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第97話 兄妹 THE LAST MASTER その7

やれやれ、丸投げはどっちなんだよ……。


俺はそんなふうに心の中でツッコミを入れる。


でも、よく考えればこれはこれで悪くないではないか。


だって、無茶振りだろうが兄として妹に頼りにされてるこの状況。だったらそれは……この物語の主人公に背中を預けられたってことだろ?


それって、最高じゃないか。


あぁ……思い起こせば。究極の剣技《千年九剣》も、妹が憧れる《千年求敗物語》も、全てがでまかせ、俺の身勝手な嘘から始まって……。


今、妹がその身を危険に晒してまで剣を握っているのは一体誰のせいだ?


そう、全部……俺のせいだ。


ならば俺は、その責任を取らなくちゃならない……


今の俺にはそれが出来るのだから。


そう。今ここで、嘘を真実に変えてやる。俺のデタラメな嘘を全部……本物の伝説へと変えてやるのだ。


――ってな感じで、俺はこの時。俺より強くなっちゃった妹への嫉妬やわだかまり、そして自分への反省なんかを、全て都合よく解釈して。やる気はまさに20倍。


そして俺は、ありったけの空気を胸に吸い込んで――


「ウォォォォーーーーーッ!」


と叫ぶと同時に、お得意の内力(気の力)全てを雄叫びにぶち込んだ。


まるでそれは、ティラノサウルスの咆哮。


妹が憧れる物語では敵の怪人がこれをやった。未熟な主人公はその咆哮にビビって硬直するんだけど、いやいや俺の咆哮も負けてない。辺りの壁からはパラパラと石材が崩れ落ち、ボロくなったコロシアムに追い打ちをかける。


だが、それほどの威力を持ってしてもこれは威圧じゃない。狙いは邪神の注意を引くこと。


レイラは無鉄砲に突っ込んだように見えるけど、俺は知ってる。このシーン、フェイントが決め手なんだ。俺が気を引き、妹が背後を取る。そう――


妹が憧れる、あの物語の様に――


俺の咆哮が空気を裂き、黒き邪神の獅子の頭がこちらを振り向く。その一瞬のスキを、妹は見逃さない。


邪神の背後に躍り出たレイラは、そのまま勢いを乗せ、手にした剣を前方へと突き立てた――!


速い。無駄がない。


……まるで、俺がこのタイミングで気を引くと最初から分かっていたみたいな動きである。


だが、邪神とてただの獣ではない。


鋭い爪が、振り向きざまに妹めがけて振るわれた。


当たれば確実に死ぬ。


けど、レイラのほうが早かった。一撃目は邪神の脇腹をかすめ、もう一本はその背に深く突き刺さる。けれど、引き抜く時間はない。


「ぐうおおおおおっ!」


今度は邪神の咆哮が響き渡る。振るわれた前足が、妹の頭上をかすめて通り過ぎ――その威力たるや、空振りですら地面を削り取る衝撃。


その衝撃に妹はよろけ、膝をつきかける。


「やっぱり剣じゃ……効かないのか……?」


一瞬、俺の中に不安がよぎる。――俺の剣じゃ、邪神に傷一つつけられなかった。ならば、同じ剣を扱うレイラの攻撃も……。


だが、違う。


レイラはついさっき、ショーンとエイドリアンの魔力結界――絶対に破れないはずの“壁”を、剣で斬ったではないか。俺はそれを、この目で見ていたのだ。


「あいつの剣なら、通る……!」


それを確信して俺は、邪神に剣を奪われてしまったレイラに向けて、自らの刀を投渡す。


ここで俺がもう一度邪神の気を引きさえすれば――レイラにもう一度邪神を攻撃するチャンスが訪れるのだ。


物語の筋書きではここで俺が敵に向かって「毒だぞ!」と叫ぶシーン。でも邪神にそんなフェイントが通じるなんて到底思えない。


だから俺は、レイラが飛び出した瞬間から自らの右手にひたすら内力(気の力)を溜め込んでいたのだ。


これは、本戦一回戦の時に槍の女騎士を救った技、指弾というやつだ。本戦の一回戦で女騎士の槍を粉砕した技。さっきもエイドリアンに魔法を撃たすためにこまめに使ってはいたが――今は違う。全力だ。


 それは放った瞬間に恐らく音速を越えたに違い。ドーンンという轟音とともに閃光まといながら飛んでいく指弾は、見事邪神の左目へと命中する。


 着弾と同時に再び辺りには閃光が走り、邪神の頭部はミサイルでも激突したかのように黒い煙に覆われた。


 まぁ、いくら邪神でも片目を失えばそれだけ視覚が狭くなる。ならばこれからの作戦もいくらか立てやすい。今みたいな一か八かの作戦に出なくても済むのだ。


 しかし………


 ………………?


 俺の本気が詰まった技だ。そりゃあ相当な威力があるはずだ。だからなんだろうか……。


 俺は呆気に取られながら、後ろに控えているはずのエイドリアンに答えを求めた。


「あのぅ……。邪神の頭……全部吹き飛んじゃったんですけど。これ……どうしましょう?」


 そう。俺は図らずしも邪神の頭をまるごと吹き飛ばしてしまったのである。

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