こそ邪神を挟み込むように対峙する。
今さら躊躇している暇はない。話が決まれば、もう一度こちらから攻撃を仕掛けるのみ。
それに……。
まだ、誰も気がついてはいないだろうが、俺には邪神に対しての有効な攻撃方法に一つの心当たりがある。
もちろんそのヒントは、俺が思わず有頂天になってしまった、指弾での攻撃。
いままで、剣聖の妹をもってしても決定的なダメージを与えることの出来なかった邪神が、あろうことか俺のたった一発の攻撃で頭を吹き飛ばされたのだ。
そして、そこから導き出されるのは――
邪神は『気』の攻撃に弱いと言う仮説。
まぁ、あくまでも仮説なのだが、それも今すぐに分かる。なぜなら、今この場でそれを試せば良いだけなのだから。
そして、俺が今から使う技は、『千年求敗物語』の冒頭で悪漢から一人の少女を救う為に求敗が一番最初に繰り出した大技だ。
今さら、その物語が俺のデタラメだとかそんな事はどうでも良い。
『千年九剣』そして『千年求敗物語』その一対の創作が、この異世界では現実に機能していると言う事実だけで今の俺には充分なのだ。
俺が名付けなかったのだから、もちろんその技に名前など無い。
ただ全身の闘気を全て振り上げた剣に集め、渾身の力でもって振り下ろす。それだけの技だ。
それだけにこの技は隙も多い。
だが。物語を熟知している妹なら――俺が剣を両手に構えて振り上げさえすれば、その意図を理解してうまく立ち回って邪神の気を反らせてくれるはずである。
そして――
やはり妹は尋常じゃない……。
距離
角度
そして、タイミング。
全てがベスト。俺の気が最高潮に達した所で俺が望む物を全て用意してくれた。
「さぁ。お兄ちゃんやっちゃって!」
まったく良く出来た妹だよ。
「レイラ!全てが完璧だぜ。良く見てろよ。これが俺達の大師匠の必殺技。『名もなき一刀』だ!」
俺は渾身の力をもって、邪神の首に必殺の一撃を放った。
そしてその凄まじい斬撃は、気の力を纏った刃となった。




