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第41話 剣聖への道 〜萬寿香(マンジュコウ)〜 その8

「す、凄いよお兄ちゃん!」


妹の真っ黒な瞳かららひしひしと伝わる羨望の眼差し。う~ん気持ちいい~。そうだ俺は道端で竜の鱗を拾って以来、ずっとこの眼差しを求めていたのだ。




その時の俺は、もはやヤケクソだった――


「だ、だって、お兄ちゃんが九剣を使っちゃうと――勝負がすぐに終わっちゃうと思って……」


そんな強がりも、すぐに化けの皮が剥がれてしまうだろう。でも今さら後には引けないのだ。もちろん気迫や見た目だけでどうにかなる物では無いのは分かっているさ。


もしや、見つかるはずのない物を見つける振りぐらいなら……。


そんな甘い打算を俺は全力で振り払い。全神経を集中してあの時(前世でスーパーのレジのバイトをしていた時)の自分を思い出す。


もちろん俺が今から繰り出す技は『千年九剣』などではない。前世で培ったウルトラテク『瞬間小銭数え』である。


だって俺にはそれしか無いからな。


要するにさ、小銭をただ他のものに変えるだけじゃないか。それに他の時でも同じ様な事が出来てた時があったろ? 


そう。あれは中学生の時――同じ制服を着た全校生徒が集まった集会でも片思いだったあの娘の姿だけは一瞬で見つけることが出来じゃないか。つまりはそれと同じ要領だろ?




それは出来るはずの無い『千年九剣 第一層 絶対空間認識』を、俺が初めて使いこなせた瞬間だった。


正直言うと、自分でも出来るかなってちょっとは練習した事もあったんだ。でも――やっぱり『千年九剣』は俺が考えたデタラメの剣術。何処かで本気になりきれなかったんだろうな。


だが。


今、俺に見えている世界は景色や風景では無い。形も無く色も無い。それらは全て記憶となって一瞬にして俺の頭の中に描き込まれた情報だけの世界。


それは俺が初めて『絶対空間認識』で見る世界の姿であった。


そして、全てが記憶として俺の中に存在するならば――

文字や数字を自然に使いこなす様に、俺が今一番欲している情報(萬寿香の存在する場所)を記憶をの中から拾い上げる事など造作も無い事なのだ。


まったくこの世界は不思議な世界だ。何一つ能力を持たない俺でもこうして信じることで一つの能力に目覚めることが出来た。


俺と妹は、数十年に一度しか世に出回らないと言う珍宝『萬寿香』を手に、意気揚々とオルマル村へと山道を戻る。


しかし俺は、そんなお宝よりも妹に愛想をつかされなかった事の方が嬉しかった。そして何より俺は思うのだ。これからは俺も真面目に『千年九剣』の修行をしてみようかな、なんて――



だが。


今思えば――俺達兄妹にとって、このオルマル村への帰途ほど幸せな時間は無かったかもしれない……


妹はパンケーキの夢を、俺はこれからも続く妹との修行の日々を夢見て、会話は今まで以上に弾み、俺達はこのままずっと一緒に面白おかしく生きていけるとそう心の底から思っていた。


村の入り口で偉そうに大声を張り上げる、あの召集令状を手にした役人を目にするまでは――




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