第21話 剣聖への道 〜真剣〜 その2
さて。
妹の剣術の師匠たる俺は、ここに来て何でも出来ちゃう可能性ってやつと、いわゆる現実の狭間に悩まされていた。
そう。今の俺が直面している難問は――そろそろ妹に剣を渡すか渡さないか問題である。
「剣を使った修行をさせてもっともっと妹を強くしたいけど、やっぱり可愛い妹は危ない目には合わせたくない……。けど――やっぱ強くしたい!見てみたい!我慢できない。でも怪我させたくない――」
実際に文字にしてみるとかなり格好悪いが――当然これは口に出した声ではなくて心の声である。俺はこの押し問答をかれこれ5日間ほど続けているのだ。
そりゃもう、この世界の理について考えてたついこの間よりもずっと真剣に考えてる。まさに大問題なのだ。
もちろんこの5日の間にああだこうだと色々と考えました。でも結局いい案は思い浮かばなかったの。
で、結局そんな数多の『いまいち案』の中からやけくそで最終選考に残ったのは――板前の修行みたいに「お前ぇさんにはまだまだ剣は握らせらんねぇ」って言う頑固親父作戦。
だけど、よくよく考えたらあれは師匠の優れた技術を見て盗む修行法だ。はっきり言って盗むべき技術なんて全く無い俺には、とうてい不可能な修行法だった――。
てことで、ここはやっぱり定番の木刀から始めるしか無いのである。
まず俺は、町に出たついでに一振りの木刀を買ってこれ見よがしに家の入り口に立てかけておいた。もちろん俺は「いつ木刀に気が付くかな?」なんて内心ワクワクしながら待ってるわけ。まるでクリスマスイブに子供の枕元にプレゼントを置いておくサンタさん(父親)の気分。
予想より少し遅れて、妹は早朝の水汲みの途中にこの木刀に気がつく。そして駆け足で部屋に戻ってくるなり歓喜の一声を上げた。
「お兄ちゃん!あの……扉の外に立て掛けてある木刀って……!」
妹は、もうこれ以上無いかってぐらいにむちゃくちゃ嬉しそうだ。
でも俺は「そうだ嬉しいだろ?お前がずっと憧れてた剣だぞ」なんて本心は声に出さない。
俺は食卓の椅子に腰掛けて温かいミルクティーを飲みながら――内心は踊り出したい気持ちを抑えながら、素っ気なく答えるのだ。
「そろそろ必要だと思ってな――」
この一言だけ。そんなつれない素振りがいかにも師匠っぽくて格好いい。
初めて木刀を手にした妹もご満悦だが、もちろん俺も妹の喜ぶ姿を見れた上に師匠っぽさも演出できて大満足。
そして、続けて一言。
「お前用にあつらえた剣だ。振ってみるといい。」
本当は子供の練習用のおもちゃに近い木刀モドキだけど、子供用だからまだ幼い妹用だと言ってもまるっきりの嘘ではない。
しかし、許可を得て嬉しそうに剣を振り下ろす妹の姿を見た瞬間に――
俺は得も言われぬ違和感を感じてしまったのだ。
「違う違う!そうじゃ、そうじゃなぁい!」
まさにそれは、心の奥底から湧き上がる様な叫び。そして決定的な違和感。
正直に言おう。
俺は木刀を振っている妹の姿が、そいこらで木刀を片手に『勇者ごっこ』をしている鼻垂れ小僧達の姿と重なってしまったのだ。
もうね、なんか地味過ぎるっていうか――
だってこれは『千年九剣』。千年も負けを求め続けた剣聖『千年灸』……もとい『千年救敗』大先生が編み出した秘剣だよ。
木刀なんかでお茶を濁してどうするんですか俺!
じゃぁどうすれば?
とその時、俺の脳裏に一つの名シーンが浮かんできたのであった。
そういえば俺さ。前々からどうしても言ってみたい台詞ってのがあったのよ。いやいや抜かったわ。どうしてこのタイミングで忘れちゃってたんだろう――
ほら。誰でも知ってるあの台詞ですよ。
『さあ。その剣でこの岩を切ってみろ……』
ってやつ。




