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第23話 剣聖への道 〜真剣〜 その4

とまぁ、前もって岩を割っておいたのも俺の演出の一つなんだ。正直に言うと本当に出来るとは思ってい無かったけど、これもやはり出来ると信じていたからなのだろうか……。


妹の熱い視線を受け流しつつ、まずは種明かし。


理屈は簡単だ。偉そうに説明するまでもなく小学生でも知ってる理科の実験と同じだよ。まずは、あらかじめ岩に何箇所かの小さな穴を開けておいて(それが結構苦労するんだけど……)「たぶん明日は冷えるなぁ~」なんて日の夜更けに、開けた穴に水を差し込んでおくだけだ。


すると次の日の朝には寒さで凍った水がその体積を増やして……パッカーンって岩を割っちゃうわけ。


水って凍ると1割も体積増えるらしからね。当然岩だってくさびを打ち込まれたように割れる(時もある)。


でもここが重要なんだ。今の妹はあくまで岩を剣で切ると思ってる――だから俺が岩を切ったと思ってる。でもはっきり言って切るのは無理だ。それこそ剣の先からとんでもテクニックの『真空波』なんかを発射しなきゃあんな大きな岩を切れる訳がない。


「岩はさ。太古の時代から切るものじゃなくて割るものなんだよ。」


ん?じゃあ俺みたいに、水が凍るのを利用して割るのかって?いやいや。それは間違ってはいないけど俺のやり方だ。それに、そんな割り方じゃ妹に剣を持たせた意味が無いじゃないか。これは剣の修行だよ。剣を使わなきゃ意味無いだろ?


だから岩の割り方ってやつを、これからひたすら考えるんだよ。妹がさ。


たたいて、突き刺して、触って、撫でて、匂いをかいで、音を聞いて。己の持てる感覚――いわゆる五感ってやつをフルに使って目の前にある岩と言うものを必死で分析するんだ。そして考えて考え抜いた末に、おそらく妹は成し遂げるだろう。『信念を持った者には必ず結果がついてくる』それがこの世界の法則だ。


そして、その時に妹が身につけた物はなんだ? 


巨岩の割り方か?


「違うな――」


この第三層で得られる力は、人間として可能な全ての感覚を駆使して対象を観察する力。そしてその中から確実に相手の弱点を見つけ出す能力。


それが『絶対分析』つまり何の先入観も持つこと無くありのままを正しく見て、深く知って、正しく判断する技術。


「心は静かに水面のごとく、思考は深い海の底まで、そして感覚は鋭い刃物のように――」


もちろん妹なら。絶対に会得してくれるはず。なんて思ってたんだけど……。




でも………。それが今回はちょっとおかしいんだ。


妹が第三層の修行に入ってから、なんの成果も得られないまま、もうすぐ二年が過ぎてしまいそうなんだよ。


最近は、岩のところにもあんまり行って無いみたいだし。意味もなく俺の薬草採取や、街まで薬草を卸に行く俺に付いて来たりしてさ。


それから、時々空をぼ~っと眺めてみたり、かと思えば橋の上で川に1日中釣り糸を垂らしてみたり……。なんだか上の空なんだ。


これ。絶対に飽きてるよね。


そう言えば、先週なんか冬支度の薪割りなんかも全部やってくれた。


今までは、兄の俺が心配するぐらいずっと修行に打ち込んでたからさ……え?これは、もしかして恋の病?俺の知らないところで好きな男の子でも出来ちゃったのか?


なんて疑ったりもしたよ。妹だってもうすぐ十二歳。


年頃だもんな………



それともさ。もう、やっぱり無理すぎて、妹は、本当にヤル気がなくなっちゃったんだろうか……。


でも俺は最近「それでもいいか」と思い始めている。もともと気の優しい妹に本当は剣なんて似合わないよ。


今日は、付いて来なかったけど、妹が大きくなるまで一緒に山で薬草を採取して、街に出てそれを売って……。そんな日々でも俺は一向に構わないんだ。


あの時、俺があんな嘘さえつかなければ、多分そんな生活をしていたんだから……。




もうすぐあの季節がやって来る。遠くに見渡す山々は既に雪化粧を始めていた。

 

だが、そうは言っても今日は日差しがほっこりと暖かい。冬はもうすぐ目の前だと言うのに、こういう日を小春日和と言うのだろうか。


「どうせ修行もサボってるんだからレイラも連れてくればよかったかな」


そんな事を考えながら、俺は日当たりの良い丘の上で、妹が用意してくれた弁当のバンを頬張った。


「梨のジャムか……」


俺の口の中に梨の甘い香りがいっぱいに広がった。


1つ目のパンをペロリと平らげた俺は、続いて2つめのパンに手を伸ばす。するとその時。パンが入っていた袋の中なら小さなメモ書きがはらりと落ちた。


妹らしい丁寧な文字で『お弁当を食べたら今日はすぐに帰ってきてください』と、そんなことが書かれている。


そう言えば、今朝妹が午後から雨が降ると言ってた。多分俺が忘れないようにとこんなメモ書きを入れておいてくれたのだろう。


「まさか、こんな天気の良い日に雨なんて……」


しかしそうは言っても、可愛い妹の頼みなのだ。俺はその可愛い顔を立てて、今日は家に早く帰ってやることにした。


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