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第28話 剣聖への道 〜真剣〜 その9

さて。余談ではあるが


律儀でバカ正直な妹は――結局俺が「岩を2つに切れ」と言った言葉に終始拘っていたらしい……。もしその言葉さえ無ければ妹の修行はもう1年以上前に終わっているはずだった。


結局のところ俺が悪かったんです。師匠っぽく格好をつけて「自分で考えろ……」みたいな雰囲気をかなり出していたから――妹は岩を割るのでは無く、ずっと本気で岩を切ろうとしていたと言う顛末。


いや、そんな出来もしない事を妹は健気に考えて考え抜いて……。こんなね、風の声を聞き、雲の流れを読み、そして空を飛ぶ鳥に学び……


と……少々度が過ぎているのは昔からのこと。


毎回、俺の思った以上の結果を出してくれる妹だが、今回ばかりは俺も開いた口が塞がらないのである。




そして次の日。


俺は妹の成長を確認するために、ぬかるんだ山道を歩いて、例の巨岩へと向かった。


俺が妹と一緒にあの巨岩の前に向かうのは今日が二度目だ。成功するまで助言はしないっていうのが、暗黙の了解みたいな感じだったけど……。今日この道を二人で歩くと言う事は、つまり今日は第三層から四層への昇級試験というわけだ。


雪の降るあの日とは違い、今日は錆びついた一振りの剣を妹が握っていた。俺はもちろん妹に、岩を切るのでは無く割るのでも問題無いことを伝えている。



いやいや、もう分かってますよ私は。


昨日の帰り道に見た、真っ二つに破れた岩だって、歩きやすいな~なんて言いながら踏みしめてた粉々になった岩だって、全部、あの寂びた剣でやっちゃったんだよ。妹のやつがさ。


そして。


妹は岩の前に立つなり――


「ごめんなさいお兄ちゃん。この岩はどうしても二つには出来ないの。お兄ちゃんなら分かるよね」


そんな訳のわからない事を言って来るんです。しかも「分かるよね」って……。


この場では、さすがに「そんなの俺に分かるわけねぇでしょう」なんては言えないだろ。じゃぁどうしたら良いかって?


決まってます。もちろん黙るんですよ。気難しい顔してさ。


「……」


そんな俺の顔を見た妹は、何故か何かに納得した表情を俺に見せる。


その顔を見た俺は、静かに頷く。


(………何に頷いているかは自分でも分かりません。)


だが妹は、俺の頷きを許可と受け取ったようだ。その手に持った剣を持ち上げると、剣の柄に片手を添える様な不自然な形で剣を握った。


そして、おもむろに岩の様子を見渡すと。妹は迷うこと無く巨岩の一点に剣の先を押し当てる。


半身になった身体。剣を振りかぶるのでは無く突き立てる様な動作。


それらは、前世で俺が見た漫画やアニメのシーンとは全然違っていたけれど。今から妹がやろうとしていることがアニメや漫画と同じなんだと言うことは、俺にも良くわかった。


意を決した様な妹の目が岩の一点を見据える。今まで見たこともない様な妹の真剣な表情。そんな妹の姿を俺は固唾をのむようにして見守った。


「私はお兄ちゃんのようにはまだ出来ない。だってこの岩の中に小さな亀裂が沢山入っているから。だから……これは、粉々にしか出来ない」


静寂の中。静かに妹がそう言ったかと思うと。柄に押し当てている手を前に突き立てる様にして、グイっと剣先に力を込めた。


次の瞬間。巨岩全体に細かなヒビが幾筋も現れ、それが瞬く間に岩全体へと広がっていく。


それは、本当に見事な光景であった。漫画やアニメの様にド派手なエフェクトなどこれっぽちも無いが、その岩が粉々になり、そして静かに崩れ落ちてゆく様は、もはや芸術的と言っても過言ではない。


それはまさに達人の技だった。漫画でもアニメでも見たことのない静かで美しい――それはまさに玄人好みの至高の技であった。


妹は自らが持つ最小限の力で、見事にピンポイントで岩の弱点を点いてみせたのである。




だが俺は、妹の成長を喜ぶ反面。その心境は非常に複雑だった。もちろんそれは、俺が昨日思った不安。それに妹が一歩近づいてしまった様な気がしたから他ならない。


妹が望むのであれば、デタラメだろうがそこに成長があるかぎりこの修行を続けることは間違ってはいない。ここまで来たなら、俺も覚悟を決めてこれからはそう思おう。


だが……。決して妹を戦争なんて言うくだらないものに巻き込む訳にはいかない。それだけは絶対にあってはならないのだ。




そしてその日の夜――


俺は妹と、ある一つの約束をした。





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