表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

18/101

第18話 敗北を知りたい妹 〜死神〜 その4

「貴様。口を慎め!」


先に少年の言葉に反応したのは死神と言われたレイラではなく、アイシアのほうだった。


だが、少年はアイシアの言葉を聞いてもその口を閉じる事はなかった。


「なんでさ。皆んなが知ってることだろう?」


「だから口を慎めと言っている。ここは帝都ではない。王都なのだぞ!」


たかだか大道芸人の少年の言葉である。しかしアイシアはその言葉に怒気を隠さなかった。なぜなら団長レイラへの侮辱は白騎士団そのものを侮辱したことと同意。つまりアイシアにとってそれは騎士団員である自分自身に向けられた侮辱と同じなのである。


普段は、温和なイメージのアイシアも、騎士団の中では若手の急先鋒である。もちろん剣聖に対する憧れも、騎士団に対する情熱も人一倍強い。


だからこそ、この目の前の少年の剣聖を蔑む言葉がどうしても許すことが出来ないのだ。


だが、少年はそんなアイシアの気持ちを逆撫でするかのように言葉を続ける。ただ、アイシアにも分かっていた。この少年はわざと怒らすような事を自分達に向かって言っているのだ。


「どうして姉ちゃんが怒るんだ?あんな奴、死神って言われたって当然だろう?」


なおも言葉を止めない少年に、アイシアは、もうその怒りを抑える事が出来なくなっていた。


「黙れ!それ以上言うと子供だからって容赦はせんぞ!」


怒気を含んだ大きな声が、一瞬にして賑やかだった王城前広場を静まり返らせた。


広場に集まっていた人々が、何事かと二人のことを注視する。


そしてその静まり返った広場に、今度は良く通る軽やかな少年の声が響き渡った。


「本当のことじゃないか。あのレイラ=バレンティンは、たった一人でいったい何人の人間を殺した?」


次の瞬間。


頭に血が登ったアイシアが、その懐に隠し持っていた短剣に手をかけた。


だがその一瞬を、この目の良い少年が見逃すわけがない。彼には目前の女の、後ろに引かれた左肩。僅かに持ち上げられた右手首。前に傾き始めた上半身。そして軽く落とされた重心。それらの変化が全て見えているのである。


アイシアの動きの変化を見た少年は、咄嗟に傍らに置いてあった木の棒を右手に掴み取る。そして不自然にしゃがんだ体勢から、無理矢理にアイシアに向かってその棒を一直線に突き立てた。


それは驚くべき素早さでアイシアの左腰へと伸びる。


だが、その棒の先がアイシアに届くには距離が足りない。


瞬時にそれを悟ったアイシアは、その動きを止めること無くそのまま腰にひそませた短剣の柄を握った。


しかし……


「くっ、くそっ……」


短剣が抜けない。


アイシアが手にかけた短剣の柄が、いつの間にか少年の突き立てた棒によって押さえつけられているのである。


「どうして……」


アイシアにはその一瞬に何が起こったのかさっぱり分からない。彼女にとって予想もつかない事が起きているのである。


しかし、傍らで事の次第を見つめていたレイラには、もちろん見えていた。もちろん、今の一瞬でこの少年がなにをしたのかを。


少年は棒を掴んだ瞬間。確かに棒の中央を掴んでいた。そしてその棒を真っ直ぐアイシアに向かって突き出していた。


アイシアはこの瞬間にリーチが足りないと判断したのだ。


しかし少年は、途中で棒の持ち位置を変えている。突き出された棒を滑らせるようにして持ち位置を一番後ろへと変えているのだ。そして最後に一見いっけん不自然に見えた体勢を一気に前方へと傾けた。


その事によって、届かないと思われた棒の先端が、見事にアイシアの短剣の柄を押さえつけたのである。



それは、剣聖レイラの目から見ても、全てが理に適った無駄のない動きであった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ